HOME8.温暖化・気候変動 |南極の世界最大氷山「A23a」が37年の「立ち止まり」後に、1日5kmの速度で「動き出す」。東京都の2倍近い面積。自然のサイクルか、今年の世界の平均気温が過去最高だった影響か(RIEF) |

南極の世界最大氷山「A23a」が37年の「立ち止まり」後に、1日5kmの速度で「動き出す」。東京都の2倍近い面積。自然のサイクルか、今年の世界の平均気温が過去最高だった影響か(RIEF)

2023-11-30 00:53:50

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 南極にある世界最大の氷山として知られる「A23a」が、「動き始めた」ことで、世界中の極地・気象関連の関係者の注目を集めている。同氷山は面積約4000k㎡で、東京都の総面積の2倍近い。氷の厚さは約400mで、東京タワーよりも高い。同氷山は1986年以降、ウェッデル海(Weddell Sea)に面したジョインビル島近くの海底に乗っかるようにして「止まって」いた。それが37年を経過して、緩やかに「動き始めた」のである。

 

 米宇宙技術会社マクサー・テクノロジーズ(Maxar Technologies)が、欧州宇宙機関(ESA)の地球環境モニタリング計画「コペルニクス(Copernicus)」の衛星「センチネル-3(Sentinel-3)」が撮影した氷山の画像を公開、確認された。

 

衛星画像で確認されたA23aの「行動」
衛星画像で確認されたA23aの「行動」(BBCから)

 

 同氷山は1986年に、ウェッデル海に流れ込むフィルヒナー・ロンネ棚氷から分離した直後、同海域の海底に接地したままの状態が長らく止まっていた。ところが2020年に同氷山が動きそうだとの報告がなされ、観測者たちが注目していた。氷山には分離した段階で、旧ソ連の観測基地のドゥルジナヤ1基地(Druzhnaya 1)があり、旧ソ連は基地を撤去するための探検隊を派遣する騒ぎも起きたことがある。

 

 2020年の「動き」の確認後、しばらく経過したが今月に入って、本格的に動き始めたというわけだ。37年間の「止まった」状態から、動き出した要因としては、ひとつは、今年1月になって、ウェッデル海の大西洋側に面したブラント棚氷から面積1550㎢の大きな氷山が分離(キャズム-1)したことの影響が指摘されている。同棚氷から分離した氷山自体、米ニューヨーク市と同じ大きさ。

 

 もう一つは、南極を含め、今年の世界の陸地の平均気温は6月以降、5カ月連続で観測史上最高の気温を記録しており(11月も同様になる可能性)、同様に海洋の温度の上昇も例年を上回っているとみられる。平均気温の上昇は、エルニーニョの影響と気候変動の相乗効果によるとされる。海温の微妙な変化が、氷山のバランスに影響を及ぼした可能性もある。

 

ブラント棚氷付近で海氷上で勢ぞろいするコウテイペンギンたち(National Geographicから)
ブラント棚氷付近で海氷上で勢ぞろいするコウテイペンギンたち(National Geographicから)

 

 ウェッデル海を出発したA23aは海流に運ばれて、1日約5kmのスピードで南大西洋に向かっている。A23aの分離から、今回の「動き始め」への展開は、氷河の自然なサイクルの一環との見方が強い。すでに海洋に置かれたままの状態だったので、今後、徐々に溶けていくとしても、北極の海氷と同様、海面上昇の影響はない。ただ、南極大陸上にある棚氷の流出が増大していることが指摘されており、自然のサイクルを超えた流出分は海面上昇要因になる。

 

 一方で、氷山が南大西洋にあるサウスジョージア島やサウスサンドウィッチ諸島周辺で、再び「立ち止まる」可能性も指摘されている。そうなると、島々で生息しているペンギンや鳥類、アザラシ等の生態系への影響も懸念される。ただ、氷山が溶けると、氷山中に含まれている南極大陸の岩床を削っていた氷河の氷に溶け込んでいたミネラル等の粉塵が海洋に放出され、海洋食物連鎖の基盤を形成する生物の栄養源が増大する可能性も指摘されている。いずれも自然のサイクルがいつもと変りなく循環するとした場合のことだが。

https://www.bbc.com/news/science-environment-67507558

 

https://www.cbsnews.com/news/worlds-largest-iceberg-s23a-is-on-the-move-for-first-time-in-37-years/

https://en.wikipedia.org/wiki/A23a