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米環境保護庁。難分解性化学物質のPFOA とPFOSを「スーパーファンド法」の有害物質に指定。汚染の調査と浄化にかかる費用負担、汚染責任者に強制可能に。汚染の緊急性に配慮(RIEF)

2024-04-22 00:43:09

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写真は、土壌汚染地を指定管理するスーパーファンド法の対象地=Northeastern UniversityのPFAS Project Labのサイトから)

 

  米環境保護庁(EPA)は19日、難分解性有機フッ素化合物PFASのうちPFOA(ペルフルオロオクタン酸)とPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)を「包括的環境対応・補償・責任法」(CERCLA、通称:スーパーファンド法)の有害物質(hazardous substances)に指定することを柱とする最終規則を発表した。同法は、化学物質等の汚染で、原因企業等が特定できない段階でも必要な汚染除去費用を政府がファンドから拠出し、浄化後にその費用を、有害物質を発生、所有、管理、輸送、さらに発生者に融資した金融機関等に費用分担させる仕組みで、米国の環境対策の「原点」の一つと位置付けられている。PFAO、PFASを同法の対象物質に指定することで、米国はPFAS汚染の抜本対策に乗り出すことになる。

 

 PFOA とPFOSは、PFASの中でも特に毒性が高いとされる物質。がんや、肝臓や心臓への影響、乳幼児や子供の免疫および発達障害に影響を与えるとの研究結果が出ている。日本でも沖縄県や神奈川県等の在日米軍基地周辺自治体の公共用水域で高い値が検出されているほか、東京、大阪、沖縄などの地下水からも高度な汚染が指摘されている。

 

 国際的には、PFOSは2009年の残留性有機汚染物質に関するストックフォルム条約第4回締結国会議(POPs4)で附属書B(制限)に、PFOAは2019年のPOPs9で附属書A(廃絶)にそれぞれ追加されており、いずれも各国で製造や輸入が禁止されている。https://rief-jp.org/ct12/141957?ctid=

 

IFASの危険性を啓蒙するEPAのキャンペーン
IFASの危険性を啓蒙するEPAのキャンペーン

 

  ところが、PFASは「永遠の化学物質(forever chemicals)」と呼ばれるように分解しにくい性質を持ち、河川や湖沼、地表などに長期にわたり残留する。そのため、製造と輸入の禁止だけでは、健康被害の発生を防げないとされる。米EPAは、PFOA やPFOSの汚染が発覚した地域では、過去に使用が合法的に認められていた時代の投棄、放出であっても、関係者に調査と浄化にかかる費用を負担させることができるスーパーファンド法の適用対象にすることにした。

 

 同法の原型であるCERCLAは、1978年にナイアガラの滝の近くのニューヨーク州ラブ・カナルの街で、埋め立てられていた廃棄化学物質から有害物質のベンゼンヘキサクロリドやベンゾクロライド、ダイオキシン、トリクロロエチレンなどが発生し、地域住民の健康被害が多発した「ラブ・カナル事件」をきっかけに、1980年に制定された法律。同事件後に、当時のカーター政権が全米各地の調査を実施したところ、各地に同様の土壌汚染地があることが判明、国を挙げて住民の健康被害対策のため、同法を制定した。

 

 同法はその後、1986年の「スーパーファンド修正及び再授権法」、2002年の再活性化法へと発展して、今も受け継がれている。

 

 廃棄物による土壌汚染の場合、対象地域の土地が転売を繰り返されたりして、誰が問題廃棄物の所有者かが不明になったり、土中での汚染の程度が膨大なコストをかけて調査しないとわからないなどの困難な課題がある。スーパーファンド法の第1の特徴は、調査や浄化にかかる費用は、まず石油税などを積み立てた政府ファンドから支出するとした点だ。これにより、汚染責任者が特定されていなくても、EPAが汚染の調査・浄化を始めることができる。

 

PFASは難燃性で分解が困難。永久的に有害な影響を持続させる
PFASは難燃性で分解が困難。永久的に有害な影響を持続させる

 

 2つ目の特徴は、汚染の責任を広範に捉える点だ。指定物質による汚染に関与した全ての者を潜在的責任当事者(Potential Responsible Parties:PRP)に指定する。汚染者負担原則に基づく汚染企業が特定されない場合でも、これらのPRP指定関係者に対して、調査や浄化の費用負担を強制できる。EPAはPFOA、PFOSについても、近く細則を定める「CERCLA取締り裁量方針」を公表するとしている。

