HOME5. 政策関連 |第9回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑩特別賞:「グリーン共同発行団体」。全国42の地方公共団体が共同でグリーンボンド発行。地域の脱炭素化促進へ(RIEF) |

第9回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑩特別賞:「グリーン共同発行団体」。全国42の地方公共団体が共同でグリーンボンド発行。地域の脱炭素化促進へ(RIEF)

2024-03-06 13:05:10

スクリーンショット 2024-03-05 222633

写真は、表彰状を受け取った総務省自治財政局地方債課長の神門純一氏㊧、㊨は環境金融研究機構代表理事の藤井良広)

 

 複数の地方公共団体によるグリーンボンドの共同発行の取り組みである「グリーン共同債」が第9回サステナブルファイナンス大賞の特別賞に選ばれた。脱炭素化などに向けたグリーン事業の財源確保に資するのが狙いで、初年度の2023年度は42の都道府県・政令指定都市が参加し、11月に第1回債500億円を発行した。2024年3月にも第2回債として564億円を発行し、年度を通して1064億円の資金調達をする予定だ。共同発行の枠組み作成などを支援した総務省自治財政局地方債課の梅田侑奈・総務事務官と同課の文谷和磨・調査員にグリーン共同債の発行の背景や今後の見通しを聞いた。

 

――「複数の地方公共団体によるグリーンボンドの共同発行」を実現した背景には、どんな事情があったのでしょうか。

 

 梅田氏:グリーン共同債の発行に至った背景では、地方公共団体においてグリーンボンドの発行意義が急速に高まっていることがあります。政府は、2050年の「カーボンニュートラル」や2030年度の温室効果ガス(GHG)削減目標の達成などを掲げており、それに向けて、地方公共団体も地域の脱炭素化に資する取り組みを行うよう求められているところです。そのような中で、地方公共団体はグリーンボンドを発行することによって、地域の脱炭素化を進めるための資金調達や脱炭素化に資する取り組みを実施していることを広くアピールできる効果が期待できます。

 

 数値を見ると、地方公共団体のグリーンボンドの発行は近年、急速に伸びています。2017年に東京都が発行したのが地方公共団体として初のグリーンボンド発行でしたが、その後、地方公共団体発行グリーン債は、2022年度に約1500億円、2023年度はグリーン共同債を含め、2024年2月時点で約3400億円のグリーンボンドの発行が予定されています。

 

梅田智美氏
梅田侑奈氏

 

  文谷氏:今、説明がありましたように、グリーン共同債の発行に至った背景の一つは、国を挙げて脱炭素化を進めていく中で、地方公共団体も地域の脱炭素化に取り組む必要が出てきたことですが、グリーンボンドに対する投資家の需要が高まってきたということも挙げられます。

 

 投資家側においても、気候変動対応の重要性に対する認識が高まっているなかで、機関投資家の責任等を定める「スチュワードシップ・コード」が改定され、「運用戦略に応じたサステナビリティの考慮」が機関投資家の責任として明記されたほか、日本銀行も2021年12月から気候変動対応を支援するための資金供給オペレーション(気候変動対応オペ)を開始しています。また、上場会社に適用される企業統治(ガバナンス)に関する原則の「コーポレートガバナンス・コード(CGコード)」が改訂され、企業経営にも気候変動などの地球環境問題への配慮が求められるようになり、ESG投資を支援する動きが活発になってきました。こうした中で、銀行や信用金庫などの地域金融機関においては、ESG 投資の目標額を設定するような動きが広がってきています。

 

 地方公共団体は公共サービスを提供する主体であり、市場環境にかかわらず安定的に資金調達を行うことが求められます。2022年の後半には、金融市場が不安定となり、地方債への需要が低迷した局面もありましたが、そうした状況でも、地方公共団体のグリーンボンドの需要は通常の債券に比べて相対的に堅調でした。このため、地方公共団体がグリーンボンドを発行することには、より安定的な資金調達の実現につながる効果も期待できると考えています。

