日本政策投資銀行法案と商工中金法案で、両政策金融機関の天下り機関化がほぼ確定した(古賀ブログ)
2015-03-15 01:53:23
「天下りですよ」
2月20日、「株式会社日本政策投資銀行法改正案」と「株式会社商工組合中央金庫法等の改正案」が国会に提出された。
たまたま、その前夜、ある居酒屋で経済産業省の若手官僚と会ったのだが、彼はこう嘆いた。
「今国会での財務省と経産省の最重要案件ですからね」「天下り。要するに天下りですよ」
日本政策投資銀行は財務省、商工中金は経産省の政策金融機関だが、実際には両機関とも両省と関係が深く、天下りも両省から受け入れている。
両行とも、建前上は、民間の金融機関ができないことをやることになっているのだが、実際には、業務が民間と重複する。昔から、銀行などの金融機関から民業圧迫と批判されてきた。
●情実融資で利権の巣。挙句は国民の税金投入
また、国の丸抱えなので、本来は市場で淘汰されるべき企業にまで出融資ができる。それによって、日本の経済構造改革を阻害してきた。その典型例がエルピーダメモリへの救済出資だ。経産省の「産業政策」の錦の御旗の下に、政投銀が300億円もの資本注入をしたのだが、結局は経営破たんに追い込まれた。その裏では経産官僚がインサイダー取引を行なって刑事事件にまでなっている。
私が、中小企業庁の経営支援部長をしていた時も、自民党議員から商工中金への融資斡旋の依頼がよく来た。幸い、私は担当ではなかったので、直接汚職に手を染めるような事態に追い込まれることはなかったが、下手に冷たくあしらうと、担当法案の審議などで嫌がらせを受けたりするから厄介な問題だった。
私から見れば、こんな情実融資に使われるなら、さっさと完全民営化をして欲しいと思ったものだ。
このようなおかしな出融資が行なわれると焦げ付きが出るから、税金投入が常態化する。おまけに官僚や族議員の利権の温床でもある。
●完全民営化先延ばしと天下りポスト奪還
~官僚文学で「完全民営化は堅持」と嘘をつく
こうした批判に応えて、小泉純一郎政権は、両行の政府保有株式を全て売却し、完全民営化することにした。ちなみに、完全民営化しても、いざというときはその都度政府が利子補給したり、緊急出資したりする仕組みをさえ整えておけば、何の問題もない。
しかし、官僚と族議員たちは、リーマンショック、さらには、東日本大震災などを理由にして、株式を売却するどころか、逆に政府が両行に随時出資できるようにしてしまった。しかも、当初は「平成20年10月から5~7年後を目途」とされていた株式の完全売却期限を「平成27年4月から5~7年後を目途」と7年も先送りすることに成功していた。
政投銀も商工中金も両省にとって最重要天下り機関だ。改革のあおりを受けて、他の政府系金融機関とともに一時民間人にトップの天下りポストを明け渡してしまったが、その後、官僚に甘い安倍政権は、昨年、商工中金社長に杉山秀二元経済産業次官、日本政策金融公庫総裁に細川興一元財務次官、国際協力銀行総裁に渡辺博史氏元財務官を就任させた。残る政投銀への財務官僚OB就任も時間の問題と見られている。
しかし、官僚から見ると、これでも不安だ。何故なら、現行法のまままだと、遅くとも両行は平成34年には完全民営化されてしまうからだ。
そこで、完全民営化を完全に葬り去ろうと画策した。その結果が、今回の法案に書き込まれた、政府が「当分の間」株式を「保有する」義務である。「当分の間」と書いたら、霞ヶ関では、「永遠に」よりは弱いが、基本的には「いつまでも好きなだけ」という意味になる。この結果、完全民営化の時期はまったくわからなくなってしまった。
もちろん、これに対する批判封じの小細工もしてある。法案に、株式保有の必要性がなくなったら「速やかに」売却すると書いたのだ。そして、両省は、この言葉を掲げながら、「速やかに」だから、かえって売却時期が早まるかもしれないなどという見え透いた言い訳をしている。そして、驚いたことに、安倍政権は目をつぶってこれを了解した。
もちろん、こんな文言は、政府が「必要だ」といい続ける限り、無期限に民営化を先送りできるから何の意味もない。
両省の事務次官にとって、天下り確保は最優先課題だ。冒頭の経産官僚によれば、同省では、電力自由化の法案よりもこの法案の方が優先度が高いという。
これほどまでに官僚の思い通りの法案が出せるとは、両省とも最初は考えていなかったかもしれない。しかし、経産省と財務省の幹部が鉄壁の協力体制を敷けば、安倍政権もまったく太刀打ちできなかった。しかも、現在の国会では、与党が衆参で過半数を占めるから法案は通ったも同然。官僚側の完全勝利だ。
