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英非営利団体「責任投資原則(PRI)」。日本の投資市場の「サステナビリティ・インパクト」開示で報告書。開示要件に企業の「移行計画」の盛り込みや、タクソノミーの検討等も要請(RIEF)

2023-06-21 15:36:12

PRI00222キャプチャ

 

  国連支援の英非営利団体「責任投資原則(PRI)」は、日本の投資市場におけるサステナビリティ情報及び、サステナビリティ・インパクト(事業活動が人々や地球に与える影響)の開示が不十分との報告書をまとめた。開示促進のため、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の気候・サステナビリティ開示基準に沿った取り組みを進めるとともに、開示要件に移行計画を盛り込む等の政策対応を提言している。金融庁のスチュワードシップコードにサステナビリティ・インパクトの開示を求めるほか、タクソノミーの検討等も求めている。

 

 報告書はPRIが2021年に報告した「A Legal Framework for Impact」の分析を日本の投資市場に当てはめたもの。現状の日本の法的フレームワークで、日本の機関投資家がどの程度、サステナビリティ・インパクトをもたらす投資を実行できるているかの分析を目的にしたとしている。

 

 報告書は、対象とするサステナビリティ・インパクト投資について、投資に際してESG要因を考慮する「ESGインテグレーション」とは別の概念と定義づける。同投資は、投資家がポジティブなサステナビリティ・アウトカムの達成に向けて、意図的に(投資決定、スチュワードシップ、ポリシー・エンゲージメント等を通じて)投資先企業、政策立案者、その他の第三者における評価可能な行動変容をもたらすあらゆる活動、としている。

 

 従来の「ESGインテグレーション」では必ずしも考慮しない「志向性」の要素を重視するとしている。そのためのサステナビリティ・インパクト目標を設定、それを達成するために意図的に行動し、グローバルな成果(アウトカム)への貢献を評価するとしている。

 

 たとえば、国連の持続可能な開発計画(SDGs)の取り組みは、そうしたインパクト目標の代表的な事例とする。同報告書は「日本では、SDGsなどの取り組みに対する認知度は高いが、消費者は自らが投資を通じてどのように貢献できるのか必ずしも明確に理解できていない」と分析している。

 

 また日本政府の取り組みについて、企業の法定開示の項目にサステナビリティ情報を組み込む等の改善をしたことに一定の評価をしながらも、「投資家を十分に導き、支援するためには、さらなる政策措置が必要」とした。サステナビリティ情報開示についても、「サステナビリティに係るガバナンスとリスク管理に関する報告を要求しているに過ぎない」「サステナビリティ・インパクトの開示は求めていない」「第三者による検証やサステナビリティ目標の報告義務などがない」等と課題を指摘した。

 

 EUやアジア諸国が取り組むサステナブルファイナンス・タクソノミーの導入について、日本政府は十分な説明のないままに、取り組みを示していない点を課題としてあげている。「このような情報開示枠組みの限界から、投資家は自主的に企業に開示を求めなければならない状況が続いている。企業の開示情報は、限定的で企業間の比較可能性に欠けることが多く、投資家のコストは上昇し、(投資家による)既存の義務を遵守する能力も制限されている」としている。

 

 こうした状況に陥っている背景として報告書は、企業のサステナビリティ情報開示を促すべき市場の透明性と市場規律に関する公的規制の欠如があると強調。すべての投資に適用されるべきエンティティ・レベル(投資会社・法人単位)基本的な期待事項と、サステナビリティ・インパクト目標を意図的に追求するファンドや商品に適用されるプロダクト・レベル(金融商品単位)期待事項の両面で、そうした課題が影響しているとしている。

 

 こうした状況を改善するために、報告書は、金融庁と、証券取引所の上場基準にサステナビリティ情報開示を導入する日本取引所グループ(JPX)に対し、ISSBの気候・サステナビリティ開示基準に沿った国内開示要件を進め、上場企業の開示内容に、移行計画の報告を求めることを検討すべき、としている。

 

 さらに、投資家が自らの投資とネット・ゼロ目標との整合性を理解するための手段として、サステナブルファイナンス・タクソノミーの開発を検討するよう求めている。ただ、その要請の中身は「金融庁は、日本においてサステナブルファイナンス・タクソノミーの開発を検討するための研究を主導することが望まれる」とし、「研究レベル」の提言にとどめている。

 

 金融庁とJPXが推進してきたスチュワードシップ・コード原則を改定し、サステナビリティ・インパクトの評価を組み入れることも求めている。金融庁に対しては、同コードの署名機関がサステナビリティ・アウトカムを重視したスチュワードシップ活動を行うことを奨励するよう求めている。同インパクトを盛り込んだ改正スチュワードシップコードには、エンゲージメント、議決権行使、株主決議の提出、取締役会への参加など、投資家が行使できるあらゆる権限の活用を明示することも求めている。

 

 投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)にスチュワードシップのガイダンスを含めて、機関投資家のよる同コードの遵守を強化する点や、年金等に対する積立金基本指針等も同様の対応ができるようにすることも付け加えている。

 

 報告書は、現状よりも金融庁等による法的な規制を強化する点を重視している。だが、その要請の内容は、スチュワードシップコードのように行政指導による政策の見直しと、法規制による規制の強化を求める提言とが混在している。行政指導中心の日本の政策展開への理解の不十分さが垣間見える一方で、サステナビリティ・インパクト投資の概念が法規制(罰則を伴う)になじむのかという点についても、説得力が十分でないように思える。

https://www.unpri.org/a-legal-framework-for-impact/japan-integrating-sustainability-goals-across-the-investment-industry/11429.article