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日本の原発輸出に反対するトルコの市民たち 「日本の原発が私たちの未来を盗む」―トルコ市民へのインタヴュー(川崎陽子:ジャーナリスト)

2014-05-09 01:32:20

シノップでのプナールさん
シノップでのプナールさん
シノップでの市民デモの様子


トルコ国内の複数の大都市では、毎年チェルノブイリ原発事故が起きた4月26日に、反原発運動が行われてきた。28年目の今年、原発建設予定地シノップ市のデモに参加したイスタンブール市在住のプナール・デミルジャンさん(38歳、日本語通訳・翻訳家)に、運動の背景や当日の様子を聞いた。

 

4月18日に日本の国会が承認したトルコとの原子力協定により、日本からシノップ原発が輸出される環境が整いつつある中で、トルコ人から日本人に寄せられたメッセージである。

 

― まずは、トルコで行われた反原発デモについて教えてください。

イスタンブール市、首都アンカラ、メリシン市とその近くのアンタリア市およびアダナ市、そしてエーゲ海地方のムーラ市やイズミル市でも、チェルノブイリの記念デモがありました。

ロシアによる原発建設が予定されているメリシン市は、地中海地方のいちばん東に位置し、その南にキプロス島があります。そのため、メリシン市で原発事故が起きたら大きな影響を受けるキプロス島のニコシアでも、地中海を守りたい人々が集まりました。

参加者の人数が約1万人といちばん多かったのは、シノップのデモです。年齢層は17才から50才くらいでしょうか。大勢は大学生で、子供も多く見ました。チェルノブイリ原発事故の影響を受けた両親が、子供達の未来のために反原発運動に参加しているので、デモに連れてきたのです。

シノップ市は、全国民に愛されている豊かな大自然の町です。ですから、政府に対する怒りを表明するために、遠く離れた全国各地からも大勢の人々が参加しました。

 

シノップでのプナールさん
シノップでのプナールさん


― トルコ観光局のガイドに「黒海で最も美しい天然港の一つです」とありますね。人口約20万人余りのシノップ市は、2006年に原発建設予定地となりました。

2006年にも今回と同じくらい激しい規模のデモがあったと、参加していた人々から聞きました。その後、当時の政府は一旦原発の建設計画をとり止めたのです。

シノップ市は、チェルノブイリ原発事故により大きな被害を受けた場所で、風力や太陽光発電の大きな可能性を秘めています。ですから、住民は他のエネルギー資源を検討せずに原発に投資するトルコと日本政府に反対しており、「三菱はこの街に風力発電機を設置するべきだったのに」と、悔しがっています。

 

日本のジャーナリスト守田敏也さんが、3月にトルコ各地で講演した際に通訳として同行しました。守田さんのシノップ取材報告:http://toshikyoto.com/press/1188 も読んでみてください。

 

―トルコのメディアは、東電の原発事故や被曝の危険性などについて、詳細に報道しますか。それとも、日本のように反原発デモの報道をせず、「原発は安全」という情報のほうが多いですか。

トルコでも政府の影響を受けているメディアが多く、政府の決定をサポートするテレビや新聞では、世論は反映されません。YouTubeは禁止されています。TWITTERも禁止でしたが、裁判で情報交換用のツールは禁止できないという結果になりました。

幸いにも、政府を支えるメディアがある一方で、政府と意見が合わず利潤も追求しない新聞やテレビもあります。おかげで、日本の政府もトルコの政府も嘘つきということを、誰もがもう知っていますよ。

トルコ人の多くは、反原発運動と関わっていない人でも、東電福島原発事故のことをとても残念に思っています。私たち自身、チェルノブイリ原発事故の被害者としての経験がありますから。

トルコ政府は、原発事故の影響、例えば癌や心臓病などの発症率の記録など、真実の情報を隠そうとしました。アメリカが原爆を広島に落とした時の記録を隠したように、将来の原発計画に否定的な影響をもたらさないためです。

私自身は、黒海沿岸の知り合いや友達から聞いたり、また政治家と癒着していない環境保護派の専門家の記事を読んだりしたので、がんの罹患率が増加したことを知っています。事故後の10年から20年の間に、がんで亡くなった人がたくさんいます。有名な歌手だったカジム・コユンジュという男性もその中の一人で、「チェルノブイリ原発事故後に降った雨が原因で、自分はガンになった」と、死ぬ前に何回も発表していました。

私たちは、日本の国会宛に原子力協定の即時撤回を求める要請書を送りましたので、国会議員にはトルコ人の60%が原発反対だということもわかったはずです。しかし、残念ながら協定は承認されてしまいました。

是非、日本の皆さんにトルコ人の憂える事情を伝えてください。私たちの未来が盗まれているところなのです。

(注)トルコ語で通常用いられるという「未来を盗む」という表現を、そのまま使いました。

(聞き手:環境ジャーナリスト 川崎陽子)

http://globalpress.or.jp/archives/staff/%E5%B7%9D%E5%B4%8E-%E9%99%BD%E5%AD%90-%E3%83%99%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC