HOME |右傾化する日本の足元が危ない(古賀ブログ) |

右傾化する日本の足元が危ない(古賀ブログ)

2012-09-29 11:47:32

kogashigeakitwitter3_reasonably_small
中国での大暴動と尖閣への中国船侵入で大騒ぎになっている日本。民主党の「弱腰外交」を批判して得点を稼ごうとする自民党の総裁候補の演説を聞いていて、何かおかしいなと思った方はいないだろうか。

 

日本外交・防衛の危機ということを強調する時は、本当に危ないぞ、という口調で、この人は本当に心配しているんだという感じが伝わってくる。一方で、日本の経済を立て直します、雇用を守り、生み出して行きます、という時の言葉は、何故か、通り一遍で型どおりという印象が否めないのである。中国とどう対峙するかという時には、議論がいやに具体的で、明日にも、国民に戦争是か非かと問いかけそうな勢いなのだが、経済再生のために何をするのかということになると具体的なことはほとんど出て来ない。

 

このアンバランスが、日本が第二次世界大戦に負けた原因の一つなのではないかと思った。

 

 

●中国は長期的視点で戦いを仕掛けてくる ―日本は耐えられるのか―

領土問題については、議論すべき論点は数多くあるが、私は、特に外交・安保と経済の結びつきに関する認識が自民党の候補者には非常に弱かったと思う。

 

これから日本は何十年にもわたって、強大化する中国と対峙して行かなければならない。長期的視点に立てば、今はようやくGDPで中国が日本を追い越したところだが、しばらくは国力の差は拡大を続ける。アメリカと中国の相対的な力関係も似たようなものだ。しかし、さらに数十年を経れば、中国も少子化の影響と経済の成熟化によって日本のように急速に経済力が落ち始める時が来るかもしれない。

 

そうした長期的視点も踏まえた上で、今日本が最も力を入れるべき分野は何かということを考えなければならない。

 

海上保安庁の体制を強化することは必要だ。その他にも様々な出費が必要になる。しかし、長期的に十分な防衛・警察予算を確保することは、実はかなり難しいのが日本の現状だ。米国も状況は良く似ている。そのことは、中国も良くわかっているだろう。

 

万一、日中間に局地的であっても戦争状態が生じたらどうなるか。補正予算を組んで自衛隊の活動費を工面しなければならない。消耗品や人件費などが中心になるが、当然これは赤字国債で補うことになる。その時、日本の銀行は国債を買うだろうか。日銀が国債買い入れ額を増額することも考えられるが、日本人が真っ先に国債を売るという行動に出たりはしないだろうか。いやいや、どうして、日本人の愛国心に火がついて、戦費調達国債はゼロ金利でも即日完売だという勇ましい声も聞くが、本当だろうか。

 

しかも、中国のように長期的戦略で戦って来る国だと、散発的な戦闘が十年単位で続くというような事態も想定しなければならない。そんな負担に日本は耐えられるだろうか。必要な装備を調達するのにも苦労するだろうし、毎年の戦費を調達するのも苦しくなるだろう。社会保障費と防衛予算のどちらを優先するかというような難問にもぶつかるだろう。年金を削るくらいなら尖閣諸島の小島くらい中国にくれてやれなどという声が出なければよいが、という心配をするのは、私が他の日本人よりも愛国心が薄いからなのだろうか。

 

 

●政治家が闘うべきは「既得権」ではないのか

そう考えて行くと、日本の国を守るためには、一日も早く日本の経済を再生し、成長軌道に戻さなければならない、という答えに行きつく。日本経済の再生のためには、デフレ脱却ももちろん重要だが、バラマキではない成長戦略を実施して経済の効率を上げ、雇用者数と所得を上げて税収の増加を図らなければならない。そのために必要だと、長年言われ続けている、数々の規制緩和を含む既得権との闘いが、実は今最も急いでやらなければならない課題であるはずだ。

 

日本の国土を守りたい、そのためには毅然とした行動を取る、最後は戦争だって辞さないと言いたげな自民党の総裁候補たちだったが、軍事面では勇ましい言葉を並べるのに、内なる戦いである、既得権との闘いに立ち向かう姿勢を見せた候補がいなかったのはどういうわけだろう。まさか、中国の空母や戦闘機に最後は国民が竹やりで戦うということを考えている訳ではないだろう。戦争に行くのは自衛隊員であって、総理や政治家ではない。しかし、既得権と闘うのは政治家であり、陣頭指揮を取るのは総理である。考え方によっては、政治家にとっては戦争の方が楽な戦いなのかなとも思えて来る。

 

国防の重要性を叫び、外交の重要性を説くのは決して間違いではないが、その前に自らの足元を見つめ直し、日本経済の再生のために命がけで戦う勇気を持つことこそが、今の日本の指導者に求められていることではないだろうか。

 

  http://gendai.ismedia.jp/