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避難1.5万人「苦しみ同じ」 福島県浪江町、一律賠償和解案受け入れ(東京)
2014-05-27 11:55:31
福島第一原発事故で全町民が避難生活を強いられている福島県浪江町が、町民への慰謝料増額を原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)に申し立てた裁判外紛争解決手続きについて、町は二十六日、ADRの和解案受け入れを決めた。
町民の七割にあたる約一万五千人の意思を町が代表した例のない集団申し立ては、金額は届かなかったが、「苦しみはみな同じ」と一律増額にこだわった町の主張が認められた。東京電力が三十日の期限までに受け入れて早期解決となるかが焦点になる。 (編集委員・佐藤直子、社会部・小林由比)
「金額がいくらでも、増額が認められてよかった。町はすぐに帰れる状況にはなく、他のどこかに住むかも決められない。東電はこの(和解案の)意味を真摯(しんし)に受け止めてほしい」。浪江町から避難し、東京都江東区の東雲住宅で妻と三男と一緒に避難生活を送る飯村長治さん(67)はこう話す。
国が賠償基準とする二〇一一年八月の原子力損害賠償紛争審査会の中間指針では、慰謝料を一人月十万円と定めている。和解案は、少なくとも一二年三月十一日から今年二月末まで、月五万円の増額を提示した。七十五歳以上はさらに月三万円増額する。町側は、交通事故の入通院の慰謝料の一例である三十五万円を参考に、一律二十五万円増を求めていた。
「中間指針の妥当性を問い、基準の見直しにつなげたい」。同県二本松市で会見した馬場有・浪江町長は和解案をこう評価した。
今回の申し立ては、町民の個別交渉では限界がある慰謝料増額を集団の力で乗り越えようとした試みだ。
高齢の町民も多い。昨年五月の申し立てからの一年で、百七十七人が故郷を離れた場所で亡くなった。裁判以外の場で紛争解決を図るADRに申し立てたのも、慰謝料の一律増額にこだわったのも、救済が時間との闘いだったからだ。
東電側は一律増額に否定的だったが、個別事情を考慮した賠償では、一人一人の被害の立証が必要になる。町側は「精神的な苦しみに大小はない」と訴えた。和解案では、「苦しみは時間の経過とともに強まった」と判断、国の賠償基準では不十分だと指摘した。
ADRの仲介委員は現地調査も行い、被災者の苦悩に耳を傾けた。町が求めた増額には届かなかったが、集団申し立てでなければ救済の道は示されなかった。
浪江町の一部は避難指示解除準備区域となったが、高線量地域が多い。
東電は一月に政府に認定された「新・総合特別事業計画」で、和解仲介案の尊重を掲げている。東電が和解案を拒否すれば、町民側が裁判を起こすしかなく、早期解決とならない。
東電は「継続中の案件について詳細な回答は差し控えたい」とコメントした。
<原発ADR> 国が設立した、原発事故の損害賠償交渉を裁判以外の手続きで行う機関。法律家の仲介委員が、東電との交渉で合意できないケースで和解案を示す。これまでの申立数は1万1400件。審理終了分8500件のうち和解成立は6800件。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014052702000137.html