HOME8.温暖化・気候変動 |英国で野生のビーバー復活実験が大きな成果。「ビーバーのダム」で、気候変動による洪水リスク減少、生態系の回復も顕著。英環境省、英全土の自然にビーバー導入支援へ(RIEF)。 |

英国で野生のビーバー復活実験が大きな成果。「ビーバーのダム」で、気候変動による洪水リスク減少、生態系の回復も顕著。英環境省、英全土の自然にビーバー導入支援へ(RIEF)。

2020-08-16 18:59:07

 

   気候変動の激化で、洪水リスクが高まっている英国の田園地帯に野生のビーバー導入を試みる5年間の実験が、生態系の回復等に「大成功」だったとの成果が出た。ビーバーたちは自然林内の河川や湿地帯に自然の調整池となる「ダム」を建設するため、洪水リスクが減じられるほか、ダム周辺での生態系の回復が目覚ましいことが検証された。

 

 ビーバー導入実験は、英国イングランド南部のサマーセット郡のデボンを流れるオッター川沿いの自然林一帯で、英環境省とDevon Wildlife Trustが共同で実施してきた。このほど5年間の実験の成果を検証したところ、ビーバーの生息地ではビーバーが作り出した新たな湿地が多数出現、水質の改善、洪水リスクの減少、魚類や両生類等の生物の増加等がみられたという。



 英国には400年前に野生のビーバー(ヨーロピアンビーバー)が生息していた。だが、その毛皮を求めて乱獲され、絶滅して久しい。ところが2008年ごろ、オッター川に再びビーバーの姿が現れるようになった。ペット用が逃げたか、だれかが放出したかは不明だが、その後2004年に繁殖していることがわかった。そこで英環境省は、自然の生態系を壊すと判断、ビーバーの駆除を計画した。
住み着いたビーバーの家族
住み着いたビーバーの家族

 

 これに対して、地元の自然保護団体のDevon Wildlife Trustは駆除に反対し、5年がかりでビーバーが及ぼす環境影響効果をモニタリングする活動を展開してきた。その結果、5年の間に、同川の周辺には2つのファミリーが生息し、合計28のダムを建設していることなどがわかった。
 ビーバーの自然活動は、生態系のバランスを壊すどころか、むしろ生態系を豊かにするほか、洪水リスクを減少させることで人間社会にもプラス効果を及ぼしていることがわかった。こうした検証結果を認めた環境省は、当初の駆除方針を撤回、他の地域にもビーバーを導入できるのではないかと、新たな計画を検討中という。
愛嬌を振りまくビーバー
愛嬌を振りまくビーバー

 環境相のRebecca Pow氏は「オッター川でのビーバー導入実験は、素晴らしい成功を示した。生態系の回復や気候変動に対する地域のレジリエンスを高め、自然景観の回復にもつながっている」と評価している。 Devon Wildlife Trustの自然保全担当のPeter Burgess氏も「英環境省の方針転換は、英国の野生生物保護にとって画期的な決断だ」と称賛している。

 

 自然保護管轄の公的機関「Natural England」は、今回の成功を踏まえて、「ビーバー導入の次のステップ」を目指している。同団体の会長のTony Juniper氏は、「元々、英国の自然に生息していた動物たちを再導入することは、生態系全体に有益であるとともに、水質改善や洪水リスクの減少にもつながっている。オッター川だけでなく、英国の広い地域にビーバーを導入し、自然再生地域をネットワーク化することを目指したい」としている。

 

 ビーバーの導入によって、デボンの西にあるClyst William Cross Countyの野生保護地区では、洪水多発地帯での安定的な静水地域が、導入前に比べて1400㎡増えて、6880㎡になったという。現在、英国内ではデボン以外にも、スコットランドや北ヨークシャー、イングランドのサマセット、ドーセットなどでも導入実験が進んでおり、さらに他の地域にも拡大される計画という。

 

https://www.gov.uk/government/news/five-year-beaver-reintroduction-trial-successfully-completed