2018年(第4回)サステナブルファイナンス大賞受賞企業インタビュー② 優秀賞の丸井グループ「『RE100』加入、小売業初のグリーンボンド発行など、一貫性ある再エネ取り組み」(RIEF)
2019-02-22 21:08:15
第4回サステナブルファイナンス大賞優秀賞の受賞企業の一つは、丸井グループ。小売業として初めてグリーンボンドを発行、その資金使途を再生可能エネルギー発電の電力調達とし、自社の再エネ100%の目標に充当する仕組みを打ち立てました。そうした再エネ調達は、同社が進める「共創サステナブル経営」の一環として位置付けられています。フィナンシャルインクルージョン(金融包摂)もビジネスモデルに取り込んだ同社のサステナブル経営について、加藤裕嗣・取締役上席執行役員に聞きました。
――丸井グループは、環境配慮等に積極的に取り組んでおられますね。今回のグリーンボンド発行もその一つです。再エネ電力100%化も日本の小売業では初めてです。サステナビリティを企業経営において重視するようになった経緯を聞かせてください。
加藤氏:10年ほど前に、わが社もCSR推進部を作って活動をしてきました。ただ、CSRだと、どうしても社会貢献的なことが多く、あまりビジネスに結びつくという感じがありませんでした。そこで、3年ほど前からESGに代わって、事業の上で社会的な課題を解決していくニュアンスが強くなりました。環境問題も同様に、事業の中で取り組んでいこうとなっています。
――サステナビリティ経営(共創サステナビリティ経営)を宣言されていますね。サステナビリティを経営方針に盛り込んだのはいつからですか。
加藤氏:4年前に統合報告書を初めて作りました。その中でわれわれの事業戦略、コンピタンスは何だろうと考えていく中で、「共創」というのがあるよね、となりました。当初は「共創経営」を標榜していましたが、ESGが出てきて、サステナビリ経営も必要ということで2年前くらいから「共創サステイナビリティ経営」と言っています。
――その中でCO2削減も意識されたということですね。
加藤氏:そうです。2年前にESG推進部を設立し、そこで我々のESG活動はどこが足りていないのかを知るために、複数の外部評価を得ました。1年目の評価では社会(S)の評価が非常に低かった。調べてみると、情報開示が足りていない面がありました。それで開示をしっかりしたり、人権方針などの社内ルールを作るなどした結果、Sの評価は上がりました。1年たってみると、今度はEの評価が相対的に低くなってしまいました。そこで2年ほど前から、Eの取り組みに改めて力を入れました。
――小売業自体は、CO2の排出量はそれほど多くないですね。
加藤氏:おっしゃるように、小売業はあまり環境負荷は大きくないものの、単体でみるとCO2排出量のうち電力のウエイトが一番大きい。全体のCO2排出量の約85%が電力なので、この電力を何とかしなくちゃということで、電力から手を付けたのです。
――まずは、節電ですね。
加藤氏:節電はずいぶん前からやっています。専門のビルメンテナンス会社がお店ごとの温度調節等をかなりきめ細かくやっています。4~5年前からLED照明に切り替えました。ただ、節電だけだと限界があるので、電力の中身を変えようということになり、2018年から電力の購入先を「みんな電力」に変えました。同社とはその前からコンタクトがありました。当時まだ実験段階だったブロックチェーンを使ってトレーサービリティを明確にできるという。そのやり方だと、わが社が使う電力が再エネ由来の電力だということが明確になることがわかったので、昨年、全面的な提携を結びました。
――みんな電力からの再エネ電力の調達はどれくらいの割合ですか。
加藤氏:21019年度は全社で使う電力全体の20%くらいを再エネ電力に切り替えます。みんな電力からの分だけでは足りないので、他社からも調達する予定です。それまで丸井は安い電力を求めて電力会社からコンペで調達していました。みんな電力との提携や、RE100に加盟したと発表したら、いろんな電力会社からこんなメニューがあるとご提案いただいて、その中でも「再エネ由来証明」ができる電力が結構ありましたので、調達のメドは大体ついています。
――毎年年次目標をつくって再エネ電力を調達するのですか。再エネ100%の最終目標は2030年ですね。
加藤氏:そうです。なるべく早くやりたいと思っているものの、そこまでの過程は毎年、調達計画を立てて進めていくつもりです。
――日本では再エネ電力自体がまだ十分に普及していません。RE100宣言企業も、安定的に再エネ電力を調達できるかという課題も指摘されています。
加藤氏:われわれは、みんな電力とは資本提携をしています。そうすることで、ある程度、優先的に同社から再エネ電力を確保してもらえるということがあります。ただ、われわれだけが再エネ100%達成を実現してもそれほどインパクトがあるわけではないと考えています。日本社会全体で再エネの利用が増えていければいいと思っています。
――丸井のお店でも再エネ電力を販売する計画のようですね。
加藤氏:今、みんな電力の方と話しているのですが、丸井のエポスカードの会員で、家賃引き落としをカードで実施する人もいますので、引っ越しなどの際に、みんな電力などの「顔の見える電力会社」を丸井で紹介して、再エネ電力の利用が広まれいいなと考えています。若い人には、再エネ利用等をやりたいと思っている人がいると思います。しかし、面倒くさいとか、どうして切り替えていいのかがわからないという人も多いので、2019年度から簡単にウェブ上で、再エネ電力に切り替えることができるようにするつもりです。