 

文谷氏
文谷和磨氏

 

――共同債の利点と課題などについて教えてください。

 

 梅田氏:地方公共団体が地方債を共同発行する仕組み自体は、地方財政法第5条の7に規定されています。2003年度からこの仕組みを活用して「共同発行市場公募地方債」が発行されています。この既存の仕組みを今回のグリーン共同債発行に用いたのは、地方公共団体がグリーンボンドを発行する際の課題をうまく解決できるというメリットがあるからです。

 

 その一つは、発行ロットの確保です。グリーンボンドは資金使途が環境改善効果をもたらす事業に限定されているため、単独の団体では、なかなか十分な発行ロットを確保できず、発行が難しい団体がありました。しかし、複数の地方公共団体による共同発行方式とすることで、機関投資家も参加できるような大規模な起債が可能となりました。

 

 もう一つは、事務・費用の負担の軽減です。グリーンボンドの発行の際には、フレームワークの策定や外部評価機関からの評価の取得等、通常の地方債の発行に比べて、費用の負担が追加で発生します。この点については、共同発行方式としてグリーンボンドを発行するに当たり、共通のフレームワークを定め、外部評価取得費用なども参加する各団体で負担することで、単独で発行する際と比べて、事務・費用の負担を軽減することができます。これらが共同発行の大きなメリットといえます。

 

――反対に、共同発行のデメリットはありませんか。

 

 梅田氏 グリーンボンドを共同発行方式で発行するからといって、特に、不利になる点はないと考えますが、強いて挙げるとすると、地方公共団体が個別でグリーンボンドと比較して、個々の団体の政策PRの面が少し薄れてしまうということが考えられます。地方公共団体が個別でグリーンボンドを発行するときには、調達した資金が全て当該自治体の事業に充てられるため、政策PRが比較的容易であると思いますが、グリーン共同債の場合は、発行額のうち一部分のみが自治体の事業に充てられるため、個別のグリーンボンドと比べると政策PRが難しい面もあると思います。そのため、例えば、各団体で独自に実施している特色あるグリーン関連事業は個別のグリーンボンドで資金調達をし、河川整備や下水道整備など、どの団体でも実施されているグリーン関連事業はグリーン共同債で資金調達するといった、「すみ分け」も考えられるかと思います。

 

――実際の発行に際して、どんな問題がありましたか?

 

 梅田氏 グリーン共同債の発行を実現するまでには、いくつか課題がありました。中でも、フレームワークの策定には苦労しました。グリーンボンドの発行にあたっては、事前に事業内容や資金管理などについてのフレームワークを策定する必要があるのですが、グリーン共同債は複数の地方公共団体が参加する枠組みなので、個別で発行する際とは違う工夫が必要でした。

 

スクリーンショット 2024-02-27 165015

 

 例えば、個別に発行されるグリーンボンドのフレームワークには、調達した資金を充当する個別具体の事業も定める例が多いですが、今回は、個別具体の事業を定めずに、まず使途とする事業類型のみを「グリーン関連事業」としてフレームワークに定めることにしました。その類型に合わせて、起債ごとに各団体がそれぞれ、これに合致する事業を持ち寄れるような形をとっています。このスキームにすることで、フレームワークと充当事業それぞれ外部評価を得る必要があるものの、複数の団体が参加しやすくなっています。

 

――共同債発行の反響、手ごたえはどうですか。参加した自治体、参加していない自治体などからの反応などもあれば。

 

 梅田氏 今回、グリーン共同債の初回債を発行した2023年11月は、内外金利のボラティリティ(変動率)がたいへん高い状況で、起債する側としては、かなり厳しい起債環境でした。それにもかかわらず、グリーン共同債には、100を超える投資家から発行額500億円を上回る需要が集まりました。グリーン共同債は、複数の地方公共団体が持ち寄ることで地方公共団体が発行するグリーンボンドとしてはかなり発行金額が大きいため、大きなロットでの投資を選好する機関投資家からの需要がみられたほか、参加団体の地元投資家からもたくさんのオーダーがあったことも印象的でした。参加団体の中には、グリーン共同債が初めてのグリーンボンドの発行となる団体も多かったため、地元での注目度が非常に高かったのだろうと受け止めています。

