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東京地検、東電元会長らを再び不起訴。検察審査会が強制起訴か審査へ(東京)

2015-01-23 13:55:59

福島第一原発事故の収束に向けた工程表を公表、記者会見の終わりに陳謝する東京電力の勝俣恒久会長(当時)=2011年4月17日、東京・内幸町で
福島第一原発事故の収束に向けた工程表を公表、記者会見の終わりに陳謝する東京電力の勝俣恒久会長(当時)=2011年4月17日、東京・内幸町で
福島第一原発事故の収束に向けた工程表を公表、記者会見の終わりに陳謝する東京電力の勝俣恒久会長(当時)=2011年4月17日、東京・内幸町で


東京電力福島第一原発事故をめぐって業務上過失致死傷容疑で告発され、昨年七月に検察審査会が「起訴相当」(起訴すべきだ)と議決した東電の勝俣恒久(かつまたつねひさ)元会長(74)ら旧経営陣三人について東京地検は二十二日、再捜査の結果「巨大津波を予測し、事故を防ぐ対策を取ることはできなかった」と判断、再び嫌疑不十分で三人を不起訴とした。

今後、検審が再審査し「起訴すべきだ」と議決すれば、三人は強制的に起訴され、裁判が開かれる。


 

不起訴となったのは、勝俣元会長のほか、武藤栄(さかえ)元副社長(64)、武黒(たけくろ)一郎元副社長(68)。検審が昨年七月に「不起訴不当」と議決した小森明生(あきお)元常務(62)についても、地検は嫌疑不十分で不起訴とした。小森元常務の不起訴は確定した。




東電は二〇〇八年三月、政府機関の地震予測に基づいて高さ一五・七メートルの津波が到達する可能性があるとの試算を得ていた。この試算について昨年七月の検審議決は「科学的根拠があり、大規模津波を想定して対策を取る必要があった」と指摘した。

 




 再捜査の結果、地検は東日本大震災の際に福島第一原発を襲った津波は、この試算をはるかに上回る規模で、巨大津波の襲来を具体的に示す研究成果は存在していなかったと判断。「三人には巨大津波を予測して、事故を防ぐための対策を取る義務があったとは認められない」と結論づけた。

 




 原発事故をめぐっては、被災者らでつくる「福島原発告訴団」など複数の市民グループが告訴・告発。一三年九月に東京地検は、対象となった四十二人全員を不起訴とした。katsumataPK2015012302100037_size0

 




 東京電力の話 「検察当局の判断であり、コメントは差し控えたい」

 


◆審査員11人中8人、2度議決の場合


 


 <強制起訴> 検察が不起訴とした事件について、検察審査会による2度の審査で、選挙権のある国民からくじで選ばれた審査員11人中8人以上が「起訴すべきだ」と議決した場合、裁判所が選んだ検察官役の弁護士が、容疑者を強制的に起訴する制度。2009年5月に導入された。

 

 

◆原発事故 再び不起訴 刑事司法に限界

 

東京電力福島第一原発事故をめぐり、昨年七月の検察審査会の「起訴相当」議決から半年。当時の東電経営陣三人の刑事責任は問えないとする東京地検の判断は、再捜査を経ても変わらなかった。事故の法的責任追及をあいまいにしたまま、九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県)など他の原発が再稼働に向かう現状に、刑事司法の専門家からも「法的責任を問う新たな仕組みをつくるべきでは」と刑事司法の限界を指摘する声が上がる。 (清水祐樹、中山岳)

 


 甚大な被害を出し、今も多くの被災者が避難生活を余儀なくされているにもかかわらず、原発事業者の東電幹部や政府関係者は誰も法的責任を問われないのか-。それが告訴・告発した市民グループの主張の根幹だった。

 




 昨年七月に東電の勝俣恒久元会長(74)ら旧経営陣三人を「起訴相当」(起訴すべきだ)と指摘した検審も「原発は一度、事故が起きると甚大な被害をもたらす。原発事業者には極めて高度な注意義務があり、対策を取るべきだった」と指摘していた。

 




 二十二日に記者会見した東京地検の中原亮一次席検事は「原発の安全対策は、原発の特性を踏まえて可能性の低い危険性を取り上げるべきだとしても、無制限にはできない」と強調。東電幹部らの過失の有無の判断には「原発事故後に得られた知見や教訓を抜きに、事故が発生する前の事情を前提として判断せざるを得ない」と述べた。

 




 刑法の業務上過失致死傷罪は「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者」と定める。

 




 このため、原発事故について「東日本大震災の際のような大規模津波を予測し、東電が必要な津波対策を取っていれば事故を防げた」という市民側の主張は十分に成り立つ。

 




 だが、検察が同罪を適用するのは、当事者に誰が見ても明らかな重大な過失があったり、悪質性を示す証拠が見つかったりした場合に限られる。今回の不起訴も従来の判断の延長線上にある。

 




 東海大法学部の池田良彦教授(刑事過失論)は「『大規模な津波が来るかもしれない』といった漠然とした危機感だけで刑事責任を問えば、処罰対象が広がってしまう」と指摘する。

 




 一方で、「刑法には、取り返しがつかない被害を出す原発事故のリスクを扱い切れていない限界がある。原発事故に関する特別法をつくり、処罰のあり方を決めた方が良い」と提案した。

 




 検審が今後、あらためて起訴すべきだと議決すれば、三人は強制的に起訴され、刑事裁判が開かれる。だが、多数の死傷者を出した二〇〇五年のJR西日本の尼崎脱線事故で、業務上過失致死傷罪で強制起訴された旧経営陣について一審神戸地裁が無罪(大阪高裁に控訴)としたように、強制起訴事件で裁判所が有罪とするには高い壁がある。

 




 日本大法学部の船山泰範教授(刑法)は「同じ過ちを繰り返さないためにも、真相と責任の所在を明らかにすることが必要だ。(弁護士が検察官役となって起訴をする)強制起訴ではなく、検察自らが起訴して刑事裁判の場で事故を検証すべきだった」と指摘した。


 

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015012302000144.html