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三菱商事、Scope3のカテゴリー11(販売に伴う排出量)を開示。現状開示の約15倍。うち移行リスクの高い事業4割弱。ISSB基準を先取りした形だが、削減の困難さも浮き彫り(RIEF)

2023-03-01 18:10:03

SHouji003キャプチャ

 

 三菱商事は、同社にとって排出量の多いバリューチェーン等での排出量であるScope3のうち、カテゴリー11(販売した製品の使用に伴う排出量)を開示した。2021年度の同排出量の実績は3億8125万㌧。これまでの同社の開示排出量の約15倍に膨らむ。対象事業としては天然ガスや原料炭などの金属資源事業のほか、製鉄プラントや鉄道等のインフラ輸出事業等が多い。このうち、4割弱は移行リスクの高い事業という。同社は、同指標とScope1の6.5ガス(エネルギー起源のCO2以外のGHGガス)排出量を、温暖化激化に伴う座礁資産化回避の指標として位置付けるとしている。

 

 Scope3排出量は、自社の上流(サプライチェーン)、下流(販売活動)の両方をカバーするバリューチェーン全体の排出量。GHG排出量全体の6~7割を占めるとされる。三菱商事の場合、これまもScope3のカテゴリー15(投資)は開示してきた。今回、開示したカテゴリー11は同社の取り扱い製品・サービスの使用者側の取り組みと関連するため、報道によると、同社の小林健司チーフ・ステークホルダー・エンゲージメント・オフィサー(CSEO)は「削減は単独で実現できるものではない。事業パートナーなどと密に連携する」とコメントした。

 

 商社で、これまで同排出量の開示については、住友商事が化石燃料エネルギー権益事業で生産したエネルギー資源に関連して、販売先が使用した際の間接的排出量を一部開示している例がある。だが、カテゴリー11全体の開示は、同業界では三菱商事が初めて。2021年度の同排出量の総量3億8125万㌧のうち、天然ガスや原料炭のように事業の性格上、移行リスクが高い「トランスフォーム事業」由来が約1億4300万㌧、グリーン事業ではないが排出量がそれほど大きくない食品流通や都市開発等の「ホワイト事業」由来が2億3800万㌧としている(下図参照)。

 

Scope3カテゴリー11排出量の内訳(金色部分は移行リスクが高い。白色は対応可能))
Scope3カテゴリー11排出量の内訳(金色部分は移行リスクが高い。白色は相対的に対応可能)

 

 同社の現状のGHG削減計画では、2030年度までに排出量を半減(2020年度比)させ、50年にネットゼロを実現する目標を掲げている。2021年度の実績は基準年度比9.7%減の2285万㌧。このうち769万㌧が出資比率基準による子会社からのScope 1、2排出量で、残りの1516万㌧がカテゴリー15のScope3排出量としている。

 

 同社は、Scope3のカテゴリー11排出量(21年度実績)を取扱商品・産業別の営業グループ別でも開示した。もっとも同排出量が多いのが天然ガスで1億1141万㌧、二番目が金属資源の9407万㌧。この資源開発関連の2グループだけで全体の過半を占める。次いで産業インフラの8847万㌧、石油・化学ソリューションの4130万㌧、自動車・モビリティの3009万㌧の順。それ以外の営業グループは100万㌧単位なので、これら5営業グループが太宗を占めることになる(下図参照)。

三菱商事の産業グループ別のカテゴリー11排出量
三菱商事の産業グループ別のScope3カテゴリー11排出量

 

 国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が6月にも最終確定する気候・サステナビリティ情報開示基準では、企業のGHG排出量は原則、Scope1~3すべて開示することで合意している。これに対して、国内で金融庁が準備を進める気候関連情報の開示方針の改定では、Scope3は企業の任意開示にとどめる方向だ。だが商社のようにグローバルな経済活動を展開している業種の場合、投資家や国際金融界等は、国内のローカル基準への適合よりも、グローバル基準との整合性を求める。三菱商事の今回の対応は、そうしたグローバルニーズに対応したといえる。

https://mitsubishicorp.disclosure.site/ja/themes/161#1330

https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/carbon-neutral/pdf/20211018.pdf