HOME10.電力・エネルギー |東電を矢面に立てる経産省の姑息さ (DIAMOND ONLINE) |

東電を矢面に立てる経産省の姑息さ (DIAMOND ONLINE)

2012-04-06 13:12:38

政策の妥当性が問われる経済産業省。この役所はもう不要ではないか
政策の妥当性が問われる経済産業省。この役所はもう不要ではないか


4月1日から東電の企業向け電気料金が値上げされ、当然ながらメディア上では東電への批判が目立ちます。値上げに至るまでの東電の対応のずさんさを考えるとそれも当然ですが、ある意味で東電以上に批判されるべきは経産省であることも忘れてはいけないのではないでしょうか。

東電の対応はひどい


今回の値上げに当たっての東電の対応は非難されて当然です。通常1年の契約期間満了までの間は値上げを拒否できることを説明しなかったことはもちろん、値上げが必要である根拠も十分に説明しているとは言えません。

例えば、石油や天然ガスの輸入コストが増大するのはやむを得ませんが、為替レートが前回の料金改定時の水準(1ドル107円)のままなのか、原油や天然ガスの価格をいくらに設定しているのかも不明なままです。

17%という大幅な値上げを強いる以上は詳細すぎる位の根拠を示すべきなのに、それを怠っているというのは、東電が未だに独占的な地位(自由化された企業向けでも94%のシェア)にあぐらをかいているか、詳細なデータを公表すると不都合が生じるからのどちらかしかありません。

そして、何より問題は、まだリストラが不十分なのに値上げを強行したということです。東電のHPには10年間で合計3兆3000億円のコストダウンが明示されていますが、それが本当に最大限のリストラと言えるのでしょうか。

例えば、人件費についてみると、一般社員の給与は2割しかカットされておらず、りそな銀行に公的資金が投入されたとき(3割カット)より甘いのです。

また、コストダウンの内訳を見ても、3兆3000億円の8割がフロー(毎年の経常経費)のコストカットで、ストック部分のリストラはまったく不十分です。東電が法的整理(破綻処理)の道を選んでいれば、既存株式(時価総額で3000億円)、金融債権(3兆8000億円)のカットのみならず、核燃料再処理などのための引当金(3兆7000億円)の多くも取り崩せ、その場合にはストックの部分で数兆円以上のリストラを行えるはずです。

政府から公的資金を合計3兆5000億円も受け取りながらリストラは不十分、そして値上げに関する説明もまったく不十分であるにもかかわらず、17%もの値上げを行うというのは、やはりおかしいと言わざるを得ません。

経産省の罪を糾弾すべき


ただ、私は、今回の値上げについては東電と同等かそれ以上に経産省の罪も糾弾されるべきと考えています。

まず電力の安定供給の責任は東電と経産省のどちらにあるのでしょうか。経済産業設置法第4条(所掌事務)の第53項に「電気…の安定的かつ効率的な供給の確保に関すること」と明示されているように、最終責任が東電ではなく経産省にあることは明らかです。

かつ、所掌事務には「安定的かつ“効率的な”供給の確保」と書かれており、電気事業法第1条(目的)にも「電気の使用者の利益を保護」という表現があることから、経産省には電力供給に関する国民負担を最小化するよう努める責務もあると考えられます。

“電力供給に関する国民負担”とは、東電に投入される公的資金と電力料金値上げ分の合計です。東電の再生に失敗したら公的資金は国民の税負担に化けるし、税金投入も電力料金値上げも国民にとっては同じ負担増だからです。

しかし、経産省は国民負担の最小化を実現しようとしているとは考えられません。東電を債務超過に陥らせない(=破綻処理させない)ためだけに公的資金を投入し続ける一方、東電の電気料金値上げについては何も自発的なアクションを起こしていないことから、それは明らかです。

こう言うと、企業向けの電力市場は自由化されており、東電が政府の関与なしで電力料金を決定できるのだから、経産省は値上げに口を挟めないのでは、と思われるかもしれません。

