HOME12.その他 |NYセントラルパークとロンドン・ハイドパークを、ゴム植林地に改造する「グリーンボンド(?)」申請。米環境NGOがミシュランのインドネシアでの熱帯林開発事業に抗議行動(RIEF) |

NYセントラルパークとロンドン・ハイドパークを、ゴム植林地に改造する「グリーンボンド(?)」申請。米環境NGOがミシュランのインドネシアでの熱帯林開発事業に抗議行動(RIEF)

2021-06-24 23:29:58

001Mighty Earthキャプチャ

 

 米国の環境NGOが10億㌦のグリーンボンドを発行するとして英非営利団体Climate Bonds Initiative(CBI)に申請した。資金使途はニューヨークのセントラルパークとロンドンのハイドパークを開拓して、産業用ゴム植林地に切り替えるという。エイプリルフールの様な話だが、これは世界的なゴムメーカーの仏ミシュラングループがインドネシアの熱帯雨林の原生林を大規模に切り開き、産業用ゴム植林地に転じる事業の資金がグリーンボンドで調達され、CBIの認証が付与されたことへの抗議活動だ。

 

  (写真は、環境NGOのマイティアースが作成したNYセントラルパークをゴム林に開発する場合のCG画像)

 

 抗議活動を展開したのは環境NGOのマイティアース(Mighty Earth:ME)。同団体によると、ミシュランはインドネシア・スマトラ島のジャンピで大規模なゴム植林事業を開発するため、2018年に9億5000万㌦のサステナビリティボンドを発行した。さらに追加で1億2000万㌦のグリーンボンドの発行を計画しているという。

 

 最初のサステビリティボンドは、仏BNP Paribasが扱い、ユニリーバ等が競って購入したという。これに対して、MEはミシュランは現地のパートナー企業Barito Pacificと2014年12月に契約を結んだ。だが、両社による事業計画がジャンピの熱帯雨林を大規模皆伐して植林することを、投資家に伝えずにサステナビリィボンドを発行したと批判。今年3月に、同ボンドの認証に使われたCBIに対して、同ボンドを認証から除外するよう要請した。

 

すっかり皆伐された熱帯雨林地帯(スマトラ)
すっかり皆伐された熱帯雨林地帯(スマトラ)

 

 このMEの要請に対してCBIが対応しなかったことから、MEはCBIの認証は「ゴム印(中身を見ずに判をつくこと)」だとして、自分たちが打ち上げた「グリーンボンド発行計画」についても「ゴム印」承認を求めて申請したというわけだ。インドネシアの熱帯雨林を皆伐してゴム植林にするならば、ニューヨーク、ロンドンの公園の芝生や木陰も、皆伐してゴム植林にする、というのは、先進国の住民にとって、少々「きついジョーク」でもある。

 

 MEのキャンペーンディレクターのAlex Wijeratna氏は「これは大規模な森林伐採スキャンダルだ」と指摘する。「我々の調査では、2014年後半にミシュランとの間で、何千haという豊かな森林を開発し、産業用ゴム植林地に切り替える契約が結ばれていた。ミシュランはこの自然破壊を知ったうえで、止めようとしなかっただけでなく、投資家をだますために『グリーン』のカバーをした」

 

 抗議を突き付けられたCBIは国際資本市場協会(ICMA)とともに、民間ベースでグリーンボンド等ESG債の基準を提供している。ただ、個々のプロジェクトの評価は、同団体が実施するのではなく、同団体の認証を得たESG評価機関等が同団体の基準に適合しているかどうかを評価してセカンドオピニオンを供給する仕組みだ。しかし、基準の提供も、セカンドオピニオンも、ともに自主的な取り組みなので、評価機関の評価力が乏しい、あるいは意図的に対象事業の課題を見過ごすリスクはある。

 

 CBIだけでなく、市場で最も利用されているICMAの基準も同様だ。むしろCBIの基準は、ICMAよりも厳格で、CBI認証を得たESG債は「一段上のボンド」との評価も定着しているほどだ。またミシュランのボンドは確かにCBIの基準に準拠しているが、問題があるとすれば、CBIの基準にではなく、発行体のミシュランと、ボンドにセカンドオピニオンを付与した評価機関の側にあるといえる。報道によると、CBIは発行体、あるいは投資家への配慮か、今のところMEの要求に明確な反応はしていないという。

 

 ただ、問題は環境NGOとESG市場関係者の立場の違い、という議論では終わりそうもない。というのは、生物多様性保全、自然資本保護等の重要性が、気候変動対応とともに、高まっているためだ。石油由来のゴム製品に代わって、天然ゴムを原料とする自然ゴム製品を増やすことは、CO2削減には効果があるとしても、自然林伐採を拡大するようでは「地球に優しい」とはいえない。

 

 日本でも、「2050年ネットゼロ」目標が政府の方針転換で急遽打ち立てられたことから、環境省は風力発電の環境アセスメントを大幅緩和を打ち出した。自然の保護よりもCO2削減を優先する開発政策に切り替えた。一方で、日本の自然の代表ともいえる里山は、太陽光発電の乱立で著しく減退しているとの指摘もある。環境政策自体が、気候変動政策と、自然保護を含むその他の環境政策との間でバランスをとれていない。

 

 「グリーン」は気候対応だけではないのは当然だ。だが、現状は、気候対応が最優先され、CO2を減らせるならなんでもいい、との風潮も一部にはある。EUはこうした対応に対処するため、サステナブルファイナンス行動計画の柱となるタクソノミーの評価では、気候変動対応であっても他の環境目標に「著しい害を及ぼさない(Do No Significant Harm: DNSH)原則」を盛り込んだ。だが、まだ国際的に共通化していない。

https://www.mightyearth.org/green_bonds

https://www.mightyearth.org/michelin-covered-up-industrial-deforestation-by-its-indonesian-partner