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米国で「原爆投下70年」を経て 「マンハッタン計画」の“負の置き土産”が顕在化。セントルイスで核廃棄物保管場に、地下火災延焼のリスク(RIEF)

2016-01-11 02:32:51

stluisキャプチャ

  米国は昨年末、二次大戦中に原子爆弾を開発した「マンハッタン計画」を記念する国立歴史公園をオープンした。一方で、同計画の「負の置き土産」である放射性廃棄物問題が米国内で不気味なくすぶりを高めている。

 

 米環境保護庁(EPA)はこのほど、米国第二の廃棄物処理会社であるRepublic Services(RS)社に対して、同社がセントルイス市で運営する埋立地内の地下で5年間燃え続けている自然発火の火災を防止する措置をとるよう命じた。

 

 地下火災はBridgetonにある廃棄物埋め立て地で発生している。その近くの West Lakeの埋立地には「マンハッタン計画」で開発した原爆等の放射性廃棄物が大量に保管されており、火はそこに迫る勢いで、現在、核廃棄物置き場の約400mの地点にまで近づいているという。

 

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 EPAは火災が広がらないよう、火元のBridgetonの埋立地側に火災をブロックする設備の設置と、West Lake側には、万一に備えて追加的に冷却設備や防火用の地下壁などの設置を求めている。両施設とも、RS社が管理している。

 

 RSは「火災が核廃棄物に到達することはない」としながらも、EPAの指示に従って防火設備を設置するとしている。EPAが今回命令を出したのは、火災の責任者であるRS社の対応のまずさを問題視したミズリー州検察官による訴訟の審判が、3月に予定されていることを意識したものとみられる。

 

 ミズリー州検察官は2013年、RS埋立地の地下火災問題が周辺に悪臭や煙害を及ぼしており、会社側の対応を求めて訴訟に訴えた。火災自体、発火原因は不明で5年間燃え続けている(逆に言うと、5年間も消せない)ことは異常だ。軍事用の原爆の廃棄物が野ざらしの状態で40年も置かれたままという米国の原子力管理の杜撰さも驚きだ。

 

 West Lakeの核廃棄物置き場は1990年に国のスーパーファンドの指定廃棄物埋め立て地に指定されている。しかし放射性廃棄物は地面の上にむき出しのように置かれた形。2008年にようやくEPAが廃棄物を岩や土砂などでカバーをする処理計画を示した。ただ、反対意見が強く、EPAは計画を撤回した後、そのままの状態が続いている。

 

 セントルイスの郊外にはマンハッタン計画のウラン製造のための化学工場があった。その施設跡からは2015年になって、トリウム230の汚染が確認され、騒ぎになっている。

 

  トリウムが発見されたセントルイス郊外では、公園の除染作業が行われた。汚染の原因はマンハッタン計画で出た放射性廃棄物を、十分な処理を伴わないまま、市内の複数の場所に捨てたためとみられる。EPAの調査では、廃棄物処理場が置かれている地域でのがん発生確率が増大しているという。

 

 実はマンハッタン計画の「負の置き土産」はセントルイスに残るだけではない。同計画は、全米各地で分担するように原爆開発を展開したことから、ハンフォード、オークリッジ、セントルイスやユタ、コロラド、ニューヨークなどの、開発拠点となった多くの地域に核廃棄物が今も眠っている。住民の健康被害への不安も次第に各地で顕在化しつつあり、社会問題として広がりつつある。

 

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 マンハッタン計画による原爆投下から70年を経て、米国内で「負の置き土産」が、その影響を浸みださせているわけだ。その中で米国は、昨年12月11日、ニューメキシコ州のロスアラモスで、原爆を開発した「マンハッタン計画」を記念する国立公園指定の記念式典を開いた。

 

 nukeusaキャプチャ

 

 同地には計画の関連施設が残されており、歴史的偉業を後世に残す公園として5年がかりで整備するという。原爆を投下された広島、長崎の被爆者や米国内の平和団体などからは、「原爆投下を美化につながるのではないか」などの懸念も示された。

 

  そのニューメキシコ州Caldsbadの核廃棄物貯蔵施設では、2014年2月に放射能漏れがあった。米国は最終処分場も決まっていない。ネヴァダ州ユッカマウンテンに高レベル放射性廃棄物処分場を建設してきたが、オバマ政権が2009年に建設を中止させたため、使用済み核燃料の処分場は、軍事用も民生用も、両方とも受け皿のない状態のままとなっている。米国の原発政策も漂っている――。