●日切れ法案ならまともな審議は不要
これらの法案は、なぜか、電力改革法案よりも先に審議される。その理由は、「日切れ法案」だという理由だ。日切れ法案とは、ある一定の日まで(通常は年度末まで)に成立させないと新年度の事業に支障が出るというものだ。二つの政府系金融機関には、特に法律改正しなくても、随時政府が出資出来るという規定があるが、その期限が今年度末、すなわち3月31日までである。今回出された法案では、その期限も延長することになっている。4月1日以降も、いつでも政府が出資できる体制を確保しておくためには3月31日までに法律を成立させなければならない。
それはそのとおりなのだが、仮に法律の成立が5月になったらどうなるのか。
単に4月一杯は政府出資が出来ないというだけで、5月からは出資できる。それで何の問題も生じない。しかし、両省は、このように言う。「4月1日に、また東日本大震災級の地震が来るかもしれないし、リーマンショック並みの金融危機が来るかもしれない。来ないという保証はあるのか?」と。
しかし、そんなことを言うなら、大地震によって川内原発で事故が起きた時に、道路は壊れず、住民は整然と避難できますなどというとんでもなく楽観的な避難計画がそのままで大丈夫だという保証はあるのかという反論が来るだろう。とてつもない楽観論にたって進める原発再稼動とノミの心臓のように心配性進める天下り機関温存政策。
なぜ、日切れ法案にこだわるのかといえば、日切れにすれば、3月31日までに通さなければということになって、3月下旬にほとんどまともな国会審議もないまま成立してしまうからだ。こんなことを許している国会も国会だが、安倍政権は一体何をしているのだろうか。
安倍総理は、今国会を「改革断行内閣」と名づけ、施政方針演説で、「知と行は二つにして一つ」という吉田松陰の言葉を引用し、「 ・・・求められていることは、・・・『改革の断行』であります」と声高らかに謳いあげた。
しかし、今回の民営化先送り法案は、財務・経産省の天下り完全擁護法案だ。改革とは正反対。「知行合一」が聞いてあきれる。この言葉を引用された吉田松陰先生もさぞかし迷惑なことだろう。
前回の動画版では、農協改革がいかに看板倒れかを解説した。要するに、アベノミクスには、海外メディアが見抜いたように、「改革」の文字はないのだ。
安倍総理は、今国会を「改革断行国会」から「改革逆行国会」に改名すべきではないか。
2月20日、「株式会社日本政策投資銀行法改正案」と「株式会社商工組合中央金庫法等の改正案」が国会に提出された。
たまたま、その前夜、ある居酒屋で経済産業省の若手官僚と会ったのだが、彼はこう嘆いた。
「今国会での財務省と経産省の最重要案件ですからね」「天下り。要するに天下りですよ」
日本政策投資銀行は財務省、商工中金は経産省の政策金融機関だが、実際には両機関とも両省と関係が深く、天下りも両省から受け入れている。
両行とも、建前上は、民間の金融機関ができないことをやることになっているのだが、実際には、業務が民間と重複する。昔から、銀行などの金融機関から民業圧迫と批判されてきた。
●情実融資で利権の巣。挙句は国民の税金投入
また、国の丸抱えなので、本来は市場で淘汰されるべき企業にまで出融資ができる。それによって、日本の経済構造改革を阻害してきた。その典型例がエルピーダメモリへの救済出資だ。経産省の「産業政策」の錦の御旗の下に、政投銀が300億円もの資本注入をしたのだが、結局は経営破たんに追い込まれた。その裏では経産官僚がインサイダー取引を行なって刑事事件にまでなっている。
私が、中小企業庁の経営支援部長をしていた時も、自民党議員から商工中金への融資斡旋の依頼がよく来た。幸い、私は担当ではなかったので、直接汚職に手を染めるような事態に追い込まれることはなかったが、下手に冷たくあしらうと、担当法案の審議などで嫌がらせを受けたりするから厄介な問題だった。
私から見れば、こんな情実融資に使われるなら、さっさと完全民営化をして欲しいと思ったものだ。
このようなおかしな出融資が行なわれると焦げ付きが出るから、税金投入が常態化する。おまけに官僚や族議員の利権の温床でもある。
●完全民営化先延ばしと天下りポスト奪還
~官僚文学で「完全民営化は堅持」と嘘をつく
こうした批判に応えて、小泉純一郎政権は、両行の政府保有株式を全て売却し、完全民営化することにした。ちなみに、完全民営化しても、いざというときはその都度政府が利子補給したり、緊急出資したりする仕組みをさえ整えておけば、何の問題もない。