しかし、電気事業法の第30条(業務の方法の改善命令)では「経済産業大臣は、電気の供給の業務の方法が適切でないため、電気の使用者の利益を阻害していると認めるときは、(電力会社に対して:筆者注)その供給の業務の方法を改善すべきことを命ずることができる」と定められています。かつ、その対象は規制市場に限定されません。

即ち、例えば、契約期間満了までは値上げを拒否できる旨の周知徹底を最初から東電に命じることもできたはずですし、値上げが必要な根拠となるデータなどをもっと詳細に公表させることもできたはずです。そして何より、大幅な値上げが必要と分かった時点で、国民負担を最小化させるためにストック部分の更なるリストラをすべく、東電の法的整理(破綻処理)に踏み切ることもできたはずです。

しかし、経産省はそうしたアクションを自発的に取ることはありませんでした。それどころか、例えば契約満了期間前の値上げに関する東電の説明不足がメディアで発覚すると、枝野経産大臣は「空いた口がふさがらない」と発言しました。東電に対して業務の改善を命ずる権限を持つ大臣が、その権限を行使して国民負担を最小化しようとするどころか、評論家のような発言をしたのです。無責任極まりなく、それこそ空いた口がふさがりません。

今からでも東電の法的整理をすべき


即ち、経産省は、電力料金値上げの責任を東電だけに押し付け、東電の陰に隠れて非難されないようにしているのです。その根源は、経産省が昨年の段階で東電に対する対応を間違えたことに起因していると言えます。

これまで経産省は、電力の安定供給という責任を果たすに当たって、電気事業法の規制の下で東電に任せてきました。平時ならばこうした対応で良いのですが、原発事故以降は明らかに非常時が続いています。

東電が危機管理を含めた経営に失敗して実質的に債務超過の状態にあることを考えると、非常時への対応として、東電よりも経産省が前面に出て電力の安定供給に努めるべきでした。具体的には、東電を完全に国有化した上で破綻処理を行い、経産省が電力の安定供給と被災者への補償に責任を負いつつ、経営陣の一新とストック部分を含む徹底的なリストラを断行すべきでした。

しかし、実際には、経産省は原子力損害賠償機構を設立して公的資金という輸血を続けて東電を債務超過に陥らないようにすることで、平時と同様に東電に電力供給の責任を負わせ続けたのです。

自由化された企業向けの電気料金の値上げについても、経産省さえその気になれば最初から何らかのアクションを取ることができたのです。

こうしたその場しのぎの対応の延長で、今度は、1兆円の資本注入、それを正当化するための形だけの国有化や次期会長選びと、またその場しのぎの対応が行われようとしています。

この状態では、公的資金という輸血で潰れないでいる東電としては、電力の安定供給を続けるには電力料金の大幅値上げに走らざるを得ません。かくして、これまで東電ビジネスで美味しい思いをしてきた金融機関などは損することなく、真面目に電気料金を払い続けてきた企業や国民に負担がしわ寄せされているのです。これほどの不条理はないのではないでしょうか。

ついでに言えば、4月5日の大手紙一面には、「政府は1兆円の出資で議決権の過半を得て、東電を一時的な公的管理に置く方針を固めた」という記事が出ていました。これは明らかに、東電の電力料金値上げに対する世論の反発が強いのを見て、それを和らげるべく経産省がリークして書かせた記事でしょう。

よく考えると、この半年くらいの電力問題に関する新聞一面記事の多くは、世論の怒りを和らげ、かつ経産省が非難されないようにするという意図が見え見えの、経産省のリークに基づく観測記事ばかりです。

そんな姑息なことばかりやっていないで、経産省は、今からでも遅くないので一刻も早く東電の完全な国有化と法的整理(破綻処理)を行うべきです。東電のストック部分のリストラもしっかりと行い、発送電分離も早く導入して電気料金にも競争メカニズムが働くようにし、電力料金の値上げが最小限に止まるようにすべきです。

東電や銀行といった既得権益者の利益の擁護を優先することを止め、電気事業法第1条に謳われている「電気の使用者の利益の保護」を最優先できないならば、政治の側が“経産省の破綻処理”をすべきではないでしょうか。http://diamond.jp/articles/-/16979?page=4