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JR東海労組がリニア計画に異議 利用者置き去り危惧、推進ありき社内から疑問(神奈川新聞)

2014-01-10 19:17:41

現状のリニア計画に異を唱えるJR東海労働組合で執行委員長の淵上さん(左)と書記長の小林さん =東京都大田区
現状のリニア計画に異を唱えるJR東海労働組合で執行委員長の淵上さん(左)と書記長の小林さん =東京都大田区
現状のリニア計画に異を唱えるJR東海労働組合で執行委員長の淵上さん(左)と書記長の小林さん =東京都大田区


JR東海のリニア中央新幹線計画に内部から反対の声を上げる人々がいる。社員約1万8千人のうち320人でつくるJR東海労働組合(JR東海労)だ。総事業費9兆円超の巨大プロジェクトの必要性に社員の立場から異を唱え、急ぎ足で計画を押し進める経営陣の姿勢に危機感を強めている。

 ■「見通しが甘い」
 「社の現状を知るからこそ会社の説明は納得できない」。そう語るのは同労組執行委員長の淵上利和さん(52)。普段は東京-大阪間で東海道新幹線を走らせる運転士だ。

 会社側が示す収入見通しを「楽観的すぎる」と指摘する。

 JR東海は、東海道新幹線から料金単価が高いリニアに客が流れることや航空機利用者の取り込み、新規需要開拓を挙げ、リニアと新幹線を合わせた収入は、2027年の名古屋開業後は開業前に比べて約10%、45年の大阪開業後は約27%増える、としている。

 淵上さんが例示するのは過去10年の新幹線収入のグラフ。「07年度をピークに2年続けて落ち込み、その後は微増で推移しているが、ピーク時の水準には戻っていない。国の推計では大阪開業時、新幹線をよく利用する生産年齢人口(15~64歳)が13年比32%も減る。強気の増収予想は、乗客確保で最も重要な要因である人口減少が加味されていないのではないか」

 需要予測について、JR東海は相模原市内で住民説明会の場で「国にきちんと説明した上で計画は認められている」と根拠など明確な回答を避け、新たな予測を作成する予定はないとしている。

 ■国鉄破綻の記憶
 JR東海がリニアの大義として強調するのが、(1)老朽化した東海道新幹線改修のためのバイパス確保(2)大災害に備えて東京、名古屋、大阪を結ぶ「日本の大動脈」の二重系化-だ。

 これに対し、淵上さんは「現場にはリニアよりも優先すべき必要な投資がたくさんある」。同労組は、JR西日本の福知山線脱線事故、東日本大震災、笹子トンネル天井板落下事故などを念頭に、スピード制御の安全保安装置の拡充、トンネルや橋など鉄道関連施設の老朽化対策・耐震工事、ホームドアの設置を会社側に求めているが、「いずれも未着手か不十分だ」。

 危機感の背景には、国鉄破綻でみた苦い経験がある。

 「ふるさとの線路で一生を終えるものだと思っていた。目の前が真っ暗になった」。国鉄の破綻が確実となった1980年代半ば、淵上さんは地元九州から本州に異動を命じられた過去がある。

 広域異動は職員や家族を含め6千人規模ともいわれる。分割民営化の改革で早期退職や休職状態にさせられるなど末端の職員の多くが辛酸をなめた。

 分割民営化された当初の87年度、資金繰りや安定経営に大きな影響を及ぼす長期債務残高は約5兆2千億円。2012年度末でようやく2兆6千億円まで半減した。「裏を返せば、四半世紀かけても半分しか縮減できなかった。しかも、実態はバブル崩壊後の低金利時代の借り換えの効果が大きかった。建設費9兆円を超すリニア計画は身の丈に合っているとは思えない」

 JR東海は、リニア計画遂行時の残高上限を「5兆円以内」とする規律の設定を国に示しているが、淵上さんは「コストカットの強化は免れない。東海道新幹線の老朽化対策、耐震化工事が後回しの現状を考えると人的な部分を含め、鉄道事業の安全投資が一層鈍るのでは」と危惧する。

 ■経営陣への不信
 かつての破綻劇に「落日の思いを胸に刻んだ」という淵上さん。社内の労組では1万7千人を擁し、労使協調路線をとる東海ユニオンがリニア計画への協力の立場を取る中、JR東海労のみが組織として反対を表明。「リニア計画は経営危機につながりかねない。会社にノーを突きつけるのはつらいが、声を上げないと国鉄破綻が再現される」と話す。

 経営陣への不信感も不安を増幅させる。山田佳臣社長は昨秋の記者会見で「リニアだけでは絶対にペイしない。新幹線の収入で建設費を賄って何とかやっていける」との見解を示した。

 淵上さんは「公共交通を担うとはいえ、民間企業が『ペイしない』と認めるのはあり得ない。経営失敗のツケは結局、社員や利用者に回り、公金が投入される事態になれば国民全体が代償を払うことになる」。

 リニア推進の旗振り役である葛西敬之会長は11年1月の社内誌のインタビューで「ワシントンDC~ボルティモア間を第1段階とする北東回廊を狙い、マーケティング活動を展開しています」と明かしている。

 安倍晋三首相も米国へのリニア輸出のトップセールスを進めており、書記長の小林光昭さん(55)は「葛西会長は国の委員を数多く務め、安倍首相の懇親グループの一員。協力してくれる首相の期待に応えようと、『もう後戻りできない』という感覚にとらわれてしまっているのではないか」と口にする。

 淵上さんが言葉を継いだ。「もし政治的なメンツにこだわって海外輸出に執着し、リスクから目を伏せているのなら、それは経営者とはいえない。謙虚に利用者や社員の声を聴くべきだ」

 ◆リニア中央新幹線計画 新幹線の次代を担う超高速鉄道として1960年代から研究が始まり、2007年にJR東海が東海道新幹線の代替輸送路として営業運転開始を目指すことを表明。11年に国から東京-大阪間約438キロを最高設計速度で時速505キロで走行するリニアの営業・建設主体に指名された。計画では、27年開業予定の東京-名古屋間を40分、45年開業予定の東京-大阪間を67分で結ぶとしており、現在、環境影響評価手続きが進む。
http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1401100003/