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被災地路線価:「復興意欲そぐ恐れ」 評価額「ゼロ」も(毎日)

2011-11-01 16:11:13

津波で壊滅的な被害を受けた宮城県女川町=2011年3月14日、手塚耕一郎撮影
相続税などの算定基準となる路線価に、震災による地価の下落を加味するために1日公表された「調整率」。阪神大震災時の最大の下落率25%を各地で大きく上回り、相続税や贈与税の負担を緩和することになりそうだ。だが、最大80%というあまりにも大きい下落率を巡り、被災地からは先行きを不安視する声も出ている。

津波で壊滅的な被害を受けた宮城県女川町=2011年3月14日、手塚耕一郎撮影




 ◆女川で

 海辺に広がる平地の7割以上が津波被害に遭い、全半壊家屋が3000戸を超えた宮城県女川町。同町総合体育館で避難所生活を送る佐藤清志さん(60)も1.5キロ先に海を望む自宅を流された。町の一部で0.2倍(下落率80%)と設定された調整率について、佐藤さんは「家と土地は一生に一度の買い物と思って財産をつぎ込んだ。二束三文で評価されてはたまらない」と話す。

 町中心部にある土地約200平方メートルと2階建て新築住宅を佐藤さんが約2000万円で購入したのは20年ほど前。現在も約700万円のローンを残すが、被災した勤務先の水産加工場は休止したままで、銀行への返済のめどは立っていない。

 津波被害を受けた土地での自宅再建には抵抗感もあり、佐藤さんは「(調整率を基に)土地を買いたたかれるようなことになるなら納得がいかない」と懸念する。「銀行でも国でも構わない。正当な額で土地を買い上げてもらい、高台に移り住みたい」とこぼした。【平川哲也】

 ◆福島で

 「『再建をあきらめろ』と国が宣告したように感じるのではないか」。東京電力福島第1原発の警戒区域(20キロ圏内)の福島県浪江町に自宅がある不動産鑑定士、鈴木伸之さん(51)は、原発周辺で調整率設定を断念しながら課税上の土地評価額を「ゼロ」にした国の姿勢が被災者の復興意欲をそぐ恐れがあると危惧した。

 鈴木さんが驚いたのは、事務所を構える南相馬市などにあった旧緊急時避難準備区域も「ゼロ」とされたことだ。立ち入り禁止の警戒区域は土地利用ができないため厳しい評価は予想できたが、緊急時避難準備区域は9月30日に指定が解除され、高校が再開されるなど日常が徐々に戻りつつある。「(評価額がゼロでは)再建を目指す企業や被災者が土地を担保にお金を借りられなくなる」と不安を口にした。【清水勝】

 ◆浦安で

 市内の半分近くが調整率0.6倍(下落率40%)と、阪神大震災より下落率が大きい千葉県浦安市。市域の8割以上が液状化の被害を受け、7月1日時点の基準地価は市内12地点中7地点で「判定困難」とされた。同市舞浜の一戸建てに住む主婦(37)は「ある程度は覚悟していたが改めてショック。安心して住み続けることができる街に戻してほしい」と顔を曇らせた。JR新浦安駅近くのマンションに住む男性会社員(42)も「ここまで低いと街のイメージ低下への影響が心配になる」と話した。

 ただし、市内の不動産会社「明和地所」社長、今泉太爾(たいじ)さん(33)によると、市内の不動産取引は6月以降に戻り始め、中古戸建ては震災前から1、2割程度下落したが、新築戸建てや中古マンションは堅調だという。今泉さんは「調整率は今年だけのもので、かつ最も深刻な値で、実際に売買される価格にはほとんど影響がないのではないか。数字が独り歩きしないことを願う」と語った。【山縣章子】

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20111101k0000e040061000c.html