 

 また、地方債においては、2022年の10月に発行されたグリーンボンドにおいて、通常の地方債よりも少し利率が低くなるいわゆる「グリーニアム」が生じており、それ以降、この状況が継続していたところですが、グリーン共同債の初回債においても、過去に個別発行されたグリーンボンドと同水準のグリーニアム(2bp)が発生しました。

 

 参加団体からは、「主幹事の選定やフレームワークの作成、SPOの取得など、事務負担が少なく済んだ」「グリーンボンドは外部評価取得等の追加経費がかかるためこれまで個別では発行できていなかったが、グリーン共同債への参加により費用負担を抑えられた」等、と評価する声をいただきました。「グリーン共同債のスキームができたことでロットが小さくても参加できるようになった」という声もあり、共同債ならではの利点を参加団体にも実感していただけている状況と認識しています。

 

 非参加団体の反応を直接伺う機会はあまりありませんが、来年度は新たに2団体がグリーン共同債に参加して計44団体での発行になる予定となっています。今年度の取り組みは一定程度評価されているのではないかと考えています。

 

――44団体というのはかなりの規模だと思いますが、財政状況が厳しい自治体がグリーン発行に過度に頼る恐れはありませんか?

 

 梅田氏 そうした事態は想定していません。前提として、地方債制度上、地方公共団体はどのような事業についても自由に地方債を発行できる仕組みにはなっておらず、原則として、地方財政法第5条各号で規定された適債事業に係る資金調達をする場合にのみ、総務大臣または都道府県知事に協議し同意を得て地方債を発行します。したがって、グリーンボンドの資金使途とすることができる事業は、グリーンボンドの資金使途としての適格性があることはもちろん、そもそも地方債の適債事業でなければなりません。地方債の適債事業は基本的に建設事業であり、グリーンボンドを発行して資金を調達すれば、何にでも充当できるということはありません。

 

スクリーンショット 2024-02-27 164941

 

 また、地方公共団体の財政状況を表わす健全化判断比率が一定以上になると、地方債の発行に許可が必要になる等、財政の健全性を確保するための制度も定められており、地方債全体の信用維持が図られています。したがって、財政状況の厳しい団体がグリーン共同債での資金調達に過度に頼るという状況は想定しにくいと考えています。

 

――グリーン共同債の発行は、地域の脱炭素化にどんな影響を与えますか?

 

 梅田氏 冒頭に述べたように、地方公共団体によるグリーンボンドの発行は近年拡大してきましたが、2023年度に地方公共団体によるグリーンボンドの発行が飛躍的に伸びたことには、グリーン共同債の発行が大きく影響していると考えています。特に発行団体数は、2022年度の16 団体から53団体まで増加する見通しであり、これまで個別での発行が難しかった団体も、グリーン共同債に参加することで、資金調達の選択肢が広がったのだと認識しています。

 

 また、地方公共団体にとって、グリーンボンドの発行は、単に必要な資金を確保するだけでなく、地方公共団体の取り組みを広くPRして、地域の脱炭素化に向けた機運を高めることも期待されます。実際に、グリーン共同債の初回債では、初めてグリーンボンドを発行した団体の地元の投資家を中心に「これまでグリーンボンドに投資したことはなかったが、地元の団体がグリーン共同債に参加すると知って投資することにした」という声もありました。このように、グリーン共同債を機に、地方における脱炭素化の取り組みへの関心がさらに高まることで、地域の脱炭素化の一層の推進につながるのではないかと考えています。

                           (聞き手は、玉利伸吾)