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中小企業ばかりが泣く電力値上げ 「2年で4割値上げ」に悲鳴 (日経BP)

2012-02-23 13:13:14

「こんなに節電しているのに、燃料調整費が上がっていて電気料金はちっとも下がらないんです。しかも東京電力は4月に企業向けを17%も値上げするって言うし・・・。たまりませんよ」   東京都青梅市を中心にスーパーやパチンコ店など73店を持つオザム(東京都青梅市)の福島光二・常任監査役経営企画室長は肩を落とす。

 昨年6月から東京電力管内で実施された「電力使用制限令」に伴い、オザムでは店舗や事務所の節電を徹底してきた。照明器具の清掃に始まり、スポット照明や演出用照明の消灯、作業時間を調整して休憩室や事務室、バックヤードの通路照明も消した。冷蔵庫も照明を付けるのは上段だけ。温度設定もこまめに見直し、吹き出し口や吸い込み口は定期的に掃除する。

 バックヤードの機器を使わないときはコンセントを抜き、トイレのエアータオルや温水便座の電源も切った。顧客に迷惑がかからないよう、店舗の空調温度の調整などは極力行わないようにしたが、エレベーターは土日以外に停止するなど、地道な節電を従業員一丸となって続けてきた。

 各店舗では10日ごとに電力メーターを確認。電力消費量をこまめに把握することで、その月の電力料金を推定し、不十分な場合は追加の節電対策を講じてきた。

節電努力が消えてしまう


 さらに、契約電力が500キロワット以上の3店舗には、省エネに関するコンサルティング事業を手がけるエスコ(東京都新宿区)の電力消費量の監視装置を導入。電力使用制限令は、15%削減を達成できなかった場合に、500キロワット以上の事業所には100万円以下の罰金を課すとしているためだ。監視装置が警報を発したのは、設置後1度だけ。福島室長は「装置を付けて“見える化”したことで、店長の意識が変わった」と効果を実感する。

 努力のかいあって、7月の電力使用量は前年同月比17.2%減。8月には同25.6%減を達成した。使用制限令が終わっても、前年同月比で15%近い削減を続けている。ところが、電気料金は「前年とほとんど変わらない」(福島室長)。昨年12月は前年同月比14%の削減にも関わらず、電力料金は同98.6%だったのだ。

 その理由が、燃料調整費の高騰だ。電力会社は、火力発電の燃料となる原油やLNG(液化天然ガス)、石炭の価格の変動に応じて、毎月の電気料金に自動的に燃料費を加算する「燃料調整費制度」を採用している。近年の燃料価格の高騰に合わせて燃料調整費も上昇。この2年で2割近くも上がった。昨夏からの必死の節電努力は、燃料調整費の高騰で相殺されてしまったわけだ。

 「4月に17%値上げになったら、この2年で35%も上がる計算です。企業努力だけでは吸収できないところまで来ています」と福島室長。オザムが東電に支払っている電力料金は、年間11億円。売上高の約2%に上る。福島室長は、照明のLED化や監視装置の増設など、設備投資なくして値上げの影響を抑える手段がないのだと明かす。

 「コピー用紙の裏は使うな!」(朝日新書)などで知られる環境経営戦略総研(東京都千代田区)の村井哲之社長は、「東電の値上げで泣くのは、中小企業とスーパーなどの業務系ばかり」と憤る。大企業や比較的規模のある工場には救済策があるが、中小と業務系にはないためだ。

 東京電力が4月にも値上げする50キロワット以上の契約は、自由化領域と呼ばれる。PPS(特定規模電気事業者)などの参入が認められており、自由競争だ。一方、家庭用と言われる50キロワット未満の契約については、電力会社は規制されており、国の認可に基づいて電力会社が料金を定めている。

 電力会社は、50キロワット以上の電力料金メニューを広く公開してはいない。企業側から電力会社に問い合わせることで、初めてどういった料金メニューがあるのか、割引が受けられるのかがわかる。

割引メニューは大口需要家しか使えない?


