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「工場畜産」の爆発的拡大が生む百害 温暖化の加速だけでなく、肥満や循環器疾患増など健康問題も増大(東洋経済)
2014-09-07 15:29:27
工場式の畜産は、農業の産業化に不可欠な原動力だ。その容赦なき拡大は、気候変動、森林破壊、生物多様性の喪失、人権侵害などを引き起こすが、大本の原因は、安価な食肉を求める先進諸国の不健全な需要による。
20世紀には、欧州と米国が1人当たり年平均60~90キログラムの食肉を消費した。これはヒトの必要栄養量をはるかに超えている。一方で、新興諸国とりわけBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)で中流階級が急増し、食肉と乳製品に対する需要も拡大している。
そこで世界中のアグリビジネス(農業関連企業)は、年間食肉生産高を現在の3億トンから2050年に4億8000万トンに拡大しようとしている。そうなれば、価値連鎖(飼料供給→食肉生産→加工→小売り)のほとんどすべての段階で、深刻な社会的問題や生態学的な圧力が生じる。
工場式畜産は多量の温室効果ガスを排出する。さらに動物の排泄(はいせつ)物が、飼料の生産に使われる肥料や農薬と相まって、窒素酸化物を大量に発生させる。
大規模な土地利用の変更と、必然的な森林破壊が飼料生産時から始まる。現在の農地の約3分の1が飼料生産に使われており、畜産に使われる土地は、放牧を含めて農地全体の約70%に達した。
農作物の飼料への転換が拡大すると、食糧価格や土地価格に上昇圧力がかかり、世界中の貧困層は基本的な必要栄養量を満たすのがますます困難になる。
畜産の大規模化で発展途上国の農村の暮らしが危険にさらされる。大規模畜産業者は本来負担すべき環境コスト・健康コストをほかに転嫁することで、低価格での販売を実現している。だが、牧畜業者、小規模生産者、自営農家は、そんな安い小売価格にはまったく太刀打ちできない。工場式畜産システムでは、労働者の賃金も健康・安全基準も低いため、よい転職先としても期待できない。
肉や乳製品を過度に摂取すると、肥満や循環器疾患など健康問題の原因となる。また、動物を閉鎖空間で高密度で飼育すると、鳥インフルエンザなどヒトに感染する可能性のある感染症が拡大しやすくなる。そうした病気の予防(と成長促進)のために家畜に抗生物質を低量投与すると、抗菌薬に対する抵抗力が強まり公衆衛生を危機にさらしてしまう。
動物自体が恐ろしい状況に苦しんでいる。畜産業界が、動物福祉に関する合理的な基準の適用に抵抗しているからだ。寡占による急成長で政治力をつけた工場式畜産業者は、本来負担すべき社会的コスト・環境コストを、勤労者や納税者など一般国民に転嫁している。
EUでは、畜産システムの歪みを大幅に軽減するには「共同農業政策」(CAP)の主要2項目を改定すれば足りる。
まず、遺伝子組み換え飼料の輸入を禁止し、畜産業者が自ら飼育する動物に与える飼料の半分は自家農場で生産するよう義務づける。世界の栄養バランス不均衡は是正され、モンサントなど多国籍の農業バイオテクノロジー企業の力は減じる。さらに、動物の糞尿は長距離輸送の必要がなくなり、畜産業者が自らの土地に施肥して飼料生産に活用できる。
第二に、飼料および灌水設備への抗生物質の不必要な投与を禁止すべきだ。そうすれば動物が病気になった際に、畜産業者は獣医学的診断に基づき個別に治療せざるをえなくなる。
米国では、FDA(食品医薬品局)が抗生物質の非治療的使用を禁止してはどうか。また、米国農務省の農業法案プログラムが、もっと持続可能性の高い食肉生産方式の奨励を目的に、放牧型畜産への支援を拡大してはどうか。
新興諸国の中流層が増大する今日、食肉の生産・消費に関する既存の先進国モデルは、未来の健全な青写真ではない。環境保護、社会、倫理の観点から私たちが限界を見定め、その限界を超えないシステムを生み出すべき時が来ている。
