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金融庁、ESG投信の監督指針公表。「グリーンウォッシュ対応」とするが、ESGの範囲・定義は示さず、すべての投信に影響するESGリスク対応も言及なし。「ウォッシュ指針」の懸念も(RIEF)

2023-04-03 17:48:32

FSA1キャプチャ

 

 金融庁は、ESG投信についての監督指針を新設した。ESGを掲げる投信に「グリーンウォッシュ」リスクが指摘されることから、ESGやサステナビリティ等を掲げる投信等の金融商品についての監督指針を示した。対象となるESG投信については、①ESGを投資対象選定の主要な要素とする②交付目論見書にその内容を記載している、ことを条件とした。EUの「サステナブルファイナンス開示指針(SFDR)」の9条ファンドに相当する。ただ、EUとは異なり、サステナブルファイナンスのタクソノミーやESGの基準等が明確に示されておらず、あいまいさや行政の裁量の余地が残る形だ。

 

 「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の投資運用業に関する「監督上の評価項目と諸手続」の中に「ESG考慮に関する留意事項」として設定した。

 

 その中で、「名称や投資戦略にESGを掲げるファンドが国内外で増加しており、運用実態が見合っていないのではないかとの懸念(グリーンウォッシング問題)が世 界的に指摘されている」と指摘した。そのうえで公募投信において、投資対象企業の選定にESG評価を主要な要素とする場合を「ESG投信」として位置付けた。ただ、「ESGを投資対象選定の主要な要素」とするとしているが、「主要な要素」とするESG自体の範囲、定義についての指針は示されていない。

 

 ESG投信の範囲に該当しない公募投信については、名称や愛称に、ESGやSDGs、グリーン、脱炭素、インパクト、サステナブル等のESG関連の用語が含まれていないかの確認を求めている。同指摘の対象となる投信・ファンドは、EUの場合のSFDRの8条、9条には該当しない、それ以外のすべてのファンド(6条ファンド)と同一とみられる。

 

 SFDRの場合、これらのファンドはESG投信の対象外である一方で、「すべての金融商品にESGリスクが含まれる可能性がある」ため、これらについても、ESGリスク評価が投資判断に組み込まれているかどうかを「Comply or explain」方式で示すように求めている。しかし、金融庁の指針は、名称の有無を重視するものの、共通するESGリスクへの対応については一切言及していない。

 

 投資対象の選定に際して、財務指標など他の要素と並ぶ要素としてESGも考慮する公募投信(SFDR8条ファンドに相当)については、「交付目論見書や販売用資料、広告等のESGに関する記載が、当該公募投信がESGを投資対象選定の主要な要素にしていると、投資家に誤認されるような説明になっていないか」と注意を喚起をしている。ただ、これらの投信が、投資目的や投資プロセスにおいて、財務指標とESG評価とをどうバランスさせているか、ESGをどう考慮しているか、といったESGリスクに関する対応と、その開示を求める記述はない。

 

 金融庁指針はESG投信と、それ以外の一般的な投信を、名称の有無で切り分けることをひたすら重視しているように思える。そのうえで、前者のESG投信の場合は、投資戦略の開示等で、①対象とするESGの総合評価又は環境や社会の特定課題等、投資対象選定の主要要素となるESGの具体的内容②ESGの運用プロセスでの基準や指標等の説明を含む勘案方法③ESGを運用プロセスで勘案する際の制約要因やリスクーー等の開示を求める形だ。

 

 しかし、後者の一般的な投信も共通して抱え得るESGリスクの評価や、勘案方法等の開示を求める記述は一切ない。たとえば気候変動リスク等は全ての企業に影響が及ぶと考えられる。成長ファンド型投信等の場合でも、気候対応策の変化や技術開発動向によって、気候リスクが財務指標に影響を及ぼす可能性がある。だが、金融庁の指針では、ESG課題はESG投信に限った「主要な要素」という風に読める。

 

 ESGを重視していないのにESGを装う投信を排除するのは、ウォッシュ対策として望ましい。だが、ESG投信以外のすべての投信にはESGリスクがないかのような対応では、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」としては、いかがなものか。結局、ESGの範囲・定義等を明確にしないまま、ESGやSDGsの「口触りのいい部分」だけにフォーカスして、政策対応をしてきたわが国の行政が、実は「ESGウォッシュ化」しているということではないか。

https://www.fsa.go.jp/news/r4/shouken/20230331-2/02.pdf