HOME |米エクソン等のエネルギー大手4社の気候変動公約は、ほとんど行動に結びつかない「言行不一致」の「口約」。東北、京都両大の研究チームがデータ分析で解明。米英で大きな反響(RIEF) |

米エクソン等のエネルギー大手4社の気候変動公約は、ほとんど行動に結びつかない「言行不一致」の「口約」。東北、京都両大の研究チームがデータ分析で解明。米英で大きな反響(RIEF)

2022-02-21 16:09:52

Trenchardスクリーンショット 2022-02-21 143955

 

  エクソンモービル(ExxonMobil)等の世界のエネルギー大手4社が、気候変動対策の強化、脱炭素や再エネ重視等を強調する一方で、これらの取り組みが”口約”止まりで実際の投資にはほとんどつながっていない『言行不一致』であることを、東北大学と京都大学の研究者チームがデータ分析で明らかにした。米欧で大きな関心を呼んでいる。チームは過去12年間の4社の年次報告での気候関連のキーワード頻度、経営戦略、実際の化石燃料からの収益と再エネ投資額等を比較検証した。その結果、4社とも「言行不一致」と結論付けた。この指摘、日本の主要な炭素集約企業にも当てはまりそうだ。

 

 研究成果は「The clean energy claims of BP, Chevron, ExxonMobil and Shell: A mismatch between discourse, actions and investments」と題した論文で、2月16日付で科学ジャーナルサイトPLOS ONEに査読付きで掲載された。研究チームは東北大学のMei Li、明日香壽川、京都大学のGregory Trencherの3氏。https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0263596

 

 調査対象は、米国のエクソンモービル、シェブロン(Chevron)、欧州のBP、シェル(Shell)の4社。いずれも石油・ガスのグローバルプレイヤーだ。調査手法は、①各企業が年次報告書で多用するClimate等のキーワードを検索(discourse)②ビジネス戦略(pledges and actions)③再エネ等のクリーンエネルギー事業への投資と化石燃料事業での収益(Investments)の財務分析、について2009年~2020年間でのデータ分析を実施した。

 

 年次報告書でのキーワード検索では、Climate Change(気候変動)、low-carbon energy(低炭素エネルギー)、transition(移行)等の39のキーワードの頻度が目立った。これらの用語の頻度は経年的な変化が明瞭だ。

 

4社の主要なキーワード検索の推移
4社の主要なキーワード検索の推移

 

 たとえば「Climate Change」については2009年時点では、エクソンが最も頻度が高く、BP、シェル、シェブロンの順だった。メジャー最大手のエクソンへの市場の注目から、エクソンの対応が多かった形だ。ところが、2017年にはシェルがエクソンを抜き、2020年時点では、シェルがエクソンのほぼ倍に増え、BPもシェルに次ぐ頻度だった。一方、シェブロンは12年間、一貫して最下位のまま。

 

 シェルとBPは、気候変動が人間活動によるもの、との認識を対象期間中の経営戦略で明瞭に示している。だが、エクソンとシェブロンはこうした認識をしばし無視してきた。エクソンの場合、2018年に間接的かつ弱い表現で「人間活動の影響」について言及した。しかし、2020年の戦略ではこの表現は消えている。シェブロンも2011年~17年は化石燃料の使用が温暖化に影響を及ぼしていることを認めながら、それ以降は表現自体が消えているという。

 

 上流部門(化石燃料の採掘事業)への設備投資(CAPEX)をみると、4社とも2013年がピークで、14年以降は化石燃料価格の変動が激しくなったため、設備投資は効率性の強化にシフトしている。米欧企業を比較すると、欧州企業の上流部門での設備投資抑制は、米系2社より顕著だ。上流部門のCAPEX比率では、シェブロンが2016年の90%から19年の85%へほぼ横ばいだが、エクソンを含む他の3社は2020年には60%台後半の水準に下がっている。

 

4社の上流部門への設備投資の推移
4社の上流部門への設備投資の推移

 

 再エネ事業への投資では、エクソンはCAPEX全体の0.23%しか振り向けていない。この点を研究チームのトレンチャー氏は「クリーンエネルギーへの投資額の少なさは、口約と行動が一致しない実例の一つ」と指摘している。この傾向は4社に共通する点で、4社とも依然、多額の設備投資を化石燃料開発に充てていることに変わりはない。

 

 論文はこうしたデータ分析の結果から、エネルギー大手各社は、キーワードの表現を増大させ、経営戦略への盛り込みにもある程度の変化はあるものの、現実のビジネスでの具体的な転換行動を伴っていない「口約」が大半だった、と指摘している。それどころか、収益や投資動向の財務分析から「4社のビジネスモデルは依然、化石燃料ビジネスに依存し続けており、クリーンエネルギー分野への支出は些細かつあいまいでしかない」という現状を浮き彫りにしている。

 

 4社の個別分析では、シェブロン、BP、シェルの3社の化石燃料生産で「2050年ネットゼロ」にコミットしているにもかかわらず、対象期間中、むしろ生産量が増えている点を指摘している。欧州2社は、米2社に比べると、気候科学への適合度はいくぶん高く、エネルギー産業の気候変動フレームワークへの参加、内部カーボン価格制度の導入、さらにネットゼロ目標の設定等に早めに取り組んできた。

 

 米2社は、これより相当遅れている。最近になっても依然、再エネ投資には消極的態度を続け、化石燃料事業の生産を縮小するより、むしろ拡大させる野心を、戦略で明瞭に述べている、としている。論文は「4社の気候戦略に共通しているのは、『low -hanging fruit(大した努力をしなくとも達成できる目標)』に基づくもの」と評価している。欧州系が気候科学やカーボンプライシングへの支援、温室効果ガス排出量データの開示等を盛り込んでいることも、いずれも「達成容易なレベル」での対応とみなしている。

 

 英Guardian は同論文を「石油会社の気候主張は、グリーンウォッシングと論文が結論付けた(Oil firms’ climate claims are greenwashing , study conclues」との記事を掲載。こうした企業のグリーンウォッシング行動を支えるPR会社の問題にまで視野を広げている。Guardianは、エクソンとシェルの広告を扱う米大手PR会社のEdelmanや、BPとシェブロンを扱うWPPに対して、今回の研究論文の指摘に対するコメントを求めたが、両社はコメントを拒否しているという。https://www.theguardian.com/environment/2022/feb/18/greenwashing-pr-advertising-oil-firms-exxon-chevron-shell-bp

 石油メジャーのエネルギー関連広告やキャンペーン等に関わっているのはPR会社だけではない。ニューヨークタイムズやワシントンポスト等も紙面での広告やイベント等で企業側の言い分(口約)のキャンペーンにかかわっている。日本の新聞社が記事で気候変動問題を大きく取り上げる一方で、広告やイベント等では電力会社や鉄鋼・セメント等の炭素集約産業の温暖化取り組みを、「先行事例」のようにアピールする場を提供しているのと同じ構造だ。

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0263596

詳しく見る