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第8回サステナブルファイナンス大賞インタビュー③優秀賞:SBI新生銀行。サステナブルファイナンスの評価を行内で内製化を実践。グリーンローン等で50件を突破(RIEF)

2023-02-13 15:38:16

SBI002キャプチャ

写真は、㊨から環境金融研究機構代表理事の藤井良広、その隣がSBI新生銀行チーフサステナビリティオフィサー常務執行役員の日下部裕文氏、同行執行役員サステナブルインパクト推進部長の長澤祐子氏、サステナブルファイナンス大賞選考委員の佐藤泉弁護士の順)

 

 SBI新生銀行はサステナブルファイナンスの評価を行内で内製化する取り組みを実践し、成果をあげてきたことから、第8回(2022年)サステナブルファイナンス大賞で優秀賞に選ばれました。同行のサステナブルインパクト推進部サステナブルインパクト評価室長の平田みずほ氏と、同室長代理の朝野美里氏に話を聞きました。

 

――銀行自身でサステナブルファイナンスの評価を実施しようと考えた経緯を教えてください。

 

 平田氏:サステナブルインパクトを行内で専門に行う部署は2020年2月に立ち上げました。無事に3年が経ってホッとした気持ちもあります。サステナブルファイナンスやインパクトの評価の内製化に踏み切ることは、私たちにとってチャレンジングな試みだったので、緊張感を持って業務をスタートしました。

 

 サステナブルファイナンスについては、すでにマーケットで一定の原則やガイドラインが出ていることから、それらに準拠して組成し、そしてそれらの評価が重要になっています。サステナブルな社会のために必要な資金の流れを作るという目的を考えると、私たちはなるべく多くの企業やプロジェクトでサステナブルファイナンスに取り組み、絶対量を増やしていくことが望ましいと考えています。ただ、そのための費用や顧客の作業負担のコストが大きいと広がりません。そこで評価を内製化させることにより、追加負担を少しでも軽減させることが一つの狙いでした。もう一つは、サステナブルファイナンスの評価を外部に任せっきりにしてしまうと、銀行内に知見を蓄積することができない。こうした理由から、評価の内製化に取り組みました。

 

SBI新生銀行の平田みずほ氏㊧、朝田
SBI新生銀行の平田みずほ氏㊧、朝野美里氏㊨

 

 私たちが部署を立ち上げたとき、グリーンローンなどの評価の内製化に取り組んでいる金融機関はありませんでした。マーケットでもチャレンジングな取り組みだったので、私たちの評価に対する信頼性を高めるために、いくつか工夫をしました。まず、サステナブルファイナンスの「調達」ではなく「組成」するためのフレームワークを作り、当行の体制や、評価の観点の妥当性などについて外部機関から評価をしてもらいました。ただ、枠組みを作っても、実際にどのような運用をしているかが、外部から「ブラックボックス」の状態だと信頼性を得られません。そのため、評価レポートを当行ウェブサイトに掲載して評価内容をすべて開示しています。どういう根拠でその取引をサステナブルファイナンスだと評価したのかが、外部からみてわかるように透明性を確保することを重視しています。

 

――個々の取引の評価についても外部に開示しているわけですか。

 

 平田氏:そうです。すべてウェブサイトに開示しており、誰でも見ることができます。評価レポートは、見ていただくと分かるのですが、かなり詳細に開示しており、この分野に携わっている方に見られても、恥ずかしくない内容と自負しています。とはいえ、評価室の立ち上げ当初の担当者は、私と朝野のみで、かつ二人とも銀行でのキャリアのみという状態でした。サステナブルファイナンスの評価の知見に限界があると感じたため、必要に応じて環境分野などの専門家に相談する体制をとりました。外部専門家の知見による補完も加え、銀行内での評価の知見が積み上がる対応をとってきました。

 

 その後は、同分野で専門性のある人材の中途採用も行い、評価室メンバーは7人に増えています。現在も、例えば環境改善効果等の技術面においては外部の環境コンサルのサポートを受けて評価を行うこともあります。

 

――内製化と外部機関の評価とは使い分けられているのですか。

 

 平田氏:グリーンローンやソーシャルローン、サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)等、国際的な指針となる原則があるサステナブルファイナンスについては、それぞれの原則に準拠するフレームワークを構築し、外部機関から当該フレームワークの原則への準拠について評価を得ています。そのうえで、個別の案件の評価では、基本的に私たちの中で完結することにしています。

 

