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東京証券取引所。初のカーボンクレジット取引市場開設。対象は国が認定した「J-クレジット」のみ。売買の法的義務がないため、市場取引拡大の見通しは不透明(RIEF)

2023-10-11 13:58:09

JPX002キャプチャ

写真は、東証のクレジット取引開始の「鐘」を鳴らす関係者=テレビ朝日のニュースより)

 

 東京証券取引所は11日午前、気候対策のためにCO2排出量を取引するカーボン・クレジット市場を開設した。対象となるクレジットは、再生可能エネルギーの導入や森林整備による排出削減から創出するJ-クレジットとする。企業に対して排出量枠を決めて差額分を売買する法的取引は、EUが2005年に開始し、米カリフォルニア州やニューヨーク等のほか、アジアでも中国や韓国が実施している。今回の東証の取り組みは、法的取引ではなく、企業が自主的に気候対策として取引することが前提で、クレジット市場取引がどの程度高まるかは、現時点では不明だ。

 

 市場参加者は電力会社や金融機関などの民間企業に加え、地方公共団体など計188者で、午前9時から注文の受付が始まった。ブルームバーグ等によると、取引に参加した金融機関の一つ、大和証券では同日午前中に、実際に買い注文を出したという。同報道によると、同社のデリバティブ・トレーディング部の菅美由紀次長は「今後さらに売買の厚みが増してくれば、市場機能も上がっていくだろう」と期待感を示した、としている。https://rief-jp.org/ct4/139134?ctid=69

 

 J-クレジット等の取引制度としては、SBIホールディングスと「アスエネ」が、今月末に別の取引所「カーボンEX」を立ち上げる予定。https://rief-jp.org/ct4/139449?ctid=69

 

 取引開始前に行われたセレモニーでは、西村康稔経済産業相や東証を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)CEOの山道裕己氏らの関係者が出席した。経産省はこれまで長い間、国内での排出量取引制度の導入に反対の姿勢をとってきた。だが、西村氏は「クレジットの活用は、社会全体の効率的な排出削減を実現しながら民間企業のGX(グリーントランスフォーメーション)投資を引き出していく効果を持つ。世界の制度も参考にし、最先端の市場にしたい」等と述べたと報道されている。

 

テレビ朝日のニュースより
テレビ朝日のニュースより

 

 東証で取引されるJ-クレジットは、国がCO2削減効果を認めたもので、これまではクレジット排出主体と企業とによる相対取引だった。今後は、市場取引に中心が移るとみられる。東証の取引では、注文の受付は午前と午後に分かれ、値が付くのは午前11時30分と午後3時の一日2回。株式市場とは異なり、いわゆるザラ場での取引はない。

 

 J-クレジットは、排出削減の方法論によって「省エネ」「再エネ(電力)」「再エネ(熱)」「森林」などに6分類される。取引は排出量1㌧単位とする。東証では政府との調整を経て、今後、新興国の排出量削減を支援することで、その一部を日本側の削減分とみなす「2国間クレジット制度(JCM)」などのクレジットの売買も検討対象にする方針という。

 

 J-クレジットの取引に際しては、希望する売買価格を指定する「指し値注文」とする。株取引で定着している売買値段を指定しない「成り行き注文」は、クレジットの場合は採用しない。

 

 基本的に、排出削減に法的義務を課していないことから、CO2を排出する企業側にクレジット購入需要が十分にあるかどうかが課題となる。東証が昨年9月から23年1月までの間、実施した実証実験では、参加した183事業者のうち売買できたのは55事業者だけ。123事業者は発注そのものを見送ったとされる。恒常的な買い需要がない中で、クレジット創出事業者側も供給過剰を懸念して、創出事業に十分な投資ができないという状況が続いている。

 

 こうした市場環境が続くが、東証のセレモニーに参加した西村氏は、売買の活性化のために、取引参加者の売買を仲介する役割の「マーケットメーカー」(値付け業者)制度を設ける計画を示した。経産省から東証に委託事業として23年10月から24年3月まで試験導入も決めているという。しかし、マーケットメーカーはあくまでも、取引需給をつなぐ役割で、取引そのものの需要増には十分な効果は発揮できない。もう少し、制度の基本的な枠組みや、世界での実証動向を「勉強」してから政策を立案するべきだろう。

https://www.jpx.co.jp/equities/carbon-credit/index.html

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-10-10/S2340VT0G1KW01

https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000319367.html