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ついに出た原発推進路線の本命。原発電力の「買い取り価格保証制度」。原発の発電コストが「高い」ことを認める(古賀ブログ)

2014-09-12 22:27:27

kogashigeakitwitter3_reasonably_small

kogashigeakitwitter3_reasonably_small先月のメルマガで書いたとおり、経産省や電力会社が、「原発は高い」ということを事実上認める政策を進めようとしている。廃炉、汚染水、除染、何から何まで税金と電力料金に上乗せする動きはその後も続いている。その結果、今後も続々と電力料金値上げの動きが出ることが予想される。


 


そして、先月、ついに、最終兵器が正式に世の中に出て来た。それは、一言で言うと、――電力自由化が進むと、いろいろな電力会社が競争することになり、原子力発電による電力が、そのコストに見合った価格で売れる保証がなくなるので、赤字になるかもしれない。それでは困るので、その赤字分だけ電力需要家(消費者、企業)に電力料金として上乗せして請求することを認めよう――という話だ。


 


実は、これと類似の制度が、今年から英国で導入される。英国は、地震がほとんどないこともあり、福島事故後も、突出した原発推進路線を採る珍しい国だ。しかし、他の欧州諸国同様、安全基準厳格化によって、原発のコストが高くなり、民間事業としては成り立たなくなった。そのため、政府が特別の助成措置を認めたのである。もちろん他の欧州先進国にこんな馬鹿げた制度はない。


 


そして、この制度に乗って原発を英国内で作ろうとしているのが日立と東芝だ。他の欧米企業は、みんな逃げてしまったのに、日本の企業はいまだに原発にしがみついているのがよくわかる。


 


この英国の制度が昨年来話題になっていたのだが、当初は、この話は原子力ムラの住人にとって、痛し痒しだった。「英国がやってるのだから日本も原発に補助金を出そう」と言えそうだが、一方で、原発が火力や水力などに比べて高いということを認めることになる。昨年来、日本ではエネルギー基本計画の策定作業が続いていたが、その議論の中で「原発は安い!」と叫んでいた原子力ムラとしては、英国の制度は、原発が高いという証拠になってしまうので、「極めて不都合な」制度であった。


そのため、経産省などは、この制度の議論をひたすら隠してきた。何故なら、この制度の存在が知れて、やっぱり、先進国では、「原発は高い」というのが常識なんだということが露呈し、「だったら、原発は止めろ!」という議論になるのが怖かったからだ。


 


しかし、その後、「エネルギー基本計画」が今年の4月に閣議決定されて、状況は大きく変わった。エネルギー基本計画の中で、原発は「重要なベースロード電源」であると宣言され、原発の存続が国の正式な方針として確定したからだ。原子力ムラは、閣議決定後すぐに、「原発は重要なんだから維持が必要ですよね。でも、原発は事故の補償、廃炉、核のゴミ、いろんなコストがかさんで民間では維持できないんですよ。だから、税金か電力料金によるサポートが必要ですよね」と言い出した。つまり、原発が高いと公言し始めたのだ。


 


そして、8月下旬の経産省の審議会で、この制度の話が正式に検討の俎上に上がった。つまり、「原発はどんなに高くても維持する」という宣言をしていることになる。


これを前提にすれば、今後、原子力ムラは、あらゆるコストを「実はこんなにかかるんです」と言って申告できることになる。


 


その動きはあらゆる分野でいっせいに表に出てきている。廃炉コストのつけ回しについて、有識者会議を設置する。事故が起きた時の電力会社の損害賠償の負担を軽くしたり、免責にしてあとは税金につけ回しするための有識者会議も設置する。原子力損害賠償支援機構を改組して、廃炉に税金を投入して支援する制度も始まった。福島の事故による汚染土の中間貯蔵施設の建設に関連して3000億円の地元支援も決まったが、これは、本来は東電が負担すべきものだ。


 


実は、エネルギー基本計画には、原発は安いとは書いていない。「運転コストが低廉」という表現だけにとどめてある。つまり、建設コストや事故、廃炉、ゴミ処理のコストまで含めた総コストについては最初から触れていないのだ。これこそ国民を欺く安倍政権の手口だ。


 


 


●何故SPEEDIを使わないのか それは再稼動のため


 


 


原子力規制委員会は、SPEEDI(放射能拡散予測のシステム)に関する予算を大幅に削減することを明らかにした。SPEEDIでは、正確な拡散予測をすることが難しいという理由で、むしろ実測値を重視する方針に切り替えるという。


 


これに対して、実測値が出てからでは遅いとか、福島の事故の際にSPEEDIの予測は、その後判明した実際の汚染状況とかなりの程度整合的で、これを使っていれば、無用な被爆を避けることができたはずだといった批判の声が出ている。


 


しかし、この件のポイントは他にある。SPEEDIの信頼性をことさら低く評価する規制委の真の狙いは、再稼動を円滑にするのが目的ではないかと私は考えている。


 


SPEEDIによる拡散予測を各原発ごとに行なうと、30キロ以上の範囲で放射能汚染が広がることがわかっている。そうなると、現在、30キロ圏内で作ることになっている住民の避難計画を50キロ、あるいはそれ以上に広げろという議論が出てくる。現にそういう声は周辺自治体住民の中に強い。


 


しかし、仮に30キロ圏を越えた広い範囲で避難計画を作ろうとすれば、ただでさえ困難な策定作業はさらに難しくなり、ほとんど実現不可能になってしまうと考えられる。


 


そこで、SPEEDIというのはそもそもほとんど当てにならないのだ、ということにして、SPEEDIの予測結果を住民の避難計画に使用することを止めさせようということを原子力ムラは規制委に強く働きかけたのだと考えられる。


 


実は、この話には伏線がある。規制委が昨年改定した指針では、重大事故が起きた時の避難について、予測に頼らず判断するということが決まっている。それによれば、重大事故が起きた段階で5キロ圏は即避難とし、530キロ圏はとりあえず屋内退避。その後、毎時500マイクロシーベルトになった区域ごとに数時間以内に避難すると決めたのだ。


 


即避難というと、より迅速になった感じがするが、こうした判断の仕組みを採用することで、「機械的に」30キロを越える地域を避難対象からはずすという重大な効果が生じるのである。


 


今回、SPEEDIの予算を大幅に縮小することで、今後仮に、シミュレーションをやれという要求が出ても、できませんということになる。


 


避難計画も単純に5キロと30キロという線引きで作れば良いということになり、これ以上難しいことをしなくてよくなる。


 


私が大阪府市のエネルギー戦略会議で、滋賀県の独自シミュレーションを公開した時には、大飯原発の事故の際には、30キロどころか50キロを超えて、大阪府の南部まで汚染が広がるという結果が出ていた。大阪府内で避難計画を作るというのは事実上不可能だ。


 


今回のSPEEDIの予算縮小が、再稼動のためだという批判は、マスコミでは見られなかった。困ったことだ。