「神宮外苑のイチョウ並木は、私が植えた、わが子のような木々だ」。高層ビル最優先の外苑再開発問題で、一人の高齢者が「声」をあげた(RIEF)
2023-06-29 00:12:22
東京・神宮外苑の再開発問題で、多くの文化人等からも「再考」を求める声があがっている。そうした中での一つとして、103歳の高齢者による「声」が、新聞の投書欄で取り上げられている。
東京新聞6月27日付朝刊の「発言 : 読者とともに」の欄。投書したのは「無職 中里冨美雄さん(103歳) 埼玉県所沢市」。「神宮外苑のイチョウ並木は、私が大学生のときに植えた、わが子のような木々だ」と語る。
投書の内容は添付の写真の通りだが、念のため、記載しておこう。
タイトル:「外苑のイチョウ守って」
「再開発が社会問題になっている明治神宮外苑のイチョウ並木は、私が大学生のときに植えた、わが子のような木々だ。
昭和13年(1938年)9月1日、関東地方を大型台風が襲い、このイチョウ並木を全部なぎ倒した。死者約百人、全壊家屋千五百戸を超える被害が出た台風で、都内の街路樹なども大きな被害を受けた。都内の大学生らが植樹作業に駆り出され、私たちに割り当てられたのがこのイチョウ並木だった。地下足袋と軍手を支給され、五十人ほどの仲間たちと一緒に神宮外苑に勤労奉仕に出かけた。
当時は2㍍ほどの若木だったが今は樹齢百年超の大樹になり、首都東京の代表的な景観になっている。このイチョウ並木が都市再開発の名の下に痛めつけられることのないよう願ってやまない」
ネットを検索すると、この投稿者は、元作家の中里冨美雄さんと思われる。1920年、埼玉県加須市生まれ。国学院大学文学部卒、東京大学国文科研究生了。東京都立日野高等学校校長、桜美林大学講師を経て、作家活動に入り、筆名「安芸由夫(あきよしお)」、俳号「青草(せいそう)」。「歌集 寂光」「蕪村秀句を読む」等の著作がある。日本文芸家協会会員。
古典の紹介や俳句・和歌等の多くの著作があるようだ。何よりも神宮外苑のイチョウ並木がいったん台風で倒された後、勤労奉仕で元の並木の通りに若木を植え、それが時代の風雪を経て、成長し、今の大樹になっていることへの、いとおしい「思い」が、行間から伝わってくる。
東京都の小池知事は、この「声」を読む時間ぐらいはあるだろう。東京都の役人たちも、神宮外苑には、地権者だけではなく、多くの国民、都民が、何年にもわたって、思いをつないできたことを踏まえて、この問題に対応すべきだろう。