HOME |東日本被災地の幽霊話 ほんのり温かく 「死と向き合う心に癒やしも」 (東京) タクシーで閖上海岸に向かう幽霊乗客 横断歩道を行き交う釜石の幽霊・・・ |

東日本被災地の幽霊話 ほんのり温かく 「死と向き合う心に癒やしも」 (東京) タクシーで閖上海岸に向かう幽霊乗客 横断歩道を行き交う釜石の幽霊・・・

2013-08-12 21:55:18

「震災怪談」についてのイベントで語る怪談作家の黒木あるじさん(右)ら=今年5月、仙台市で(荒蝦夷提供)
「震災怪談」についてのイベントで語る怪談作家の黒木あるじさん(右)ら=今年5月、仙台市で(荒蝦夷提供)
「震災怪談」についてのイベントで語る怪談作家の黒木あるじさん(右)ら=今年5月、仙台市で(荒蝦夷提供)


東日本大震災で被災した東北各地で、亡くなった人たちが幽霊となって現れるさまざまな怪談が語られている。死者への供養と鎮魂という思いが込められているだけでなく、生き残った人たちの心をいやす力もあるようだ。 (大日方公男)


 仙台市内を夜半に走るタクシー。男性客が「閖上(ゆりあげ)まで」と行き先を告げる。宮城県名取市の閖上海岸は、震災の津波で壊滅したはず。不審に思った運転手が途中でふと後ろを振り返ると、誰もいない。「被災者の幽霊ではないか」。そう思いながら海岸まで車を走らせてドアを開け、見えない客に「お疲れさま」と声をかけた-。仙台のタクシーの運転手や乗客の間で交わされているうわさ話だ。




 岩手県釜石市でも、「横断歩道を渡る幽霊たちが日ごとに増え、静岡県警から応援に来ている警官が、交通整理にてんてこ舞いをしている」という話が広がっている。




 こうした怪談は、東日本大震災の起きた一昨年の秋ころから、被災各地で伝えられるようになった。




 インターネットで怪談を募る仙台市の出版社荒蝦夷(あらえみし)(仙台市)代表の土方(ひじかた)正志さんは「震災の前と後で、怪談の質が大きく変わった」と指摘する。「震災を体験した人が、死者のサインを受け取り始めた。身近な者の死が愛着に結びつき、怪談話に供養や鎮魂の思いが込められるようになったんです」




 例えば、「津波で亡くなった宮城県女川町の高齢女性が、仮設住宅の住民を頻繁に訪ねる」という幽霊話。住民たちは、もう死んだことを彼女に知らせるかどうか迷うが、気の毒だからもう少しそのままにしようと相談する。女性はその土地の人気者だったという。




 被災地で語られる怪談の幽霊は、どこか心安くユーモラスな存在だ。むごたらしいホラーのような都市伝説とは明らかに違う。伝承されるうちに、人々が望む温かい物語に少しずつ変容しているとみられる。




 土方さんは「怪談の力が、縁者の死に向き合う被災地の人たちの心を治癒する働きを持つ。被災地で自然発生的に生まれている怪談を集めることで、心の復興に少しでも役立てば」と話す。




 五月末には仙台市内で「震災怪談」について作家黒木あるじさんらが語るイベントも開かれた。今月には震災後の怪談を集めた「みちのく怪談コンテスト傑作選2011」(荒蝦夷)が刊行される。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013081202000040.html