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原発の安全性、本当に高まったか 高浜3、4号再稼働、課題を検証(福井新聞)

2016-01-21 11:49:43

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新規制基準に基づき、原子力規制委員会の審査に合格した福井県内の原発がいよいよ動きだす。関西電力高浜3号機は28~30日に再稼働する予定で、4号機も2月下旬を目指して準備作業が進む。安全性は本当に高まったのか。

万が一、事故が起きた場合の避難体制は万全か―。大飯3、4号機以来、約2年半ぶりとなる県内原発再稼働の課題を探る。



 「炉心の中が全部溶け落ちたとしても、(放射性物質は)格納容器の外には出ないとみている」。昨年12月の福井県会全員協議会。原子力規制庁の山形浩史規制総括官は、冷却手段の多様化など安全対策を説明した上で、高浜原発3、4号機の安全性をアピールしてみせた。

 東京電力福島第1原発事故では、地震と津波で全電源を失って原子炉が冷やせず、燃料が溶け落ちた。この事故を教訓に、規制は大幅に強化された。

 高浜原発の場合、想定する地震の揺れを550ガルから700ガルに引き上げ、津波対策として海抜8メートルの防潮堤を設置。さらに「重大事故は起こりうる」との前提に立ち、事故になったとしても進展を防ぐ設備や手順を新設した。電源や事故時の冷却手段を増やし、水素爆発を防ぐ設備も設けた。

 規制委は安全審査で厳格な姿勢を貫き、審査には2013年7月の申請から2年以上をかけた。福島の事故後、全国で唯一再稼働した12年の大飯3、4号機は“暫定基準”だったが、今回は法的にも位置付けられたため「安全性はさらに向上した」(関電)という。

 関電が高浜3、4号機の新基準対応で追加したのは、重大事故対策などに使う約720設備。対策費は1030億円超に上る。問題はこれだけ追加した設備を、実際に使いこなせるかどうかだ。

 昨年12月、2基の安全性を検証した県原子力安全専門委員会から答申を受けた西川知事は「最後はやはり人間であり、訓練だ」と強調した。安全対策が「ハード面中心に傾いている懸念もある」とし、訓練や教育などソフト面の充実を継続的に監視していく考えを示した。

 高浜原発の大塚茂樹所長は「福島のような事故を二度と起こさないとの決意で訓練を重ねてきた」と胸を張る。新基準で配備した設備などを使った訓練は千回を超えたという。県専門委は報告書で、関電の人材育成について「発電所の設備全般を熟知し、プラントシステム全体を俯瞰(ふかん)できる人材を育成していくこと」と注文を付けた。

 新基準ではテロ対策も求めている。ただ、事故時に格納容器の破損を防ぐフィルター付きベントの設置をはじめ、意図的な航空機衝突などに対応する「特定重大事故等対処施設」の完成はまだ先だ。

 規制委は同施設について「信頼性向上のためのバックアップ対策」を理由に、設置の猶予期限を原発ごとに「審査合格から5年」と変更。高浜3、4号機の場合は20年までの猶予を与えられた。

 テロ対策は「あらかじめシナリオを想定した対応操作は困難」(規制庁)という部分もある。県専門委の議論では、一部委員から使用済み燃料プールのテロ対策を不安視する意見も出た。

 県専門委は「テロ全体への対応には国の積極的関与が重要で、関係省庁と連携を図るべきだ」と規制委に注文した。規制委のみならず、自衛隊などを含めた国全体での対策が重要だ。

http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/npp_restart/87881.html

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  「国としての事故対処の最前線を担うべき立場で、自覚に欠けた」。東京電力福島第1原発事故で、旧原子力安全・保安院の現場の保安検査官は消極姿勢だった―と、政府の事故調査・検証委員会は報告書で問題視した。

 

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 東日本大震災が起きた5年前。地震発生翌日の3月12日、同原発にいた保安検査官5人は放射線量が上がったため本庁の了承を得て退避した。政府の指示で翌13日に再び検査官4人が戻り、情報を集めたが、東電社員から資料を受け取り報告するだけだった。

 検証委は「退避判断が適切だったかは甚だ疑問。(現場でも)直接監視せず、事故対処の検討に加わって指導監督することもなかった」と批判した。

 関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の再稼働で、重要になるのは現地の規制体制や保安検査官の能力だ。県は再三、原子力規制委員会に現地の人員体制強化を求めている。

 現在、県内の原発サイトごとに4カ所の規制事務所があり、職員は計25人。高浜は6人が常駐し、うち5人が保安検査官だ。検査官は平時、年4回の保安検査などで事業者の保守管理をチェック。事故時は原発内の緊急時対策所に詰め、状況を報告したり、現場を監督したりする。

 検査官は規制委発足後も大半が旧保安院から引き継がれ、高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市)に関し保守管理の不備を指摘するなど、平時の活動に厳しく臨む姿勢が見える。一方、事故が発生した際の対応はどうか。

 「旧保安院時代は(重大事故時に)現場がどのタイミングでどう動くかがはっきりしない部分もあったが、規制委になって指揮命令が明確になった」。敦賀市に駐在する規制庁の小山田巧・地域原子力規制総括調整官はこう強調するが、事故時は検査官の判断力や動き方も重要になる。県原子力安全専門委員会は昨年12月の報告書で、現場の初動対応能力を向上させる訓練の充実を規制委に求めた。

 検査官はメーカーや検査会社出身など中途採用者も多く、原子炉の専門知識や事故対応の経験がある人ばかりではない。規制委は現場実務の研修など人材育成を進めているが、まだ途上だ。

 旧保安院の初代院長を務めた電力土木技術協会の佐々木宜彦会長は「保安院で検査官らの能力育成を掲げたが、組織として統一した仕組みができなかった」と反省する。その上で「規制委も同じ問題を抱えている」と指摘した。

 規制委は旧保安院の教訓を踏まえ「現場主義」(田中俊一委員長)を掲げるが、今も全国の原発22基の安全審査を抱え、書類審査中心の体制になっている実態は否めない。

 現地体制の理想として挙げられるのが、米原子力規制委員会(NRC)だ。現地事務所の人員割合は日本に比べて高く、原子力潜水艦に乗務していた海軍出身者など経験豊富な検査官も多い。

 佐々木氏は「現地体制を強化するには、経験を積んだ人材が必要。規制委は現地の役割をいま一度見直し、人材育成を計画的に進めるべきだ」と訴えた。

 

http://fukunawa.com/fukui/9146.html