 外部の第三者評価との使い分けという点では、すべてを内製化に拘るのではなく、例えばシンジケートローンを組成する場合などに、借入人や参加金融機関から私たちの評価以外に「第三者からの評価」を求める声があれば、第三者評価を取得することも想定しています。ただ、これまでのところ、幸いなことに、私たちの評価を受け入れてくださるケースがほとんどです。

 

平田氏
平田みずほ氏

 

 ――サステナブルファイナンスの評価の専門的な視点が、外部から評価されているわけですね。日本でのサステナブルファイナンス評価の第三者機関の評価の妥当性も議論になっています。

 

 平田氏:第三者評価が不要とは思っていません。例えば、私たち自身でもサステナビリティボンドの発行やサステナブル・レポによる資金調達を行っていますが、その際には、調達フレームワークに対する事前評価や、調達後のレビューの観点を含めて第三者に評価してもらうほうが、投資家に対する説明責任という観点では有効と思っています。引き続き、必要に応じて第三者による評価も活用していきたいと考えています。

 

――これまで何件くらい、内製化で評価されましたか?

 

朝野氏:グリーンローン、ソーシャルローン、サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)等で、今年1月分までで50件を超えました。当行がストラクチャードファイナンスを強みとしていることもあり、グリーン案件となるような太陽光、風力、地熱案件等の再生可能エネルギー事業向け資金需要もかなりあります。ソーシャル案件ではヘルスケアを強みとする専門の部署で、介護施設や障がい者のグループホーム、保育施設等の多様な取り組みをしており、それらへの資金需要も増えています。

 

 評価の取り組みの中で感じるのは、サステナブルファイナンスが事業評価につながるという点です。例えば、これまで手掛けた地熱発電事業向けのファイナンスは、私たちにとっても初めてでしたので、環境改善効果については環境コンサルタントの知見を得ながら評価しました。その際、付随する環境・社会面のネガティブなインパクトについても論点を洗い出しながら確認しました。対象事業の建設や開発の過程で、環境に負担をもたらしていないかとか、人権面での外国人労働者の問題、自然災害の影響等の視点が含まれます。そうした環境・社会面のネガティブなインパクトは、例えば建設の遅延や反対運動等に影響を与え、プロジェクト全体に影響を与える可能性もあります。つまり、プロジェクトを環境・社会面で評価することは事業評価そのものにつながり、事業全体の理解が一層深まるのです。

 

 また、事業のポジティブ面を評価することにも意義があります。例えば介護施設や障がい者向け施設等の評価では、それらのインパクトについてはロジックモデルを使って評価するようにしています。それによって、どういう経路を経て、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成や国の課題解決に繋がっていくのかを可視化することができます。

 

――サステナブルファイナンス評価を通じて事業全体の評価を統合的に行えるわけですね。

 

 

朝間氏
朝野美里氏

 

 朝野氏:私たちは、顧客(借入人)との対話を重視し、インタビュー等でも顧客のサステナビリティに関する取り組みや事業の社会的な意図を深くヒアリングするようにしています。このプロセスを通じて、当行の営業担当者から、顧客の事業の環境・社会面での評価や、それらに対する顧客の思い等の、これまでは知らなかった面を理解できてよかったという声も聞きます。顧客が、私たちが作成した評価レポートやロジックモデル等を、自社のアピールに役立てているケースもあり、嬉しく感じています。

 

 一方、難しさを感じることも当然あります。例えば、私たちは、当初からインパクトを重視しており、金融機関の横断的なイニシアティブである「インパクト志向金融宣言」にも署名しています。融資している企業や事業へのインパクトを評価・可視化していきたいとの思いもあります。その一方で、顧客がどこまでインパクト評価やその可視化を求めているかという点では、私たちの想定とギャップを感じることもありますね。現時点ではインパクト志向というムーブメントは、ESGやSDGs等に比べて、まだ事業会社には浸透しきれておらず、金融機関側にとどまっているのかなという感じもします。

 

 平田氏:評価の内製化の当初の段階で、外部研修をみんなで受講しました。その中で、「評価は説明責任と改善の二つの目的がある」と学びました。サステナブルファイナンスの評価もおそらく、この両方に資し得るものと思います。基本的な市場のニーズとしては、サステナブルファイナンスを打ち出すための説明責任を重視します。ただ、現場で評価をする立場からすると、評価を通じて発見したいろいろなことを、改善の一助として顧客に伝え、ポジティブインパクトを増やし、ネガティブを減らす、さらにサステナビリティのマネジメントに役立ててもらいたいといった期待もあります。