 

 3つ目の特徴は遡及効(Retrospective Liability)概念の適用だ。通常の法理論では、現在の法律で認められている行為が将来、法規制で禁じられる場合、その責任は前の法律で認められていた時点での行為にまで遡って禁じられない。ところが、同法では土壌の浄化等が必要な場合は、過去の行為にも遡って責任を負わせるという考えだ。実際に、ラブ・カナル事件での原因企業の事業を引き継いだ現オキシデンタル・ケミカル社は連邦政府が負担した1億2900万㌦に上る浄化費用を負担している。

 

 EPAのマイケル・S・リーガン(Michael S. Regan)長官は、今回発表した最終規則により、「EPAはより多くの汚染現場に対処し、早期に対策を講じ、浄化を迅速化することができる」とコメントしている。最終規則はまた、事業体に対し、重量1ポンドを超えるPFOAとPFOSの放出については、国家対応センター、州、部族、および地域の緊急対応担当者に24時間以内に報告することも義務付ける。

 

 土地を譲渡または売却する事業体に対しても、取引の対象となる土地におけるPFOAまたはPFOSの貯蔵、放出、廃棄の情報を通知することを義務付ける。当該土地に、PFAS汚染があった場合は、汚染が浄化されたこと、または将来、追加浄化することの保証を義務付ける。今回の最終規則は、連邦官報に掲載後、60日後に発効する。

 

 EPAはPFAS対策として2021年にロードマップを作り、以来、戦略的に規制の枠組みを整えてきた。今年に入ってからも、1月に、企業が329種類のPFASの製造または加工を開始、または再開することを防止する規則を決定。環境中のPFASをより適切に測定するための3つの方法も公表した。また2020 会計年度の国防授権法に基づき、7種類のPFASを毒物排出目録(TRI)の対象化学物質リストに追加した。2月には、飲料水中のPFASやその他新しい汚染物質に対処するため、超党派インフラ法に基づき、90億㌦の資金拠出を決定した。

 

さらに、4月9日にはPFASに関する国家一次飲料水規制(NPDWR)を公表。PFOAとPFOSについては、これまでの暫定目標に比べ17.5倍厳しい4ng/Lの規制基準を設定するなど、矢継ぎ早に対策を打ち出した。そして今回のスーパーファンド法の対象指定とつながる。こうしたEPAの対応からは、PFAS汚染の深刻度を踏まえた迅速な対策の必要性が浮き上がってくる。https://rief-jp.org/ct12/144582?ctid=

 

 一方、日本の環境行政はどうか。これまでも、PFAS問題をめぐっては、行政の責任体制が明確でなく、日本政府の中では、環境汚染の拡大と健康被害防止を最優先する明確な法律の制定を目指す動きはほとんど感じられない。欧米諸国では環境政策の基本の一つである「汚染者負担原則」に基づき、新規物質や潜在危険物質を予防的に規制する考えが主だが、日本政府にはそうした原則を具体化する政策の導入のスタンスはほとんどみられない。https://rief-jp.org/blog/143587?ctid=33

 

 廃棄物のマニフェストを使った監視制度も抜け穴が指摘されて久しい。有害物質の処理技術や処分技術の開発を国が支援する動きも限られ、有害物質を製造する化学会社に対する配慮ばかりが透けて見える。繰り返しだが、戦後、顕在化した熊本・新潟の水俣病も、富山のイタイイタイ病も、いずれも有害化学物質(重金属汚染)による悲惨な健康被害だった。国民に多大な犠牲を強いながら、政府は有害化学物質を扱う企業を監視する体制への取り組みは欧米に比べて圧倒的に弱く、二次汚染への対応力も欠くことが長年指摘されている。https://rief-jp.org/ct12/144027?ctid=

 

 化学物質汚染に対する政府の消極姿勢に共通するのは、日本の環境行政や産業行政に蔓延する「産業界ファースト」の考え方だろう。日本でもすでに、大阪府摂津市周辺の住民や土壌、河川などで極めて高濃度のPFOAが検出されている。同地の問題では、原因企業はダイキン工業に特定される。同社の費用負担による完全な汚染除去は「日本版スーパーファンド法」を制定する前でも、迅速に実施できるはずだ。国民を「二の次」に扱う政府に、存在価値はない。

                           (宮崎知己)

https://www.epa.gov/newsreleases/biden-harris-administration-finalizes-critical-rule-clean-pfas-contamination-protect