(週刊東洋経済2014年9月6日号)
http://toyokeizai.net/articles/-/46919
20世紀には、欧州と米国が1人当たり年平均60~90キログラムの食肉を消費した。これはヒトの必要栄養量をはるかに超えている。一方で、新興諸国とりわけBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)で中流階級が急増し、食肉と乳製品に対する需要も拡大している。
そこで世界中のアグリビジネス(農業関連企業)は、年間食肉生産高を現在の3億トンから2050年に4億8000万トンに拡大しようとしている。そうなれば、価値連鎖(飼料供給→食肉生産→加工→小売り)のほとんどすべての段階で、深刻な社会的問題や生態学的な圧力が生じる。
多量の温室効果ガス
工場式畜産は多量の温室効果ガスを排出する。さらに動物の排泄(はいせつ)物が、飼料の生産に使われる肥料や農薬と相まって、窒素酸化物を大量に発生させる。
大規模な土地利用の変更と、必然的な森林破壊が飼料生産時から始まる。現在の農地の約3分の1が飼料生産に使われており、畜産に使われる土地は、放牧を含めて農地全体の約70%に達した。
農作物の飼料への転換が拡大すると、食糧価格や土地価格に上昇圧力がかかり、世界中の貧困層は基本的な必要栄養量を満たすのがますます困難になる。
畜産の大規模化で発展途上国の農村の暮らしが危険にさらされる。大規模畜産業者は本来負担すべき環境コスト・健康コストをほかに転嫁することで、低価格での販売を実現している。だが、牧畜業者、小規模生産者、自営農家は、そんな安い小売価格にはまったく太刀打ちできない。工場式畜産システムでは、労働者の賃金も健康・安全基準も低いため、よい転職先としても期待できない。
肉や乳製品を過度に摂取すると、肥満や循環器疾患など健康問題の原因となる。また、動物を閉鎖空間で高密度で飼育すると、鳥インフルエンザなどヒトに感染する可能性のある感染症が拡大しやすくなる。そうした病気の予防(と成長促進)のために家畜に抗生物質を低量投与すると、抗菌薬に対する抵抗力が強まり公衆衛生を危機にさらしてしまう。
動物自体が恐ろしい状況に苦しんでいる。畜産業界が、動物福祉に関する合理的な基準の適用に抵抗しているからだ。寡占による急成長で政治力をつけた工場式畜産業者は、本来負担すべき社会的コスト・環境コストを、勤労者や納税者など一般国民に転嫁している。
放牧型の畜産を支援するべき
EUでは、畜産システムの歪みを大幅に軽減するには「共同農業政策」(CAP)の主要2項目を改定すれば足りる。
まず、遺伝子組み換え飼料の輸入を禁止し、畜産業者が自ら飼育する動物に与える飼料の半分は自家農場で生産するよう義務づける。世界の栄養バランス不均衡は是正され、モンサントなど多国籍の農業バイオテクノロジー企業の力は減じる。さらに、動物の糞尿は長距離輸送の必要がなくなり、畜産業者が自らの土地に施肥して飼料生産に活用できる。
第二に、飼料および灌水設備への抗生物質の不必要な投与を禁止すべきだ。そうすれば動物が病気になった際に、畜産業者は獣医学的診断に基づき個別に治療せざるをえなくなる。
米国では、FDA(食品医薬品局)が抗生物質の非治療的使用を禁止してはどうか。また、米国農務省の農業法案プログラムが、もっと持続可能性の高い食肉生産方式の奨励を目的に、放牧型畜産への支援を拡大してはどうか。
新興諸国の中流層が増大する今日、食肉の生産・消費に関する既存の先進国モデルは、未来の健全な青写真ではない。環境保護、社会、倫理の観点から私たちが限界を見定め、その限界を超えないシステムを生み出すべき時が来ている。
(週刊東洋経済2014年9月6日号)
http://toyokeizai.net/articles/-/46919