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「鉄鋼業の高炉改修(リライニング)再投資。CO2排出の固定化(ロックイン)につながる」。環境NGOが米欧韓豪4社の高炉で5億㌧弱の排出固定化を警告。電炉等への転換要請(RIEF)

2023-10-24 17:25:29

Coal001キャプチャ

 

 世界の産業別の温室効果ガス(GHG)排出量でもっとも多い鉄鋼業が、脱炭素化の「岐路」に立っている。高炉は定期的に内部の損傷等を改修する作業(リライニング)が必要で、日本を含むOECD諸国の高炉設備の約8割は2030年までに、同作業への再投資の可否が問われる状況にあるという。国際環境NGOらが、同作業の実施を現在公表している欧米豪韓の4鉄鋼大手の改修後の想定CO2排出量を試算したところ、4社6基の高炉で4億8800万㌧のCO2を固定化することがわかった。高炉生産率の高い日本の鉄鋼会社も同様の課題を抱えており、高炉を継続するか、電炉あるいは直接還元鉄(DRI)法等に転換するかの選択を迫られている。

 

 高炉のリライニング改修の影響を分析したのは、脱炭素化を促進する国際ネットワークの非営利団体「スティール・ウォッチ(Steel watch)」(オランダ)と、韓国の非営利研究機関の「Solutions For Our Climate (SFOC)」。https://rief-jp.org/ct7/137233?ctid=

 

 両団体は、現在、高炉のリライニング実施計画を公表している大手鉄鋼メーカーのクリーブランド・クリフス(米)、POSCO(韓国)、タタ・スチール(オランダ)、ブルースコープ・スチール(オーストラリア)の4社が抱える高炉、合計6基を対象としてリライニング改修後のCO2排出量を推計した。

 

 高炉のリライニングは、高炉内部を覆う耐火レンガの摩耗や損傷を改修する作業をいう。高炉の操業を維持するには、定期的にリライニング改修に再投資する必要がある。平均的な高炉の操業寿命は20年~25年と仮定しているが、実際のデータに基づく分析では、平均17年とされる。改修によって操業寿命は、改修1回目で15年、2回目で11年と短縮され、その間、CO2排出量が固定化される。

 

2030年までにリライトニングが必要になる高炉設備の各国比較(日本が突出している)
2030年までにリライトニングが必要になる高炉設備の各国比較(日本が突出している)

 

 今回、両団体は国際NGOのClimatTraceの衛星データから過去8年間(2015~2022年)の各社の高炉のCO2排出量の実際の排出フットプリントデータを把握した。その結果は次のようになる。

 

 ▼ブルースコープ・ポートケンブラ製鉄所:3240万㌧

 ▼クリーブランド・クリフス・ミドルタウン製鉄所:1990万㌧

 ▼同・バーンズハーバー製鉄所:4230万㌧

 ▼POSCO浦項製鉄所:2億6867万㌧

 ▼同光陽製鉄所:2億1161万㌧

 ▼タタ・エイマイデン製鉄所:7730万㌧

 

4カ国6高炉のリライトニング後のCO2排出量の比較
4カ国6高炉のリライトニング後のCO2排出量の比較。右端のPOSCOの浦項製鉄所が図抜けて多い。

 

 これらの高炉がリライニング後に、通常通りに再稼働すれば、再投資後に合計で4億8800万㌧のCO2を排出することになる。これは石炭火力発電所に換算すると、502カ所の発電所を1年間稼働するのに相当する。リライニングでこれだけのCO2が改修後の17年間、ロックイン(固定化)されることになる。

 

 分析ペーパーでは、 これら4カ国は2021年の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、2030年までにグリーンスチール(低炭素鉄鋼)を、石炭使用の高炉方式の鉄鋼よりもコスト競争力のあるものにすることを宣言する「鉄鋼のブレークスル―・アジェンダ」に署名している。したがって、環境NGOらは「これらの国が高炉のリライニングで操業を延長することは、『アジェンダ』署名に反する」と批判している。

 

 しかも、4社の高炉リライニングによる5億㌧弱の排出量固定化は、鉄鋼業全体でみれば、一部に過ぎない。分析ペーパーでは、日本を含むOECD諸国にある石炭を使用する高炉方式での鉄鋼生産設備の77.8%(生産力ベース)が2030年までに、リライニング改修か、他の技術方式への移行かの判断を迫られているという。特に、日本、韓国、米国は、それぞれ年間8600万㌧、5300万㌧、3500万㌧の生産力を持つ高炉設備を抱えており、リライニング再投資をするのか、CO2排出量の少ない他の製鉄方式に切り替えるかの判断を問われている。

 

 スティールウォッチ・ディレクターのマーガレット・ハンズブロー氏らは、各国の鉄鋼メーカーに対して、高炉のリライニングでの寿命延長によるCO2排出量の固定化ではなく、より低炭素な鉄鋼生産方式への移行を要請。鉄鋼業界が自らで転換できない場合は、「自動車メーカーが2030年までに環境負荷の少ない自動車向け一次鋼材の生産実現を望んでいることを、鉄鋼メーカーに働きかけることを要請する」としている。

 

 スティールウォッチ・ジャパンも「国内では20基の高炉が操業中で、そのうち少なくとも11基は前回の再稼働から12年以上経過している。よって鉄鋼会社は間もなく、高炉の延命に投資し、排出量をさらに15年から20年固定化するか、あるいは石炭ベースの鉄鋼生産からの移行を加速させるかの重要な決断を迫られることになる。われわれは、日本の鉄鋼会社に対し、全ての高炉の移行計画を策定し、石炭を使用する高炉に新規投資しないよう、今すぐ行動を起こすよう強く要求する」としている。

https://steelwatch.org/%E8%AB%96%E8%AA%AC/%E9%AB%98%E7%82%89%E6%94%B9%E4%BF%AE%E3%81%AF%E4%BB%8A%E3%81%99%E3%81%90%E3%82%84%E3%82%81%E3%82%8B%E3%81%B9%E3%81%8D%E2%80%95%E2%80%95oecd%E8%AB%B8%E5%9B%BD%E3%81%AE%E4%B8%BB%E8%A6%81%E9%89%84/?lang=ja

https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/A-EW_298_GlobalSteel_Insights_WEB_JP.pdf

(注)本記事は、2023年10月25日午後5時に一部を修正しました。