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WSJ中国支局で 中国当局への贈賄疑惑が浮上  米司法省が捜査 WSJ自身が報道

2013-03-19 00:16:04

薄熙来・元重慶市党委員会書記(2012年
米司法省は昨年、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)中国支局が記事にする情報を得るために中国当局者に賄賂を贈った疑いがあるとして、捜査を開始していたことが明らかになった。米政府や会社関係者によると、WSJの親会社であるニューズ・コーポレーション(ニューズ・コープ)が調査したものの、その主張を裏付けるような証拠は得られなかった。

一方、関係者によると、米政府はニューズ・コープ傘下の英大衆紙発行会社における電話盗聴と贈賄の疑惑などを受けて、ニューズ・コープを対象としたより広範な捜査を行ってきたが、それは終わりに近づいているという。

この捜査にあたり、米司法省は2012年初頭にニューズ・コープの外部弁護士と接触し、ホイッスルブローアー(内部告発者)から情報を受け取ったことを明らかにしている。関係者によると、この内部告発者は同省捜査官に対し、1人ないしそれ以上のWSJ従業員が情報の引き換えとして、中国政府当局者にギフトを贈っていたと主張した。

会社関係者によると、ニューズ・コープもWSJもこの告発者の身元を知らず、政府関係者はそのような詳細を明らかにしていない。この人物がWSJで働いていたのか、あるいはこの人物が贈賄疑惑のある人物の氏名を当局に伝えたのかは不明。

薄熙来・元重慶市党委員会書記(2012年
薄熙来・元重慶市党委員会書記(2012年


米政府当局者と会社関係者によると、ニューズ・コープの一部の関係者はこの告発者が中国政府の工作員である可能性があるとみている。つまり、WSJによる中国の指導部報道が気に入らず、WSJの業務を妨害したり、報復したりしようとした可能性があるとの見解を米司法省に伝えたという。ニューズ・コープ関係者は、賄賂の証拠が一切見つからなかったことや、告発のタイミングとその内容を受け、中国工作員の告発との見解に至った。ニューズ・コープ関係者がこの見解を裏付けるどのような証拠を握っているかは不明で、当記事を執筆する記者たちは、それを独立した観点から確認できなかった。

在ワシントン中国大使館の報道官にコメントを求めたが、回答はない。

これに詳しい政府当局者はニューズ・コープの主張に対する見解についてコメントするのを控えた。ニューズ・コープに近い関係者は、この中国での贈賄の嫌疑は米捜査当局者が何かの際に提起したのではないと述べたが、それ以上の詳細は明らかにしなかった。司法省がこの問題を解決済みと考えているか、それとも依然として捜査中だとみているかは明らかでない。

WSJを傘下に持つニューズ・コープのダウ・ジョーンズ部門の広報担当者は文書で、「中国での活動について、外部弁護士や監査役による徹底的な精査を行ったが、ダウ・ジョーンズ内の不正の証拠は一切見つからなかった」と述べた。

米政府や会社関係者によると、今回の告発者によるWSJへの非難は、重慶におけるWSJ報道と関連している。重慶は失脚した薄熙来・元重慶市党委員会書記が拠点としていた場所であり、WSJは以前、記事の中で重慶の問題を取り上げたことがある。

重慶を拠点とした薄氏は当時、中国で急速に力をつけた実力者だった。しかし、その後、英国人実業家の毒殺にからむスキャンダルが露見。このスキャンダルは同氏の失脚と同氏の妻の刑事告訴を招いた。

WSJは12年3月、この英国人の死にまつわる疑問や、このスキャンダルをきっかけにした中国の指導部内の権力闘争について詳しく報じる記事を掲載した。この後、WSJは他の記事で、一部の指導部の私生活の裏に潜む富や賄賂に関しても報じていた。

また中国当局者への贈賄を指摘した告発者がWSJを非難した時期は、中国のハッカーがダウ・ジョーンズのコンピューターシステムを攻撃したと米政府とダウ・ジョーンズの関係者がみている時期とほぼ一致している。関係者によると、これがこの告発者による行動がWSJを標的にした幅広い攻撃の一環だと疑っている理由の1つだという。

ダウ・ジョーンズへのハッカー攻撃を捜査した連邦政府捜査官は、攻撃が中国政府とつながりのある人々によって実行されたと結論した。政府・会社関係者によれば、これはどうやらWSJが中国指導部について執筆しようとしている記事を盗み見ようとする狙いがあったという。

近年、一連の西側企業が中国ハッカーの標的にされており、この中にはニューヨーク・タイムズなど米メディアも含まれている。オバマ政権は中国に対し、こうした行為をやめるよう求めた。

ダウ・ジョーンズの編集主幹でWSJのマネジングエディターでもあるジェラルド・ベーカー氏は、WSJの中国報道が「模範的で他の追随を許さない」と指摘。「われわれのジャーナリストはときに最も困難な状況で業務を遂行しているが、今後も中国の社会と政治の暗い面に光を当てるのを思いとどまることはないだろう」と付け加えた。

もし、中国当局者への賄賂が事実だとすれば、そのような行為は米海外腐敗行為防止法(FCPA)に違反する可能性がある。これは連邦政府がニューズ・コープの英国における活動について当初捜査を始めた際に、根拠となった法律だ。同法では、米国で一定以上の業務を行っている企業がビジネス上の利益を得るために海外政府当局者に資金やギフトを贈ることが禁じられている。

関係者によれば、中国でのWSJの贈賄に関する告発者は、供応は記者と当局者が共にする通常の食事ないし飲み物以上に及んでおり、贅沢なエンターテインメントや旅行などが含まれていたと主張したという。

 

http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887324823704578367142477350854.html?mod=djem_Japandaily_t