 東電は今夏、節電に協力する企業向けの割引メニューを用意する見通し。だが、東電は「自由化領域なので、料金メニューや割引内容については公表しない」方針だ。エスコ特販・DPS事業部の工藤孝親氏によれば、「自由化された当初は料金メニューが公開されていたが、どんどん見えにくくなっている」という。

 一般に割引は、工場などの産業用が大きく、店舗などの業務用は小さいといわれる。電力会社は「需給調整契約」といったメニューを持っており、需要の増加で供給力に不安が生じたときには、需給調整契約を結んだ工場などが電力消費量を抑える。この契約は、電力会社の要請に応じて止められる工場などに限られる。店舗は、急に電力消費量を抑えるのが難しいためだ。

 電力料金の仕組みや割引の基準はそもそも曖昧なもの。大口需要家と言われる500キロワット以上になると、大口割引などが適用されるが、「企業規模や東電との付き合いの深さによって、割引度合いが大きく異なる。なかにはビックリするような激安料金の企業もある」(電力業界関係者)。

 しかも、「東電は夏に向けて、契約電力を50キロワット以上、下げることを事前に約束すれば、大幅な割引を受けられるメニューなどを準備しているようだ」(電力業界関係者)。しかし、既に昨夏、節電に取り組んでいることを考えると、さらに50キロワット落とすことができるのは、かなり大規模な事業所に限られる。

 ある業務用スーパーの経営者は、「節電に努めれば値上げ分が相殺されるように、割引メニューを提示してほしい」と東電の担当者に詰め寄ったという。だが、東電の答えは「恒常的な割引プランは考えていない」というものだった。中小企業や業務系に、救済策は無いに等しい。この経営者は、「このままでは赤字に転落しかねない」と頭を抱える。

それでも東電から買うしかない


 城南信用金庫が東電からPPSのエネット(東京都港区)に契約を切り替えると発表したように、電力会社を切り替えることで値上げの影響を抑えようと考える企業も多いようだ。

 だが、PPSに駆け込もうにも、「もう新規の顧客を受け入れられないPPSが大半だ」(関係者)。PPSが供給できる電力量は、電力会社よりも桁違いに少ない。「既存顧客への供給量の増加に必死で対応している状況で、新規顧客どころではない」という声も聞こえてくる。

 日本電力卸取引所で調達する手もあるが、これも使えそうにない。「時間帯によっては、スポット価格がキロワット時当たり30円近くまで高くなることもある。取引所での調達額は東電から買うよりも高い」(日本電力卸取引所)。

 電力市場は自由競争だと言いながら、事実上、電力会社の独占にある現状では、東電から電力を購入し続ける道しかない。節電などの企業努力で値上げを吸収することを考えない限り、業績に大きなダメージが及ぶ。

 オイルショック直後は、前年比150%といった凄まじい電力料金の値上げが実施された。日本の製造業の省エネが世界的に見ても進んでいると言われるのは、オイルショック当時に猛烈な省エネに取り組んだためだ。それから三十数年。日本の電力消費量は2.5倍に膨れ上がった。増えたのは業務系と家庭だ。

 環境経営戦略総研の村井社長は、「オイルショック後の製造業のように、業務系にはまだ節電の余地がある。例えば流通業の深夜営業は、赤字になる時間帯もある。勇気を持ってやめることも必要かもしれない」と進言する。

 東電の値上げは、すんなりと認められるものではない。値上げの前に、まだまだやることがあるのではないかという疑問も拭えない。特に、中小の製造業にとっては、会社の存続すら揺らぎかねない問題だ。それでも、値上げが行われるのなら、値上げを契機に一層の節電や業務の見直しを図り、厳しい時代を生き抜ける企業体質へと変わっていくことを期待したい。既に節電努力をしている企業に鞭を打つような期待で心苦しいが、オイルショックすら乗り越えた日本企業になら、必ずできると信じている。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120221/227451/?P=1