――RE100宣言企業の中には、自社で太陽光発電をして再エネ電力を確保するところもあります。丸井はどうですか。
加藤氏:太陽光発電はすでに実施しています。物流センターの屋根に太陽光パネルをつけて発電した電力は自社で使っています。ただ、発電量は小さい。もっと自前で発電していこうとも思ったのですが、太陽光パネル等を設置するスペースが少なく、今は現状以上に広げることは考えていません。
――そうすると、当面は再エネ電力事業者から仕入れることが中心になりますか。
加藤氏:そうですね。この方式で再エネ100%は達成できる見通しです。
――発行されたグリーンボンドの使途は再エネ電力の調達に充当するということですね。
加藤氏:資金使途は、再エネ電力の調達分と、排出量の削減です。全体の8割くらいが再エネ電力調達で、それ以外では、排出量削減として各店舗の空調機などをなるべく負荷の少ないものに代える設備投資に充てるほか、先にご紹介した自社太陽光発電設備のリファイナンス資金も含みます。
――今年もグリーンボンドを発行されますか。
加藤氏:今回の発行額には今後5年分の再エネ電力調達分を入れていますので、今年のグリーンボンド発行はちょっと難しいですね。サステナビリティボンドなどの形ならば、出せる分はあるかもしれません。検討対象です。
グリーンボンドを発行して得たメリットとしては、新たな投資家とのつながりができたこともあげられます。また、今回の発行でグリーンボンドの使途に再エネ電力調達を使えることが明確になりましたので、今後、他の小売業でもグリーンボンド発行がし易くなると思います。そういう形で、再エネ電力の調達が増えてくれば、世の中としてはいい方向に向かうと思います。
サステナブル分野で先進国とされるオランダ等にヒアリングに行った際、環境分野というのは非競争分野だという話を聞きました。環境では競争するよりも、みんなが一緒に頑張ることで、社会・環境分野が良くなることが一番いいんだという理解です。そういう意味では、今回、小売業ではわれわれがたまたま最初にグリーンボンドを発行できましたが、追随されるところがどんどん増えて来れば、それが環境全体にいいことにつながるので、もっと広まれば、いいと思っています。
――CO2対策以外の他のサステナビリティ経営の展開はどうですか。
加藤氏:製品の販売から回収、最終処理までのサーキュラー(循環)システムはぜひやっていきたいと考えています。われわれは、元々、モノを売る小売業ですが、近年は顧客の嗜好がだんだん変わっており、モノからコトへ、所有から使用へ、と変わってきています。そうすると、世の中の無駄がたくさん出て来ます。お店でも、モノを売るだけではなく、シェリング(共有)などのサービスの売り上げ割合を増やして、社会全体の環境負荷を低減したい思いがあります。経営指標にも、中期的なKPIとして「サーキュラー・レベニュー(サーキュラー売上・取扱高÷小売総取扱高)」というのを設けています。
――サーキュラー・レベニューの目標は。
加藤氏:5年後に資源リサイクル率を60%とし、サーキュラー・レベニュ―比率は30%、30年後にリサイクル率100%、サーキュラー比率は50%以上とする目標を立てています。営業利益に占めるCO2排出量を意味する「環境効率」目標は、現在の10.2から、再エネ100達成の2030年には25までに、さらに将来は30にまで引き上げる計画です。ただ、サーキュラー比率や環境効率だけを高めるのではなく、売上・取引高や営業利益とのバランスをみていきます。
――企業ですから収益につながらないと環境効率も長続きしません。丸井は社会と企業自身のサステナビリティを目指す会社だということを、顧客に伝えていくためにも、情報開示は大事です。
加藤氏:英国にマークス&スペンサーという大手小売業があります。環境問題への取り組みが優れている会社として知られていますが、そういうことを顧客もよく知っていて、顧客からの支持も高いと聞きます。小売業にとって、環境・社会に配慮することは、企業の評判にもプラスに働くと思います。
また最近の若い人には感度の高い人が多い。人事の採用の際でも社会的課題の解決をしている会社に入りたいという人が非常に多く、そこを積極的にやっている会社とやっていない会社では採用活動にも大きな影響があるような気もします。
―――今後の丸井のサステナビリティ経営はどういう方向に展開していきますか。ビジネスの本業は衣料品や生活回りの商品など、消費者の身近な商品がビジネスの中心ですね。
加藤氏:われわれの本業は、小売業とフィンテック(金融サービス)の分野です。このうちフィンテック分野では、富裕層以外で、従来はあまり金融の対象となっていなかった人々へのサービス提供をしてきています。こうした分野でのわれわれの蓄積は海外でも展開できるのではないかと考えています。成長著しい東南アジアや、今後成長が見込まれるアフリカなどで、個人が手軽に金融手段にアクセスできるフィナンシャルインクルージョン(金融包摂)という観点で、われわれのノウハウを生かせるのではないかということで、長期的な目標として、フィナンシャルインクルージョンのグローバル展開を、考えています。
――丸井のエポカカードを海外でも展開するということですか。
加藤氏:ノウハウの提供ですね。われわれ元々は家具の月賦商から始まり、若い層に向けたクレジットを提供してきました。こうした長年のノウハウを、過去の日本の成長期に似てきた今の東南アジアやアフリカの社会で活かせるのではと思っています。
(聞き手は、藤井良広)