HOME |ユネスコ国際記念物遺跡会議(ICOMOS)、東京・外苑再開発問題で「日本の文化は、日本人に任せていられない」と「緊急警報」発出。三井不動産も東京都も「日本文化を守らない」(RIEF) |

ユネスコ国際記念物遺跡会議(ICOMOS)、東京・外苑再開発問題で「日本の文化は、日本人に任せていられない」と「緊急警報」発出。三井不動産も東京都も「日本文化を守らない」(RIEF)

2023-09-09 00:46:21

gaien001キャプチャ

写真は、三井不動産の高層ビル計画で、危ぶまれる外苑の現状。イチョウ並木が暑さを遮ってくれる=ハフポストより)

 

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関である国際記念物遺跡会議(ICOMOS)は7日、三井不動産が主導する、東京・明治神宮外苑の再開発事業について、日本の文化的資産が破壊されるとして、緊急要請「ヘリテージ・アラート」を出した。同アラートは、文化的資産が直面している危機に対して、学術的観点から問題を提起し、未来世代に向けた保全と継承のための解決策促進のために、ICOMOSの専門家等の外部の智恵の活用を呼び掛ける声明だ。日本の不動産会社、行政等に任せていては、文化を守れないと危惧する「日本への緊急警報」ともいえる。

 

 同アラートに対して、日本のメディアによると、文化庁は「法的拘束力や罰則規定はない」とコメントしたとしている。文化庁自体が、日本文化の継続性が問われている問題に対して、どう対応しているのか、姿は見えないままだ。ICOMSがアラートを出したのは、昨年、明治期の鉄道開業時の遺構「高輪築堤」(東京都港区)に際しても、解体中止を求めて発出している。

 

 ICOMOSによると、「東京で17世紀より継承されてきた『庭園都市パークシステム』のコアである神宮外苑地区再開発事業を阻止し、2023年9月より開始される3000本以上の樹木の伐採・移植を阻止するため、ヘリテージ・アラートを発令する」とした。同再開発により、9月からの第一期工事だけでも、「3000本の樹木が伐採・移植され、100年にわたり育まれてきた森は、完膚無きまでに、破壊される」と指摘している。

 

 そのうえで、事業計画推進の杜撰さを指摘する。事業者の三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興協会、伊藤忠商事の4者の「強硬姿勢」に加えて、東京都と地元の新宿区が、長年、区指定の風致地区だった外苑地区を、区議会や都市計画審議会に報告せずに規制の緩い指定に変更するなどの「業者寄りの行政」をとり、市民や多くのステークホルダー不在のまま、多くの反対を押し切り、承認したことを取り上げている。

 

 グローバルには、この夏は3カ月連続で世界中が過去最高の気温に見舞われ、誰の眼にも気候変動の激化が進んだことがわかった。その中で、都心の公園緑地は人びとの憩いの場であり、密集化が進む都市での生態系保全の貴重な空間であることが改めてわかった人も多いと思われる。

 

 アラートはこうした点を指摘したうえで、神宮外苑の特徴として、「気候変動による 異常気象が顕在化する中でヒートアイランド現象を緩和し、首都直下型地震発生時には 市民の命を守る避難場所となる」ほか、「神宮外苑は、市民の献金と労働奉仕により創り出された世界の公園史でも類例のない文化的資産」と指摘している。

 

 いずれも、開発優先の三井不動産や東京都が「無視」してきた文化的および社会的重要ポイントだ。地主でもある明治神宮も、日本中の人々に支えられて公園が整備された歴史を忘れてしまったかのようだ。アラートはこう指摘したうえで、多くの内外の市民の反対を無視して外苑開発を推進しようとしている、これらの各ステークホルダーに対して、勧告を行っている。

 

 ①三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興協会、伊藤忠商事の4事業主体に対して:速やかに再開発事業の撤回を行い、国際的企業、宗教法人、公明正大なスポーツ推進者としての社会的責務を遂行すべき。国際的企業、宗教法人、公明正大なスポーツ推進者としての社会的責務を遂行すべき。

 

  ②東京都は、都市計画公園を削除し、超高層ビルを建設することにより、永久に市民が公園を使用する権利を剥奪したという重大事に鑑み、都市計画決定の見直しを行い、環境アセスメントの再審を行うべき。

 

 ③宗教法人明治神宮は、外苑が国民の献金と勤労奉仕により創り出され、「未来永劫、美しい公園として維持する」という約束のもと奉献されたことに鑑み、これを厳守し、再開発事業から、速やかに撤退すべき。

 

 ④港区、新宿区、渋谷区は、未来世代のために、神宮外苑の「名勝」指定に向けて協力をしてとりくむべき。

 

 ⑤神宮外苑は、17世紀より保全、創出されてきた「庭園都市パークシステム」の枢要部に位置する。国は、東京都のみの問題とすることなく、適切な施策の適用を、様々のステークホルダーとの協働のもと、推進すべき。

 

 ICOMOSのアラートは、事業を推進するそれぞれの主体が、本来の基本スタンスに立ち戻って、「文化」を受け継ぐ役割を踏まえた謙虚な姿勢を取り戻せ、と指摘しているといえる。都心に過剰に乱立する高層ビルと同様のものを、なぜ、外苑に建設するのか、都市の密集化解消が求められいるのに、東京都及び関係区の行政はなぜ、密集化を加速する政策に与するのか、明治神宮は国民に支えられて築かれた外苑の歴史を無視して、なぜ目先の不動産収入確保に走るのかーー。

 

 ICOMOSのアラートは、目先の収益と利害に目を奪われ、伝統の継承と歴史の重みを無視し、それぞれが担う本来の役割を逸脱しても、「恥」の感覚を持たない関係者を前にして、外苑をはじめとする日本に現存する文化遺産や、歴史的建造物、人々の憩いの場等の維持管理を、日本の関係者には任せられない、と警告を発しているのだ。日本人として恥ずかしい限りだ。

                           (藤井良広)

https://www.icomos.org/images/DOCUMENTS/Secretariat/2023/Heritage_Alerts/Jingu_Gaien/HA_JinguGaien_Japan_PressRelease_EN_withAppendixes.pdf

https://www.icomos.org/en/get-involved/inform-us/heritage-alert/current-alerts/125573-heritage-alert-jingu-gaien