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難分解性の有機フッ素化合物「PFAS」。胎児の代謝と肝機能への影響を実証研究で初確認。英・スウェーデンの共同研究チーム。成人後に糖尿病等の代謝疾患リスクが増大(RIEF)

2024-01-16 00:08:40

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写真は、イメージ。=Euractiveより)

 

  日本をはじめ世界中で、難分解性の有機フッ素化合物「PFAS」が環境や人の健康に及ぼす影響への懸念が高まっているが、英国とスウェーデンの大学の研究チームによる実証研究で、PFASの暴露を受けた人の胎児が、代謝と肝機能に変化が生じ、成人後に糖尿病等の代謝性疾患のリスクを高める可能性があることが立証された。PFASの胎児への健康影響が実証されたのは初めて。PFASによる水道水等への汚染は欧米でも問題になっており、製造した化学会社等に対する訴訟が各地で起きている。欧州ではEUがPFAS使用の禁止を含む規制強化案を提案しているが、化学会社や製薬会社等が反対している。

 

 調査を実施したのはスウェーデンの Örebro University(エーレブロー)大学と英国のUniversity of Aberdeen(アバディーン大学)の共同研究チーム。研究結果はオンライン科学誌「Lancet Planetary Health 」で「In utero exposures to perfluoroalkyl substances and the human fetal liver metabolome in Scotland: a cross-sectional study」として公表された。

 

 研究チームは、英国スコットランドのアバディーン市のAberdeen Pregnancy Counselling Serviceにおいて、2004年12月2日から2014年10月27日の間に、12週目から19週目の間に自主的に中絶され、基本的に健康であると考えられる78人の胎児の検体の肝臓を調査した。

 

英アバディーン大学
英アバディーン大学

 

 調査では、かなりの精神的苦痛を示す女性や、超音波検査で胎児に異常が確認された女性からの検体は除外した。肝臓に含有されるPFAS物質のペルフルオロアルキル化合物(PFOA)やパーフルオロアルキル化合物(PFOS)等の滞留状況等を質量分析ベースのメタボローム解析とRNA-Seqの両方で分析した。

 

 その結果、対象となった胎児の肝臓には、共通してPFOSに関連する代謝物が見つかった。それらは妊娠年齢によって変化し、共役胆汁酸は胎児年齢と顕著な正の相関を示した。また肝臓中のアミノ酸、脂肪酸および糖誘導体は、PFOA曝露と逆相関し、胆汁酸グリコリトコール酸は、定量されたすべてのPFOAと顕著に正の相関を示すなどのデータが得られた。

 

 これらの検証データから研究チームは、PFOAによる曝露が胎内での特定の主要な肝生成物に影響を及ぼす直接的証拠が得られた、としている。特に妊娠第1期の胎児にPFOA曝露の影響が現れる証拠となると判断している。研究チームの共同責任者であるアバディーン大学のポール・ファウラー(Paul Fowler)教授は「残念ながら、研究結果は、子宮内で『永遠の化学物質』のPFASに曝露された場合、胎児の生体に影響を及ぼすという強力な証拠が得られた」としている。

 

 エーレブロー大学のマテイ・オレシッチ(Matej Orešič教授も、胎児の段階で受けた曝露の影響の一部は、成人後も持続し、代謝性疾患のリスクを高める可能性が高いと指摘。「PFASの影響は、糖尿病や脂肪肝のような代謝性疾患の結果として起こる変化に似ている。中枢代謝の変化は、全身に深刻な影響を及ぼす。特に、胎児の発育過程における変化は、将来の健康に長期的な影響を及ぼす可能性がある」と説明している。

 

 今回の研究結果は、ほぼ1年前に、EUのデンマーク、ドイツ、オランダ、スウェーデンと、非EUのノルウェーの各国が、化学物質の登録・評価・認可・制限制度の「REACH規則」で、1万を超えるPFAS物質についてEU全域での使用禁止の提案の重要性を裏付ける内容といえる。

 

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 研究成果に対して、欧州の非営利団体「Health and Environment Alliance(HEAL)」の創設者であり代表理事であるジェノン・ジェンセン(Génon K. Jensen)氏は「今回の研究成果は、時宜を得た、思慮深い内容であり、長い間、われわれが恐れていたものを明らかにした。PFASは、われわれの将来の世代に、生まれる前から悪影響を及ぼす可能性があり、曝露を避けることは難しい。これが、EUが現在示しているPFAS規制案が、かつてないほど重要になっている理由だ。われわれはEUに対し、すべての必須性の低いPFAS使用に対する適用除外を最小限に抑えるような、広く制限的な提案を優先するよう求めている」と述べている。

 

 EUでは、ほぼ1年前、デンマーク、ドイツ、オランダ、スウェーデンの各加盟国と、非EUのノルウェーの各国が連名で、化学物質の登録・評価・認可・制限制度の「REACH規則」において、1万種を超すPFAS物質の使用をEU全域で原則禁止する提案を公表している。しかし、同提案に対しては、製薬業界が、医薬品の技術革新と医薬品へのアクセスに悪影響を及ぼすと反対を示しているほか、製造量の多い化学業界も阻止に動いている。

 

 REACH規則では、すでにいくつかの種類のPFASの使用が禁止されている。現在は、PFOSやPFOAの代替品とされるペルフルオロヘキサン-1-スルホン酸(PFHxS)の規制案が進行中であり、2024年末か2025年初頭までに採択されることが期待されている。

 

 PFASは、1950年代から世界中で使用されている大規模で複雑な合成化学物質群である。炭素-フッ素結合は有機化学で最も強力な化学結合のひとつとして知られる。PFAS物質は製品に焦げ付き防止や撥油・撥汚・撥水などの有用な特性を与えている。主な用途として、PFOSでは、泡消火薬剤、半導体、金属メッキ、フォトマスク(半導体、液晶ディスプレイ)、写真フィルム等。PFOAは、泡消火薬剤、繊維、医療、電子基板、自動車、食品包装紙、石材、フローリング、皮革、防護服等。PFASは環境中に残留するため、「永遠の化学物質」と呼ばれる。

 

 国内では、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」に基づき、化学会社等が取り扱うPFOSは2010年に、PFOAは2021年に、それぞれ製造・輸入等が原則禁止となる第一種特定化学物質に指定されたほか、2024年2月からは、PFHxSも指定される予定。だが「製造及び輸入」は許可制で、使用も禁止ではなく「制限」にとどまるなど、規制の緩さが指摘されている。

 

 環境中の基準については、厚生労働省が2020年、水道水の水質管理目標設定項目に指定するとともに、暫定目標値(PFOSとPFOAの合算値で50ng/L)を水道事業者等による管理目標として示している。同暫定目標値は、体重50kgの成人を対象としたもので、胎児への影響には言及していない。環境省も同年、水質汚濁に係る要監視項目に指定し、公共用水域や地下水に係る暫定目標値(PFOSとPFOAの合算値で50ng/L)を定めたが、土壌や食物に関する指針値等はない。「抜け穴」だらけなのである。

https://www.thelancet.com/journals/lanplh/article/PIIS2542-5196(23)00257-7/fulltext#seccestitle150

https://www.env-health.org/new-scientific-study-indicates-pfas-can-increase-risk-of-disease-in-unborn-children/

https://echa.europa.eu/registry-of-restriction-intentions/-/dislist/details/0b0236e18663449b