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英国が新設原発に多額の政府補助供与。これに脱原発国のオーストリアが「待った」と欧州裁判所提訴へ。英国は”報復”宣言(FGW)

2015-02-14 18:07:15

英ヒンクリー・ポイントBの原発サイト


英国が国内のヒンクリー・ポイント原発サイトに建設される新規原子炉に多額の政府補助金を拠出する問題で、「脱原発国」のオーストリアとの摩擦が表面化している。

英ヒンクリー・ポイントBの原発サイト
英ヒンクリー・ポイントBの原発サイト


  オーストリアは英国の補助金を認めた昨年10月の欧州委員会の決定が誤りだとして、4月にも欧州司法裁判所に提訴する構えだからだ。これに対して英国の駐オーストリア大使が、「そんなことしたら、英国はあらゆる手段を使ってオーストリアにダメージを与えるぞ」と圧力を加えた文書が暴露され、欧州全体で話題となっている。

 

焦点となっているのは英国西部のサマセットにあるヒンクリー・ポイント原発。現在、ポイントAとBに合計4基の原発があるが、Aの2基は老朽化によってすでに稼働停止しており、Bの2基も2016年に稼働停止年限を迎える。このため、英国政府はポイントCに、仏電力会社EDFによる新たな原発建設(発電容量3.2GW)を認めることとし、176億ポンド(約3兆2000億円)の政府補助金を与えるとした。

 

この英国政府の方針を、前バロッソ委員長の欧州委員会は昨年10月に承認した。しかし、オーストリアは、今年1月、原発建設だけにこれだけ多額の政府補助を認めるのは、EUの単一エネルギー政策に反する、として欧州司法裁判所に提訴する考えを明らかにした。実際、欧州委員会は、これまでにドイツの再生可能エネルギー発電への政府補助金を否定するなどの立場をとってきた。

 

問題を複雑にしそうなのは、仏電力の英国での原発建設には、英政府の補助金に加え、中国の投資資金も投入される点である。また販売される予定の電力価格は現在の市場レートの倍も高くなる。このため英国内でも、環境団体だけでなく、消費者などからも「フランスの電力会社と中国の投資家がメリットを受けるために税金を使うのか」との疑問が出ているという。

 

オーストリアは、国内に1基原発を持つが、稼働しないまま住民の反対で停止し、現在は原発ゼロ。また国内で使う電力については、販売する電力1kWhに、何によって発電されたものかを明らかにする「電源証明書」を用意することを義務付ける制度も設けており、EU域内の国からの輸入電力にも適用している。

 

オーストリアが提訴すると、最低でも建設計画は2年遅れ、場合によると4年は遅れる、との見方も出ている。原発、再エネ、火力の各電源をバランスさせたエネルギー調達を「ベスト・ミックス」政策としてアピールしている英政府にしてみると、ヒンクリー・ポイントCの建設の遅れは大きな打撃となる。また原発への政府補助金が否定されると、他の原発推進国の政策にも影響を及ぼす。

 

こうした中で、暴露されたのが英国からオーストリア政府に対する「恫喝メモ」である。英外務省と駐英オーストリア大使の会合の様子を記しメモが、GreenpeaceUKによってリークされた。それによると、会合で英外務省高官は、大使に対して「英国はオーストリアにダメージを与える綿密な反撃対策をすでに開始した。さらなる手段を加速的に講じる」などと通告している。

 

オーストリア側は、こうした英国の強硬姿勢はキャメロン英首相の指示によるものと、受け取ったとしている。またオーストリアは、英国が国内のエネルギー源に何を選ぶかという判断に関与するつもりはなく、あくまでもEU内での競争条件を公平に扱うための政府補助金の取り扱いの問題だ、としている。

 

問題の根源には、EUがエネルギーについても単一市場を目指しながら、各国の政治判断が絡む原子力については、ユーラトム条約で長い間、他のエネルギー源とは別扱いにしてきた「ダブル・スタンダード」がある。EUには「脱原発国」と「原発推進国」が併存していながら、電力網は相互接続でつながっているため、結果的に他国の異なる原発政策が自国の政策に影響を及ぼす構造となっている。