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英気候シンクタンク。日本の「GX」政策は、国連IPCCの「カーボンプライシング」「脱化石燃料」政策と整合せず。鉄鋼等の高炭素集約型産業の「関与」が「政策を支配」と指摘(RIEF)

2023-11-15 19:02:30

IM002キャプチャ

 

  英気候シンクタンクのInfluenceMap(IM)は、日本政府が推進する「グリーントランスフォーメーション(GX)」政策は、世界の気温上昇を1.5℃に抑えるために国連のIPCCが示すガイダンスと整合しないと指摘。特にカーボンプライシングと化石燃料関連の政策では、ベンチマークから大きく乖離しているとの分析結果を公表した。同調査では、日本国内の鉄鋼、自動車、電力など重工業部門の企業や業界団体がGXに戦略的な政策関与をし、同政策に関する議論を支配していたと指摘している。

 

 GX政策は、財務省が世界初のトランジション国債20兆円を発行し、官民合わせて150兆円超の資金を、高炭素集約型産業の脱炭素化事業等に投じることを柱としている。化石燃料排出量の多い産業の脱炭素化に、国が全面的に乗り出すのは、世界でも初めてのケースだ。このため、同政策の成否に対して国内外の注目が集まっている。

 

 一方で、GX政策では、同政策がどのように1.5℃目標に貢献するのかについては、日本政府の説明が不明確なものにとどまっている。そこでIMは、GXの政策の中身を、IPCCガイダンスに沿う「科学的根拠に基づく政策(SBP)」と比較する形で分析した。

 

 IMの分析によると、GX政策では炭素賦課金と排出量取引を組み合わせた「成長志向型カーボンプライシング」を導入するとしているが、現状のままでは「プライシング政策の導入時期が遅く、価格水準も不明確」と指摘。 IPCCが想定するカーボンプライシングでは、2030年にはCO2㌧当たり約170~290㌦(約2.5万円~4.3万円) の炭素価格が必要となるが、成長志向型とするGXの場合、「この価格水準を達成する可能性は低い」としている。

 

 GX政策が掲げるエネルギーミックスは、再エネよりも、石炭、LNG、水素・アンモニア混焼発電に依存する内容。これはIPCCが示す1.5℃目標への経路と整合性を欠き、「長期的な世界のGHG排出削減目標にリスクをもたらす」と指摘している。GX政策には部分的に、洋上風力発電や太陽光発電への政策支援も盛り込んでいる。この点については、「SBPと整合するものの、再エネ目標全体としては2030年目標(36~38%)止まりで、IPCCが示す経路(53.6%)を大幅に下回っている」としている。

 

 これらの複数の問題点を踏まえ、IMは「GX政策は、特にカーボンプライシングと化石燃料に関連する政策において、ベンチマークから大きく乖離している」と結論づけた。同政策がハイブリッド車の販売継続を支持している点についても、「これらの車は『一時的な解決策』でしかなく、低排出の電力で動く電気自動車(EV)が優位な役割を果たす、というIPCCのガイダンスに反している、としている。

 

 さらに、日本政府のGX基本方針は、2030年と2050年の排出削減目標を明示しているものの、導入するGX政策がどのように1.5℃目標に寄与するのかといった説明や、1.5℃目標とどう整合するのかという点についてのデータ等は、どこにも盛り込まれていない。IMは、この点についても疑問を示している。

 

 IMの分析では、GX政策に対する日本の産業界の関与度合いが、特定の産業に偏している点も問題視している。同調査によると、日本の産業界によるGX政策への関与の圧倒的多数(約900件のデータのうち81%)は、9つの業界団体と8つの企業に偏しているとしている。これらの業界団体は、電力、鉄鋼、自動車等の化石燃料関連産業が中心。いわゆる「高炭素集約型産業」だ。この約900件の政策関与のデータのうち、15%は日本経済団体連合会(経団連)が占めていたという。

 

 その一方で、日本経済と雇用の70%を占めるその他のセクター(金融、小売、建設、消費財、ヘルスケアなど)は、GX政策に対して、ほとんど政策関与を行っておらず、これらのセクターの同政策への関与の割合は、わずか26%だった。GX政策は特定の産業 に絞って、国費を投じる構造になっている点を浮き彫りにしている。

 

 こうしたGX政策に対する産業界の関与の偏りを踏まえ、IMは「積極的に発信を行う企業や業界団体の(GXへの)政策関与が、科学的根拠に基づいて実施すべき政策と乖離していることが、現在のGX政策が本来あるべき政策との間で乖離を引き起こしている可能性がある」として、業界のロビー活動が、本来、あるべき政策をゆがめている懸念を指摘している。

 

 特定の高炭素排出型業界が主導する政策関与と、あるべき政策の乖離が特に目立ったのは、炭素税への反対と、石炭利用の継続につながるアンモニア混焼の支持の分野だったとしている。分析では、GX政策への関与を強力に推進した経団連の戸倉雅和会長(住友化学会長)がGX政策について、「政府が提言のほとんどを取り入れてくれた」と発言したことを取り上げている。

 

 同分析については、京都大学大学院教授の諸富徹氏が「IMのレポートが、①GXが科学的根拠に基づく政策に合致していないこと、②そのGXに大きな影響を与えているのが経団連であり、しかもその傘下企業の総意ではなく、一部のエネルギー集約企業の利害が強く反映されていること、この2点を明らかにしたことの意義は大きい。気候変動政策を前進させるように見えて、実はエネルギー集約産業の利害を守ろうとしているのがGX推進法の本質だ。カーボンプライシングが不十分に終わり、石炭火力発電が延命される理由も、まさにここにある」とコメントしている。

https://influencemap.org/site//data/000/024/日本語_GX_Policy_Press_Release_Final_Nov2023.pdf

https://influencemap.org/briefing/Japan-GX-Policy