HOME4.市場・運用 |EUのロシア産LNGの輸入は「ロシアの軍事行動継続の原資」。ウクライナの市民団体が欧州委員長らに見直し要請の公開質問書。2022年の輸入量60%増。「EUの『二枚舌』」を批判(RIEF) |

EUのロシア産LNGの輸入は「ロシアの軍事行動継続の原資」。ウクライナの市民団体が欧州委員長らに見直し要請の公開質問書。2022年の輸入量60%増。「EUの『二枚舌』」を批判(RIEF)

2023-07-27 17:12:25

LNG001キャプチャ

 

 ウクライナの18の環境団体等は、EUが対ロシアのエネルギー依存を削減するため石油・石炭の輸入禁止を打ち出す一方で、液化天然ガス(LNG)の輸入はむしろ増やし、ロシアのエネルギー収入を増大させ,、対ウクライナ侵攻の軍事費増強につながっているとして、欧州委員会のフォンデアライエン委員長等に対し、LNG輸入の停止を求める公開書簡を出した。同団体によると、EUは2022年中にロシアからのLNG輸入を前年比60%増と急増させている。今年第一四半期の輸入量も過去3年で最も高い水準で、EUが利用する天然ガスの35%はロシア産が占めているという。

 

 EUはロシアからのパイプライン経由のガス輸入は激減させている。だが、その削減分を補うだけでなく増やす形でロシア産LNGの輸入量が増えている。また液化石油(LPG)の輸入も続いている。これらのEU側からロシアに払われる輸入代金がロシアの財政・軍事支出を支えている。環境団体らは、EUが「ウクライナ支援・ロシアのエネルギー依存からの脱却」を掲げながら、実際にはロシアのガス依存を継続する「二枚舌の政策」を非難する形だ。https://rief-jp.org/ct5/135072?ctid=

 

 ウクライナのゼレンスキー大統領も、今年初め、対ロ経済制裁の追加策としてロシア産LNG輸入の禁止を西側諸国に求めている。EUのロシア産LNG輸入の継続・増大策は、日本がサハリン地域で開発した天然ガスのLNG化による輸入が経済制裁の対象外として継続できている理由づけにもなっている。日本は「EUの二枚舌」に便乗している格好でもある。

 

 公開書簡をまとめたウクライナの気候NGO「Razom We Stand」の創設者でディレクターのSvitlana Romanko氏は「EUが本気でウクライナを支援して、現在のロシアの侵略を終えさせるつもりなら、EUはロシアのガスを買ってロシアに何十億ユーロに上る軍事費を手渡している行為を直ちに止めるべきだ」と求めている。

 

 今年に入ってからも1~5月のEUのロシア産LNGの輸入量は56.2bcmに達している。ロシアがウクライナに侵攻した昨年の同時期に比べて、7%以上も増えているという。ロシア産LNGの最大の輸入港はスペインで、次いで、ベルギー、オランダ、フランス等の西欧の大西洋岸の港湾に持ち込まれている。

 

 その結果、ロシア産LNGはスペインのガス供給全体の18%、フランスの同15%、ベルギーの同10%をそれぞれ占める。これらのLNG輸入は、ロシアの北極圏域でのヤマルLNGプロジェクトからの輸入が大半を占める。同事業は、ロシアのガス大手のノバテクと仏トタルエナジーが、ウクライナ侵攻以前から共同開発を続けているものだ。

 

北極圏内で開発されたヤマル・ガス事業
北極圏内で開発されたヤマル・ガス事業

 

 ロシアのウクライ侵攻で、英シェルや米エクソンはサハリン1、2の開発から撤退した。トタルもノバテクと共同開発してきたテルネフテガス(Terneftegaz)や北極圏のハリャガ(Kharyaga)油田からは撤退した。だが、埋蔵量が最大でLNG契約のヤマル事業でのノバテクとの共同事業は続けている。LNG事業の継続の結果、2022年のロシア側の純利益は8402億ルーブル(約1兆3000億円)に達し、前年の倍以上に膨らんでいる。収入は1.1兆ルーブル(1兆7000億円)で同様に倍増している。https://rief-jp.org/ct10/127810?ctid=

 

 公開書簡では、EUの輸入停止だけでなく、米国や日本を含むG7諸国に対しても、ロシアのLNG輸出増を抑制するため、ロシア産LNGの輸入価格にグローバルベースでの価格キャップを導入し、ロシアがLNGの販売で世界市場から軍事費を調達できないように西側諸国の結束を強化することも求めている。

 

 EUのガスの流通部門の団体である「Eurogas」は、こうしたLNGを含むロシア産ガスの輸入規制強化については反対しないとの立場だ。同団体の事務局長のJames Watson氏は「われわれは今後10年の間にロシア産ガスへの依存を終了させるという欧州委の計画を完全に支持する。グローバル市場は複雑だが、現行の(LNG)長期契約はEUにとって必要な透明性を維持できる」としている。

 

 環境団体等は、ロシア産ガスへのLNGを含めた依存を停止させることは、気候変動対策にとってもプラスになるとしている。ロシアは2030年までにLNG輸出を現行の3倍増の年間1億㌧に拡大する計画を推進している。その軸となるプロジェクトとしてヤマル事業に続く北極圏での「Arctic LNG 2」を計画中だ。

 

 これらの計画が進行すると、ガスからのメタンとCO2の排出増で、パリ協定の「1.5℃」目標の達成は困難になるリスクが高まるとみられている。目先のエネルギー確保か、足元の気候対策か。EUだけでなく、各国が「二枚舌政策」からの脱却を求められているようだ。

https://razomwestand.org/en/article/12th-sanctions-package-must-include-embargo-russian-lng-open-letter-ukrainian-ngos