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いまだ残る原油、メキシコ湾流出事故(National Geographic)

2012-03-25 18:34:35

オーバーン大学の研究チームが撮影した、さまざまな大きさのタールボール(赤い印の近くにある黒い塊)。2012年に行ったメキシコ湾岸の砂浜の現地調査で発見された。
オーバーン大学の研究チームが撮影した、さまざまな大きさのタールボール(赤い印の近くにある黒い塊)。2012年に行ったメキシコ湾岸の砂浜の現地調査で発見された。


2010年4月に発生したメキシコ湾原油流出事故の原油は、いまだに周辺の砂浜へ打ち上げられている。アメリカ、アラバマ州にあるオーバーン大学のT・プラバカール・クレメント(T. Prabhakar Clement)氏とジョエル・ヘイワース(Joel Hayworth)氏が2月中旬の週末に同州オレンジビーチを調査したところ、嵐の後の翌朝には、ベタベタしたタールボール(油塊)が何百個も発見されたという。

「直径1センチ以下から4センチまでのタールボールだらけだった」とクレメント氏は振り返る。「非常に柔らかく、分解が進んでいた。目に見えない小さなかけらも多数あるだろう。5時間かけて約16キロの範囲を調査し、1000個以上のタールボールが集まった。石油掘削基地ディープウォーター・ホライズンによる流出事故の深刻さを明確に示している」。
タールボールは、風化した原油と海岸の砂や貝殻などが混ざった柔らかい塊だ。ピンの頭大からバスケットボール大までさまざまなサイズが存在する。海洋油田掘削会社トランスオーシャンのディープウォーター・ホライズンで大規模な爆発が起こり、イギリスBP社のマコンド油井から500万バレル近い原油が流出した事故から間もなく2年、BP社の作業員は現在もメキシコ湾岸の砂浜で回収を続けている。しかし、タールボールがない浜も多く、定期的に打ち上げられる場所でも、常に確認されるわけではない。
「中規模の嵐の後、砂浜に下りてみれば、再び原油が流出したように見えるだろう。しかし、砂は波によって短時間で入れ替わり、波打ち際も絶えず変化している。観光客にとっては、まったく汚れていないように感じられるだろう」とヘイワース氏は語る。作業員があらゆる場所を監視しており、タールボールをすぐに回収して回っていることも一因かもしれないという。
◆タールボールを追跡
ディープウォーター・ホライズン事故は唯一の原因ではない。海洋での原油掘削による日常的な流出、船舶の排出、陸からの流出、さらには海底からの自然漏出も一部を占めている。米国科学アカデミーの国家研究会議(NRC)が2002年に発表した報告書によれば、毎日1300バレルを超える原油がメキシコ湾で自然漏出しているという。ただし、オーバーン大学のクレメント氏とヘイワース氏による研究では、現在メキシコ湾岸に打ち上げられているタールボールの大部分はディープウォーター・ホライズンが直接的な原因と示されている。
一方、BP社と連邦政府、州政府が連携して立ち上げた「ディープウォーター・ホライズン統合コマンド(Deepwater Horizon Unified Command)」は2011年11月、海岸汚染の完全除去を目的とする計画(SCCP)を発表。4州を対象とした6カ月間の調査の結果、事故とは無関係なタールボールを約5000個確認したと指摘している。
クレメント氏は、「報告書の内容を見ると、BP社はほかの汚染源もディープウォーター・ホライズンと同程度の影響があると匂わせている」と分析する。「しかし、その気になれば、われわれはオレンジビーチ調査の最終日だけで5000個以上のタールボールを苦もなく集めることができただろう」。また、流出事故に起因するタールボールは容易に追跡できる。統合コマンドの報告書にも明記されているが、事故由来のタールボールは80%が砂で、すぐに崩れてしまう。SCCPによれば、この物理的な性質はメキシコ湾のほかのタールボールとは異なるため、化学的な分析をしなくとも現地で簡単に見分けられるという。

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20120323001&expand#title