風力発電業界団体「日本風力発電協会(JWPA)」から、三菱商事系2社脱退。日本風力開発の贈収賄問題で協会運営に不満。「業界」という不透明な調整の場を脱し、市場競争を最優先に(RIEF)
2023-10-23 13:51:24
各紙の報道によると、日本風力開発による汚職事件に関連して、同社の幹部が代表理事を務めていた風力発電事業者の業界団体の「日本風力発電協会(JWPA)」から、大手の三菱商事グループの2社が脱退したことがわかった。同協会では、日本風力開発出身の代表理事の退任を含め、同社関連役員、同社自体の退会を決定した。三菱商事はグループ企業2社の退会について、「協会の活動方針について、当社と見解の相違があった」と説明しているという。
東洋経済オンライン等が報じた。同協会は2001年の設立。会員企業は発電事業者や風力関連のメーカー等で、今年9月時点で546社。代表理事には日本風力開発で副会長を務めてきた加藤仁氏が就いていたほか、他にも役員等として日本風力開発の幹部等が担っており、同社が協会の運営等に大きな影響力を発揮していた。
協会から退会したのは、「三菱商事洋上風力」と「三菱商事クリーンエナジー」の2社。協会は18日付で、運営体制の見直しを発表、代表理事の同日付での退任のほか、祓川(はらいかわ)清副代表理事(日本風力開発グループのイオスエンジニアリング&サービスの最高顧問)、松島聡政策部会長(日本風力開発社長)もがJWPAの役職から退任したと発表した。日本風力開発自体も退会した。
今回の人事改革で代表理事が不在となることから、現在、副代表理事を務めているMHI ベスタスジャパン社長の山田正人氏が、代表理事選任までの間、代表理事代行に就任した。また経済産業省資源エネルギー庁は17日に、日本風力開発とJWPAに対して行政指導を行っている。
JWPAに対してエネ庁の行政指導が入ったことについては、同団体自体が、政府による洋上風力発電事業の公募事業の選定ルールの変更を求め、秋本真利衆院議員(自民党)が国会質問する際の、質問の事前調整や原案・資料を作成していた疑いがもたれている点と関連する可能性がある。日本風力開発自体がJWPAを介して秋本議員に国会質問等での整を行っていたともされる。
JWPAの政策部会では、社会環境(許認可など)、事業環境(価格など)などに関する活動を行っており、「規格・制度情報の収集・整備」「技術情報の収集と整備」「課題の検討と対策の立案」等を主要業務としている。また環境部会では、「風力発電の環境影響評価の動向の情報交換」「関係府省庁との意見交換」等をあげている。
東洋経済によると、JWPAに対して、「秋本議員や他議員の国会質問で質問原案や資料を作成し、提供したことはないのか」と質問したところ、同団体は明確には否定せず、「説明を控える」との回答にとどまったとしている。
JWPAは2022年2月に、政府の洋上風力入札ルールの見直しを求める政策提言を発表している。また会員企業の間で意見が割れていた「落札制限」について、団体として賛同の意を表明するなど、JWPAの意見集約が適切に行われていないと指摘する声が強まっていた。協会を主導する日本風力開発の意向が団体の運営方針にも強く反映し、「日本風力開発の色が強い」(複数の業界関係者)との声もあがっていたとしている。
JWPAは18日の発表では、今回の贈収賄事件に同協会の役職員は一切関与していないことを改めて強調したうえで、「洋上風力発電を中心に、風力エネルギーやその業界への期待、またその責任が増す中で、協会の組織、運営が時代の要請に十分に応えられず、内外の関係者にさまざまな不信や疑念、ご不満を与えたことを、重く受け止めねばならないと考える」と指摘。業界ガバナンスの一新の必要性を示している。
三菱商事は21年12月、政府が募集していた秋田県沖、千葉県沖の計3海域での洋上風力発電事業の公募事業すべてを同社グループで落札した。この「三菱ショック」で洋上風力への事業参入を目指していた日本風力開発が、「入札ルール自体の見直し」を求めて動き出したとされる。その中で、日本風力開発の塚脇正幸前社長が、自民党の秋本真利衆院議員に賄賂を渡し、ルール変更を求めて国会で質疑を要請したとされる。秋本議員は萩生田光一経産相(当時)に、繰り返しルール変更を迫った。同議員は、9月に贈賄罪で在宅起訴されている。
日本の政策運営では、伝統的に、行政が業界団体と調整したうえで定めたルール等をスムーズに運営するため、業界団体の協会を通じて、会員企業間での意見のすり合わせ等の調整を委ねるケースが多い。協会は同業会員企業間の親睦、基本技術の普及、人材育成等の交流のレベルを超え、定期的な人事異動で担当者が異動する行政よりも、政策立案力等を備えているところも少なくない。
行政側は業界内での調整に際して、補助金や入札等での財源配分等で応えることから、結果として、公費の削減は進まない。一方で、会員企業間では市場原理に基づく自由競争は抑制されがちになるが、国内市場では業界内での調整で一定の仕事が相互に配分されるメリットが与えられる。ただ、競争上のインセンティブが低くなるため、グローバル市場を念頭に置いて国際競争力の向上を目指す企業にとっては、業界という存在自体が、弊害の一つに変わっている可能性もある。
https://toyokeizai.net/articles/-/709619