しかし、官僚と族議員たちは、リーマンショック、さらには、東日本大震災などを理由にして、株式を売却するどころか、逆に政府が両行に随時出資できるようにしてしまった。しかも、当初は「平成20年10月から5~7年後を目途」とされていた株式の完全売却期限を「平成27年4月から5~7年後を目途」と7年も先送りすることに成功していた。
政投銀も商工中金も両省にとって最重要天下り機関だ。改革のあおりを受けて、他の政府系金融機関とともに一時民間人にトップの天下りポストを明け渡してしまったが、その後、官僚に甘い安倍政権は、昨年、商工中金社長に杉山秀二元経済産業次官、日本政策金融公庫総裁に細川興一元財務次官、国際協力銀行総裁に渡辺博史氏元財務官を就任させた。残る政投銀への財務官僚OB就任も時間の問題と見られている。
しかし、官僚から見ると、これでも不安だ。何故なら、現行法のまままだと、遅くとも両行は平成34年には完全民営化されてしまうからだ。
そこで、完全民営化を完全に葬り去ろうと画策した。その結果が、今回の法案に書き込まれた、政府が「当分の間」株式を「保有する」義務である。「当分の間」と書いたら、霞ヶ関では、「永遠に」よりは弱いが、基本的には「いつまでも好きなだけ」という意味になる。この結果、完全民営化の時期はまったくわからなくなってしまった。
もちろん、これに対する批判封じの小細工もしてある。法案に、株式保有の必要性がなくなったら「速やかに」売却すると書いたのだ。そして、両省は、この言葉を掲げながら、「速やかに」だから、かえって売却時期が早まるかもしれないなどという見え透いた言い訳をしている。そして、驚いたことに、安倍政権は目をつぶってこれを了解した。
もちろん、こんな文言は、政府が「必要だ」といい続ける限り、無期限に民営化を先送りできるから何の意味もない。
両省の事務次官にとって、天下り確保は最優先課題だ。冒頭の経産官僚によれば、同省では、電力自由化の法案よりもこの法案の方が優先度が高いという。
これほどまでに官僚の思い通りの法案が出せるとは、両省とも最初は考えていなかったかもしれない。しかし、経産省と財務省の幹部が鉄壁の協力体制を敷けば、安倍政権もまったく太刀打ちできなかった。しかも、現在の国会では、与党が衆参で過半数を占めるから法案は通ったも同然。官僚側の完全勝利だ。
●日切れ法案ならまともな審議は不要
これらの法案は、なぜか、電力改革法案よりも先に審議される。その理由は、「日切れ法案」だという理由だ。日切れ法案とは、ある一定の日まで(通常は年度末まで)に成立させないと新年度の事業に支障が出るというものだ。二つの政府系金融機関には、特に法律改正しなくても、随時政府が出資出来るという規定があるが、その期限が今年度末、すなわち3月31日までである。今回出された法案では、その期限も延長することになっている。4月1日以降も、いつでも政府が出資できる体制を確保しておくためには3月31日までに法律を成立させなければならない。
それはそのとおりなのだが、仮に法律の成立が5月になったらどうなるのか。
単に4月一杯は政府出資が出来ないというだけで、5月からは出資できる。それで何の問題も生じない。しかし、両省は、このように言う。「4月1日に、また東日本大震災級の地震が来るかもしれないし、リーマンショック並みの金融危機が来るかもしれない。来ないという保証はあるのか?」と。
しかし、そんなことを言うなら、大地震によって川内原発で事故が起きた時に、道路は壊れず、住民は整然と避難できますなどというとんでもなく楽観的な避難計画がそのままで大丈夫だという保証はあるのかという反論が来るだろう。とてつもない楽観論にたって進める原発再稼動とノミの心臓のように心配性進める天下り機関温存政策。
なぜ、日切れ法案にこだわるのかといえば、日切れにすれば、3月31日までに通さなければということになって、3月下旬にほとんどまともな国会審議もないまま成立してしまうからだ。こんなことを許している国会も国会だが、安倍政権は一体何をしているのだろうか。
安倍総理は、今国会を「改革断行内閣」と名づけ、施政方針演説で、「知と行は二つにして一つ」という吉田松陰の言葉を引用し、「 ・・・求められていることは、・・・『改革の断行』であります」と声高らかに謳いあげた。
しかし、今回の民営化先送り法案は、財務・経産省の天下り完全擁護法案だ。改革とは正反対。「知行合一」が聞いてあきれる。この言葉を引用された吉田松陰先生もさぞかし迷惑なことだろう。
前回の動画版では、農協改革がいかに看板倒れかを解説した。要するに、アベノミクスには、海外メディアが見抜いたように、「改革」の文字はないのだ。
安倍総理は、今国会を「改革断行国会」から「改革逆行国会」に改名すべきではないか。