HOME12.その他 |北極圏は温室効果ガスの高排出が続くと今世紀半ばには「9月が丸々1カ月間氷無し」に。2100年には「5月から翌年1月まで9カ月間」氷無しに。米コロラド大調査(RIEF) |

北極圏は温室効果ガスの高排出が続くと今世紀半ばには「9月が丸々1カ月間氷無し」に。2100年には「5月から翌年1月まで9カ月間」氷無しに。米コロラド大調査(RIEF)

2024-03-07 00:01:39

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写真は、国立極地研究所のサイトより)

 

 北極圏(the Arctic)は、温室効果ガス(GHG)の高排出が続けば、今世紀半ば(2035~2067年)には9月が丸々1カ月間にわたり無氷状態(ice-free)になり、2100年には5月から翌年1月までの9カ月間が無氷状態になる可能性が高いことが、米コロラド大学の研究チームの検証結果で明らかになった。北極が海氷の世界から外洋に置き換わると、船舶の航行が容易になるメリットの一方で、氷で反射される光の割合が減る等の現象で、北極圏の温暖化が今以上に加速・増幅され、周辺地域への気象変化を激化させるリスクがあるほか、北極海周辺の沿岸浸食や、人為的な海底資源開発の進展による海洋汚染、自然破壊等が進む懸念も高まる。

 

 研究論文は、コロラド大ボルダー校北極・高山研究所のアレクサンドラ・ヤーン(Alexandra Jahn)准教授(大気・海洋科学)らのチームが執筆し、3月5日付けの『Nature Reviews Earth & Environment』誌に掲載された。

 

 同研究では、重み付けや各種制約条件を科すことで精緻化した気候モデルと統計モデルを使い、北極圏がどのように変化するかを日ごとに評価した。北極圏の「無氷状態」とは、北極圏の海氷面積が100万㎢以下になることをいう。近年の観測では北極圏の9月の最小海氷面積は約330万平方kmだった。

 

 論文によると、北極圏が初めて無氷状態になる日が出現するのは、今後のGHG排出量の排出シナリオには関係なく、9月が丸々1 カ月間にわたって無氷状態になる時期の0〜18年前と予測されている。現在は、いつその日が来てもおかしくない時期に入っているという。

 

シナリオ別の北極圏海氷シミュレーション(ヤーン准教授らの論文より)
シナリオ別の北極圏海氷シミュレーション(ヤーン准教授らの論文より)

 

 9月以外の月が無氷になる可能性は、地球温暖化のレベルに大きく左右される。今後もGHGの高排出が続き、地球温暖化が産業革命前の1900年の世界平均気温を3.5℃以上超えるレベルになってしまうと、北極圏は2100年までに5月から翌年1月までの9カ月間にわたり無氷となる。だが、GHGの排出が低く抑えられ、パリ協定の目標である2.0℃未満にとどまる場合は、無氷となるのは8月から10月までの3カ月間にとどまると予測されている。

 

 さらに温暖化が進めば、北極圏は4700万年ぶりに一年中氷のない状態になる可能性がある。しかし、大気中のCO2濃度が約1900 ppm(現状423ppm)に達するまでは、年間を通じて一貫して氷のない状態が続くとは考えられず、最も強いGHG排出シナリオでも23世紀まで北極圏に一年中氷のない状態は来ないと予測している。また、北極海の氷には不可逆的な転換点は存在せず、地球が冷却化に向かえば再び北極海に氷は戻る。

 

北極圏の海氷を減少させる仕組み(論文より)
北極圏の海氷を減少させる仕組み(論文より)

 

 無氷状態は、地理的にはヨーロッパ側から始まり、バレンツ海、カラ海、ラプテフ海を経て、チュクチ海、東シベリア海、ビューフォート海(太平洋側の北極海)を経て、中央北極海に続く。

 

 時期的には、バレンツ海とカラ海ではすでに2015年以前から9月は無氷となっている。2020年代から2030年代にかけてラプテフ海、東シベリア海、チュクチ海が9月に無氷となり、2030年代から2040年代にかけてビューフォート海が9月に無氷となると予測されている。

 

年月ベースで見た北極圏の海氷がない確率(論文より)
年月ベースで見た北極圏の海氷がない確率(論文より)

 

 北極圏に無氷期が現れるのは8万年ぶりで、地域の生態系に重大な影響を与えると考えられている。海氷が外洋に置き換わると、物体表面で反射される光の割合(Albedo) の減少によって放射収支が変化し北極圏での人為的な温暖化が加速・増幅される。さらに、北極海は外洋に属するほど大きく、氷が無いと波が高くなり北極海周辺の沿岸浸食を引き起こす。

 

 生態系の観点からも、海氷を使って捕食しているホッキョクグマやアザラシなどの哺乳類の生存を脅かす。北極海への魚種の移動をもたらす。また、海運や資源探査へのアクセス性が上昇し、北極圏の経済活動が活発化し、海洋汚染が進む恐れもある。

(宮崎知己)

https://www.nature.com/articles/s43017-023-00515-9