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9月末に始まったインドネシアのカーボンクレジット取引市場。日本の東証クレジット市場と同様に、自主的取引のため市場は閑散。取引日19日中、17日間は取引ゼロ(RIEF)

2023-11-22 00:43:27

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写真は、IDX Carbon取引所開設時のビデオで演説するウィドド大統領)

 

 インドネシアが今年9月に、ジョコ・ウィドド大統領の肝いりで開設したカーボンクレジット取引所(IDX Carbon)が、2か月経過後、ほとんど取引が成立しない状態が続いている。当初、同国政府は、企業に排出量上限を設け、超過分に課税する制度をセットで導入し、企業間のクレジット売買を促す考えだったが、課税に反対する企業への配慮等から自主的取引にした。その結果、買い手企業にクレジット購入のインセンティブが働かなくなっている。日本の東京証券取引所で10月に始まった自主的カーボンクレジット取引も、「取引ゼロ」の日が頻繁に続いており、自主的クレジット取引の機能不全が、両国の取引で確認された形だ。

 

 IDX Carbonはインドネシア証券取引所が同国金融庁(OJK)の認可に基づき開設した。クレジットにはブロックチェーン技術も活用し、透明性、流動性、効率性、アクセスの容易さを同市場のメリットとしてアピールしてきた。

 

 しかし、英メディアのClimate Home News(CHN)が9月26日以降の取引日19日間の取引データを検証したところ、うち17日間で取引が成立していなかったとしている。IDX Carbonは取引データについて、一日分しか開示しておらず、取引所取引としては情報開示が十分とはいえない。

 

CHNが検証したIDXの19日の取引状況
CHNが検証したIDXの19日間の取引続いて

 

 環境金融研究機構(RIEF)の取材では、11月21日の取引として322㌧、取引者数33、始値、終値等が計上されており、全く、取引がないわけでもないようだ。ただ、当日データ以外の取引データが開示されていないので、比較できない状況になっている。

 

 9月末の市場開設初日の取引高は、459.953㌧のクレジットが売買された。取引自体も初日だけで27回に及んだとしている。日本の取引と同様、初日の取引は「ご祝儀取引」もあったようだ。CHNは、その後、2カ月間の取引では、取引ゼロの日が大半だったとしている。

 

 取引が低調な最大の要因は、クレジットへの需要の少なさだ。クレジット価格は、発足以来、1㌧当たり69,600ルピア(約4.50㌦)で変更されていない。同国の市場関係者は、当初考えられていたような企業に対する排出量の上限(キャップ)を設定し、超過した場合に税金を課す「Cap & Tax」制度を導入すれば、需要は自ずと生まれると指摘している。

 

 排出上限規制を課せられた企業は、操業を短縮して排出量を減らすか、あるいは上限超過分の税金を払うか、あるいは上限超過分を他の企業や市場でのクレジット供給者から購入することになる。操業短縮は収益自体を減少させるので、通常はあり得ず、税金を払うかクレジットを買うかは、課税額とクレジット価格の相場で企業が判断することになる。

 

 同制度の導入は、当初、2022年の予定だったが、現在は「24年かあるいはそれ以降」とされている。政府は石炭火力発電所を対象として「Cap &Tax」の制度をパイロット的に導入する考えを示しており、その成果を見極めたうえで、対象産業を拡大するかどうかを判断するとしている。この点で、エネルギー省は導入対象産業を限定的にしたい方針だが、環境省は対象拡大を求めており、政府内での合意が不十分な状態が続いているとみられる。

 

 こうした政府内部での政策方針の不整合も、日本の政府内と似たところがある。結果的にクレジット取引市場だけが自主的取引として先行的にスタートしたわけだが、買い手企業が少なく、したがってクレジットの売り手企業も少ないという形で、取引が閑散とした状態が続いているわけだ。

 

 ただ、インドネシアの場合、すでに政府の規制案が示されており、市場関係者は、政府の規制導入の時期と内容を見定めようとする「様子見(wait and see)」の状況にある。早晩、Cap & Tax制度が導入されると期待されている。日本政府の「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」政策では、排出規制を伴うクレジット取引は2033年以降とされており、それまで自主的取引が主になるとみられる。したがって、国内でのクレジット取引の「閑散」状況は、日本市場のほうが、インドネシアより長く続きそうだ。

 

 インドネシアのクレジット供給サイドの課題として、鉱業、農園森林保全等の事業において、クレジットの二重計上疑念や、労働者や周辺住民への人権問題等の評価が課題となっている。クレジット事業を検証する事業者は現在、4社しか認められていない。クレジット取引の信頼性を確保するには、これらのインフラ整備も課題だ。この点も、日本のクレジット市場の課題と共通する。

https://www.idxcarbon.co.id/document/share/22/6aba32a1-640c-4c89-9b9e-74383ed336bb

https://idxcarbon.co.id/data-trading

https://www.climatechangenews.com/2023/11/20/slow-start-for-indonesias-much-hyped-carbon-market/