 

――新たにSBI新生銀行となって、銀行全体でのサステナブルファイナンスへの取り組み姿勢はどうなりますか

 

 平田氏:方向性としては変わりません。新しいマネジメントの下で作成された中期ビジョンでも「事業を通じたサステナビリティの実現」の一環としてサステナブルファイナンスを推進していくことが明記されています。引き続き、注力分野の一つとしてやっていくという位置づけです。ただ、一点、大きく変わったのは、サステナブルファイナンスやサステナビリティの実現という中に、SBIグループが重視してきた「地方創生」というキーワードが加わった点です。

 

 大きなストーリーとして、メガバンクほど規模の大きくない私たちは、他の金融機関と一緒に協働することで大きな資金循環につなげていくというテーマが、従来からありました。今後はそれを、より「地域」に引き付け、地域金融機関と一緒に地方創生に取り組むと同時に、サステナビリティにも取り組んでいくという方向性が明確になりました。地域金融機関との「協働」は、サステナブルファイナンスに限らず、いろんな分野で進んでいます。

 

――地方銀行との連携でもサステナブルファイナンスが一つの軸になるということですね。

 

 平田氏:私たちのサステナブルファイナンス評価の内製化経験を活かして、地方銀行への支援の取り組みも始めています。当行が組成するローンに参加する地方銀行と一緒に学びながら、サステナブルファイナンスを組成していくことも考えられます。

 

 ――サステナブルファイナンスの評価の内製化のビジネスモデルを、地域金融機関にも提供することも視野に入ってきますか。

 

 朝野氏:私たちの評価実績は、太陽光発電やヘルスケア施設等のプロジェクト形態のファイナンス案件が多いです。これらは資金使途と事業内容の関係性が明確であることから、事業の環境改善効果や社会的インパクトが比較的分かり易く、グリーンローンやソーシャルローンとの親和性が高いという面があります。

 

 一方、地方銀行の主要取引先の中小企業向けの企業融資では、その事業が創出するポジティブあるいはネガティブなインパクトはプロジェクト案件よりも複雑で、資金の分別管理の実践が難しい先も少なくないと思います。したがって、私たちがこれまで得た知見やノウハウがそのまま地方銀行の取引先に活かせないこともあります。内製化の仕組みを地方銀行に提供する過程で、私たちも地方銀行から学び、私たちの評価の知見獲得につながることも相応にあると考えており、相互にメリットがあると思います。

 

――今後のSBI新生銀行のサステナブルファイナンスで取り組みたい分野はどうですか

 

㊨から広報担当の朝間氏、平田氏、朝野氏
㊧から朝野氏、平田氏、朝間多美子氏(グループ経営企画部サステナビリティ企画室業務推進役)

 

 平田氏:サステナブルファイナンスだから、というより、銀行の本来の強みを活かしていくことが大事だと思います。そう考えると、私たちは元々、ストラクチャードファイナンスに強みがあるので、再エネやインフラ関連のプロジェクトファイナンス、不動産ファイナンス、船舶ファイナンス、ヘルスケアファイナンス等にも取り組んでおり、今後もこうしたアセットでのサステナブルファイナンスは力を入れていく分野です。

 

 先ほど朝野が述べた通り、これらは資金使途が明確になり易い分野です。サステナブルファイナンスの評価をしながら思うのは、資金使途が見えるということは大事だという点ですね。もちろん私たちもSLL も扱っていますし、ポジティブインパクトファイナンスも今後扱う予定です。しかし、それらのファイナンスでも、なるべく資金使途も見ながら評価していきたいと思います。日本では、欧州等と違い、金融機関が顧客(借入人)に対して資金使途の説明をそこまで詳細に求めてこなかったという話も聞きます。顧客も、資金使途を特定されないほうが使い勝手がいい面もあるとも思います。ただ、資金使途が特定されないサステナブルファイナンスの残高を積み上げることが、果たしてどういう意味があるのかというのは、色々考えるところです。サステナブルファイナンスには複数の観点での役割があると思いますが、資金の流れを作っていくという観点では、個人的には、資金使途の明確化は、大事なのではないかと考えています。

 

 加えて、トランジションファイナンスにも取り組んでいきたいと考えています。これは議論のある難しい分野でもあり、銀行内で評価を完結させることに拘らず、技術的な専門家を含めさまざまな人の意見を聞いて、しっかり評価をしながらファイナンスをしていくことが重要と思っています。

 

                           (聞き手は 藤井良広)