日本生命保険。石炭関連に加えて、石油・ガスの新規採掘事業も投融資の対象外と明記。日本の大手金融で初。NZAOAの提言に沿う。パーム油、タバコ関連企業も除外(RIEF)
2023-08-07 18:22:04

日本生命保険は7日、「ESG投融資の高度化」措置として、投融資対象から除外するネガティブスクリーニングの範囲を強化し、これまでの新規の石炭火力発電事業への投融資禁止に加え、石油・ガスの採掘事業も投融資の対象外とするとした。石炭採掘に加え、石油・ガスの採掘事業を投融資の対象外とするのは日本の大手金融機関では初めて。同社が加盟するNZAOA(ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス)が3月に公表した、石炭以外の石油・ガスへの投資削減を求める提言に沿った対応だ。他の金融機関の追随も期待される。
同社は同日公表した改定ESG投融資方針の中で、「ESGを取り巻く環境はグローバルに大きく変化しており、実社会を所与としたこれまでの取り組みではなく、環境・社会問題の解決という視点(アウトカム創出)を投資プロセスに組み込む考え方が世の中で拡大している」と指摘。こうしたグローバルな潮流を捉えながらESG投融資を継続強化することが、運用収益向上に寄与し、保険契約者への長期的な保障責任を果たすことにつながる、と位置付けている。
この視点から、今回のESG投融資の取り組み方針の改定では、特定の業種への投融資を除外する「ネガティブスクリーニング」の対象を強化した。これまでも内外の石炭火力発電事業や特定の兵器製造業(クラスター弾、生物兵器、化学兵器、対人地雷)を除外対象としてきたが、今回、化石燃料分野では、石炭火力事業に加え、石炭の炭鉱や新規の油田、ガス田の採掘事業へのプロジェクトファイナンスへの参画の除外を新たに明記した。
化石燃料事業向け投融資禁止の範囲拡大は、同社が加盟する金融機関の有志連合、NZAOAが、加盟企業に対して石油・ガスへの新規投資についても、ネットゼロへのトランジション(移行)対象と位置付け、すでに加盟企業としての共同行動対象の石炭採掘(一般炭)に加えて、石油・ガス事業のネットゼロ適合を推進するとした提言を公表している。日生はNZAOAの署名機関として同提言に沿った自社基準を整備した形だ。
石炭関連だけでなく、石油・ガス関連の採掘事業への新規投融資を原則として除外することを明記したのは、保険会社で初めて。また銀行業の3メガバンクでも投融資上の「配慮」にとどめており、日本の大手金融機関においては、日生が初といえる。

除外措置の例外規定も設定している。既存の油田・ガス田事業への投融資は継続するほか、CCUSを併設して排出CO2を吸収する等の措置を伴う場合は、新規の投融資も認めるとしている。CCUSの技術コストを適正評価できるかがカギとなる。
化石燃料分野以外では、除外対象の兵器産業に新たに「核兵器」を加えたほか、生物多様性・人権分野では「パーム油関連企業」も投融資の対象外とした。健康問題上の配慮から、タバコ関連産業も除外した。
他の生保大手では、第一生命保険が石炭採掘事業のプロジェクトファイナンスの引き受けや新規の石炭・石油・ガス火力発電事業への投融資を禁止を明記している。住友生命保険や明治安田生命保険も石炭火力発電事業を除外扱いとしている。
国際エネルギー機関(IEA)は、2050年ネットゼロを実現するには、世界のエネルギー供給に占める石油・ガスの割合を、現行の52%から15%にまで減らす必要があると指摘している。現状の政策や企業の取り組みがこのまま続くと、50年においても、47%とほぼ横ばいにとどまってしまう。このため、石炭に加えて、石油・ガスの化石燃料事業すべてからの早期脱却が求められている。