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戦火のガザ。イスラエルの封鎖と空爆で破壊された同地区の電力インフラの現在の主力は、住宅屋上の太陽光パネル。「多少の破損」でも発電可能。「戦争にも強い再エネ」を実証(RIEF)

2023-11-03 09:00:07

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写真は、ガザ地区の住宅屋上に設置された太陽光発電設備。破損したパネル以外は発電継続中という=CHNから)

 

 イスラエルによる厳しい封鎖と、激しい空爆が続くパレスチナ自治区ガザ地区。生死の間に置かれた住民たちのライフラインを辛うじて支えているのが、太陽光発電だ。同地区ではこれまでも、電力不足で、再三、停電が起きていたが、戦火の勃発で、ガス火力発電は燃料の化石燃料が制裁で途絶え、パレスチナ政府がイスラエルから購入してきた電力も完全に遮断された。そんな中で、これまで住宅の屋根等に設置した太陽光発電設備が何とか、住民にとっての生活のライフラインを支えている。

 

 英Climate Home News(CHN)の報道によると、10月7日にハマスがイスラエル側を攻撃して以来、激化を続ける両者の対立は、この3週間ほどの間に、両者合わせて1万人を超える死者を出している。イスラエルのガザ空爆の影響で、死を逃れた人々も、生活が破壊され、生死を彷徨う状況が続く。

 

 イスラエル軍の激しい空爆で、街全体が破壊される地区が続出する中で、電気も水道も途絶える中で、明かりが灯る家や、街区が細々と点在する。CHMの記事によると、ガザ市内に住む29歳のAmjad Al-Raisさんの家の屋上には、5年前に設置した太陽光発電設備が稼働中だ。地区での火力発電とイスラエルからの送電だけでは必要電力をカバーしきれないので、不足分を補うために家庭用発電機を使うところが多かったが、比較的生活に余裕のある家庭等が太陽光発電を導入してきた。

 

イスラエルの空爆前のガザの街並み
イスラエルの空爆前のガザの街並み

 

空爆で壊滅状態のガザの街
空爆で壊滅状態のガザの街(Reuter)

 

 Al-Rais氏はその一人で、「太陽光パネルは、われわれの生活に非常に重要だ。戦火が勃発した現状のような状況では、制限を受けることなく、発電し続けることができるベストオプションだ」と評価している。家庭用発電機が燃料途絶で使えない現状では、太陽光発電は同地区の住民のライフラインを支える唯一のインフラとなっている。

 

 実際、ガザ地区は年間320日は日照があるとされ、太陽光発電には最適な環境でもある。国連等もこれまで同地区のインフラ改善策として太陽光発電を学校や病院、難民キャンプ等への導入を進めてきた。再エネ発電によって同地区の電力を自立化させる展望も描いてきた。今回の戦禍でそうした展望もすべて一からのやり直しになりそうだが。

 

 大半のガザの住民はこれまで、エネルギーは化石燃料に依存してきた。中東諸国からの石油やガス等が安価で手に入るためだ。住民が生活に使用する電力の多くは、地区内のガス火力発電所で発電され、不足分をパレスチナ政府がイスラエルから直接送電されてくる電力に頼り、さらに家庭で化石燃料使用の発電機を活用するという形をとってきた。

 

戦禍の前のガザの街と屋上パネル
戦禍を受ける前のガザの街と、住宅屋上の太陽光パネル

 

 しかし、戦火が起こってからは、イスラエルの封鎖で、火力発電所用の燃料も、送電もすべて遮断され、各地区では電力が途絶状態が続いている。Al-Raisさんも「以前は、化石燃料の電力に頼っていたが、イスラエルの封鎖によって燃料を手に入れられないので機能しなくなっている」と指摘する。家庭の電力だけではない。病院等でも電力不足は深刻で、生まれたばかりの新生児用の保護設備を機能させることができず、130人の新生児の生存が危ぶまれているとのニュースがSNSで流れている。

 

 ガザで住宅用太陽光発電設備を販売するMuhammed Al-Yazijiさんは「過去5年にわたって、電力不足のガザ地区では、太陽光発電に対する需要が増大している」と指摘する。しかし、同地区に導入される太陽光発電設備はすべて外部からの持ち込みに頼る形になるため、イスラエルの関税も払わねばならず、一般の住民には「高値の花」でもある。

 

 同地区に住む46歳の教師、Anas Abu Sharkhさんは8000㌦(約120万円)を投じて、8枚の太陽光パネルを設置した。「非常に高かった。しかし、(家庭用)発電機を回すよりは安い」と説明している。平均的なガザ地区の住民の所得は一日当たりで13㌦だという。

 

 CHNは、電力供給力としての太陽光発電システムについて、「大型火力発電所で発電した電力を送配電する中央制御システムよりも、戦時のターゲットになりにくい」と分析している。発電所は破壊されると、送配電地域全体に影響が及ぶが、家庭用の太陽光発電は一つが破壊されても、他の発電設備は自立的に発電できるので「爆撃効率」が悪いためだ。

 

 この点は、ロシアのウクライナ侵攻で、チェルノブイリ原発がロシア軍の標的になったほか、ザポリージャ原発がロシアに占拠されるなど、戦時には、軍事標的となる原発とは対照的といえる。相手国の原発を占拠してしまえば、相手国軍からの反撃を受けにくく(原発攻撃になってしまう)、かつ周辺地域を含めて制圧できる利点があるためだ。近時の局地戦では、火力発電所は爆撃対象、原発は占拠対象というわけだ。

 

 日本政府は、北朝鮮の弾道ミサイルが再三、日本海に向けて発射されることに加え、中国の脅威論も高まる中で、日本海側において長年にわたり電力各社の原発を認可してきた。そのいずれの原発も、安全保障上の備えは十分ではない。こうした原発政策の現状は、まさにわが国の国防論の「平和ボケ」の象徴といえる。長年、「原発推進、再エネ抑制」の政策を展開してきた経済産業省の国防意識の欠如は、致命的だ。

 

 実際に戦火と向き合っている国々の対応は、こうしたわが国の対応とは正反対だ。たとえば、内戦状態が続くイエメンでは太陽光発電設備の導入が進んでいるという。太陽光の場合、設備の価格低下のメリットに加え、戦火を浴びても、パネルがあればどこでも電力を発電できることが立証されているためとみられる。

 

 もっとも、太陽光発電が、戦火に対して絶対的に「無敵」かというわけでもない。ガザの教師、 Sharkhさんが導入した太陽光パネル8枚のうち、3枚は、イスラエルの空爆の影響で穴が開くなどの破損状態となった(上の写真)。Al-Raisさんのパネルも、同様に空爆の影響で被害を受けた。だが、破損したパネルは発電不能だが、他のパネルの発電は問題ないという。分散型エネルギーの強みでもある。

https://www.climatechangenews.com/2023/10/31/rooftop-solar-panels-offer-fragile-lifeline-to-besieged-gazans/