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東証TOPIX100の主要企業。Scope3の目標値と実績値をともに開示する企業は2割だけ。シナリオ分析の財務インパクト開示も2割弱。大半が「開示ウォッシュ」を浮き彫り。民間調査(RIEF)

2023-09-20 12:43:08

TOPIX001キャプチャ

写真は、マネックス証券のマネクリより)

 

  東京証券取引所のTOPIX100を構成する主要企業の有価証券報告書の開示で、温室効果ガス(GHG)排出量のScope3(サプライチェーン等を含む)の目標値と実績値をともに開示する企業は、約2割だけであることがわかった。Scope1(直接排出量)、Scope2(光熱費等の間接排出量)の開示はいずれも過半となっている。一方、「シナリオ分析」を実施しているとする企業は8割にのぼるが、分析による財務インパクトを具体的数値で開示する企業は17.2%。Scope3開示と合わせると、日本の主要企業の気候情報開示で「合格点」に達するのは約2割だけで、大半は「開示ウォッシュ」ということになる。

 

  調査はHRガバナンス・リーダーズ社が実施した。調査の対象は、TOPIX100の構成企業のうち、2023年3月31日以降の事業年度に該当する有報を調査時点で発行する企業81社とした。有報改正に伴う新規記載事項の「サステナビリティ」「人的資本」「コーポレート・ガバナンス(取締役会の活動状況、内部監査等)」の開示情報を分析した。

 

 サステナビリティ項目のうち、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が国際共通基準として公表した気候情報開示に盛り込まれたGHGの開示情報では、目標値と実績値を両方開示しているのは、自社の排出量であるScope1、同2でともに56.8%と過半を超えた。両Scopeをいずれも開示していない企業は19.8%。サプラチェーン等取引先の排出量を含むScope3の場合、目標値と実績値を両方開示している企業は19.8%で、両方とも開示していない企業割合と同じ割合だった。Scope3の目標も実績も開示していない企業は46.9%で、両方開示している企業の2.3倍に達する。

 

GHG001キャプチャ

 

 金融庁による有報改正では、Scope3開示は要請しておらず、企業の開示は自主的なものとなる。しかし、国際基準のISSB基準では義務的開示としており、ISSB基準に照らすと、日本企業の出遅れ感は否めない。有報自体が、国際基準よりも「劣後」した開示基準といえる。同様な日本企業の開示の遅れは、シナリオ分析の開示にも現われている。

 

 シナリオ分析は企業の将来のサステナビリティを評価するもので、調査では同分析を実施している旨の開示が80.2%に達した。しかし、その内容で「気温上昇1.5℃を想定したシナリオ分析での開示」と答えた企業は60.0%に下がり、さらに分析結果が企業の財務におよぼすインパクトを具体的な数値で開示している企業になると、17.2%と2割を切っている。

 

sinario001キャプチャ

 

 シナリオ分析については多くの企業が「やっている感」を出して有報に表示はしてはいるが、分析結果を開示しないというのでは、それらの企業は「開示ウォッシュ」であることを自ら告白しているにも映る。投資家は、Scope3開示とシナリオ分析開示の両方を適格に開示している2割の開示優良企業を、TOPIX構成銘柄から選び出す必要がある。

 

 金融庁が有報改正でアピールする人的資本開示では、開示義務3指標(女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金差異)の開示状況では、9割以上の企業が実績値を開示している。ただ、目標値の開示では女性管理職比率が40.7%と最も高く、男性の育児休業取得率は18.5%、男女間賃金格差異は1.2%と、開示レベルの低さが目立つ。目標を開示せず、実績だけ開示するのでは、進捗状況も、レベル感も投資家にはわからない。

 

 さらに連結ベースでは、国内、海外とも実績値も目標値も開示割合は一段と低くなっている。実績値は1~2割どまりで、目標値では男女賃金格差異はゼロ。海外子会社を含めると、いずれもさらに下がる。グローバル経営を展開しているはずの日本企業だが、海外では人的資本への配慮は極めて乏しいことになる。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000066337.html