HOME4.市場・運用 |金融庁等の民間委員会。「financed emissionsの考え方」公表。金融機関が抱える投融資先のfinanced emissionsとトランジションファイナンスの不整合対応の「メニュー」示す(RIEF) |

金融庁等の民間委員会。「financed emissionsの考え方」公表。金融機関が抱える投融資先のfinanced emissionsとトランジションファイナンスの不整合対応の「メニュー」示す(RIEF)

2023-10-06 14:36:17

financedemissionsキャプチャ

 

 金融、経産、環境の3省庁による「ファイナンスド・エミッションに関するサブワーキング」は、金融機関が投融資先の温室効果ガス排出量(Scope 3)として把握が求められる「financed emissions」についての考え方を公表した。日本政府が提唱するトランジションファイナンスを金融機関が、鉄鋼、セメント等の高炭素集約型産業の企業向けに投融資として実施すると、一時的にfinanced emissions総額が増大することになるため、financed emissionsの開示とトランジションファイナンスの推進を整合させる手法を提案する内容となっている。

 

 同サブワーキングは3メガバンクや大手損保、資産運用会社等の日本国内の主要金融機関の実務家で構成した。学識経験者はいない。報告書は「ファイナンスド・エミッションの課題解決に向けた考え方」と題している。

 

 「考え方」は、financed emissions について、「金融機関の投融資先に内在する気候関連リスクや脱炭素化に向けた取組状況を容易に比較・評価できる指標であり、定量的に取組状況の進捗が把握出来る大きなメリットがある」と評価する一方で、「将来の排出量の推移を織り込んだフォワード・ルッキングな指標ではなく、ある時点までの排出量を元に計算されるヒストリカル指標であり、足元の数値だけを重視すると、金融機関・企業の将来に向けた排出削減のための戦略や行動等(トランジション)への評価を行うことが難しい」と課題を指摘している。

 

 そのうえで、「financed emissionsの一時的な増減に過度に左右されることなく、定量的・定性的にしっかりと中長期的なトランジションの実行力を示していくことで、金融機関がステークホルダーに対する説明責任を果たし、『Hard-to-abate産業』をはじめとする企業の脱炭素化実現に向け、更に積極的な資金供給を行えるよう具体的な方法を整理した」としている。

 

 整理は、①financed emissionsの算定・開示手法②financed emissions以外の開示手法の活用、に2分類し、さらに②については「実体経済の脱炭素化に関する取組」と「金融機関の脱炭素化支援関連施策に係る実行力」に分け、各手法の考え方を示した。

 

 ①の開示手法の具体的な工夫としては、絶対量ベースのfinanced emissionsを開示した上で、物理的・経済的原単位でCarbon Intensityや加重平均炭素強度(WACI)(原単位でのfinanced emissions)を開示する手法を紹介している。同手法は、すでにTCFDで言及されている。

 

 別途、トランジションファイナンスに関するfinanced emissionsの算定・開示手法も提案した。financed emissions全体を開示した上で、内訳として、トランジションファイナンスのfinanced emissionsを示すことで、金融機関のトランジションファイナンスへの取り組みを、ステークホルダーに訴求できるとしている。この場合、トランジションファイナンスが増えて、投融資ポートフォリオ全体のfinanced emissionsが増えたとしても、トランジションファイナンス分の個別開示により、「financed emissionsの増加は実体経済の脱炭素化を支援するために『Hard-to-abate産業』等に投資したことが要因だ」と説明できるとしている。

 

 同手法については、金融機関が抱えるfinanced emissionsの対象となる資金調達者の排出量を、資金使途特定型トランジションファイナンスの対象プロジェクトの排出分と、その他の排出分量に分けて開示することで、トランジションファイナンスによって、脱炭素投資を支援した金融機関の貢献が、現状の算定方法よりもfinanced emissionsに精緻に反映される手法も示している。

 

 開示手法とは別に、金融機関の脱炭素化取り組み姿勢を表す手法についても複数指標の活用を示している。①実体経済の脱炭素化を促進する取り組みに関する指標②金融機関の脱炭素化支援関連施策に関わる実行力に関する指標、の二点を併用し、金融機関自体の取り組みを包括的に開示する手法だ。

 

 このうち、①の指標については、1)特定の技術の活用を通じた削減貢献量。 2)ネットゼロ目標やパリ協定等と整合するポートフォリオの総額・割合。 3)気温上昇スコア。 4) 適格なトランジション戦略を持つ企業・プロジェクトに対するファイナンスの総額・割合。 5)トランジション・ファイナンスによるGHG将来削減効果(資金使途特定型)。6) 特定の低・脱炭素関連製品・サービスに関連する投融資案件数や物理的指標。7)GFANZにおいて検討が進められている期待削減量(Decarbonization Contribution)の7項目を示している。

 

 もう一つの②の金融機関の脱炭素化支援関連施策に関わる実行力に関する指標、としては、戦略の実行からエンゲージメントに関するものとして、1) ポートフォリオにおける金融機関の主要な方針。 2) ネットゼロトランジション計画と整合する金融商品の割合・数。  3)気候関連のエンゲージメントを実施した企業の割合・数やその結果。またガバナンスに関するものとしては、 4)気候関連の意思決定、取組等に関与する従業員・経営層の人数や割合、をあげている。

 

 「考え方」は、これらのうち、どの手法や指標が最適かという方向感は示していない。その一方で、「financed emissionsの課題は、新たな脱炭素投資へ資金供給する場合と既存ポートフォリオの整合を評価する場合で異なり、また銀行やアセットオーナー、アセットマネージャー、保険等、金融機関の業態や各社の方針によっても適切な手法が異なることが想定される」と指摘し、「トランジション分」を別扱いにできれば、明確な基準がなくとも、金融機関ごとに対応できるようにすることを示唆しているとも読める。

 

 その場合、トランジションファイナンスについての明確な基準が必要となる。だが、日本の3省庁が示す基準は、準拠していたICMAのClimate Transition Finance Handbook(CTFH)がすでに強化されているのに、その改定方針を反映していないうえに、CTFH自体も市場では「緩過ぎて」ほとんど活用されていないという現状がある。トランジションファイナンスの定義自体が流動的なままであるのに、その分を「別扱い」するのは市場にとってはリスクになると思われる。

https://www.fsa.go.jp/singi/transition_finance/siryou/20231002/01.pdf

                          (藤井良広)