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COP28 : 世界の再エネ発電を2030年までに「3倍増」、原発は50年までに「3倍増」の提案。日本は両方に賛同だが、比重は「原発シフト」。環境相も再エネ目標達成に消極発言(RIEF)

2023-12-05 00:40:42

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写真は、主要閣僚を招き、COP28での日本政府の対応を聞いたNHK番組の様子=3日、NHKニュースから)

 

 アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイでの国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、世界の再生可能エネルギーの設備容量を2030年までに3倍とする提案と、原発の設備容量を2050年までに3倍増とする提案に対して、多くの国の賛同が得られ、日本政府は両方に賛同した。こうした中、各紙の報道によると、伊藤信太郎環境相はこのうち再エネ目標について「(日本では)必ずしも3倍にできる容量があるとは考えていない」と述べた。同氏は原発の3倍増には言及せず、国内での原発3倍増設を認める形のようだ。再エネに否定的で、原発肯定という環境相の発言は、環境省自体の現在のスタンスを反映する。同省と経産省の「政策上の違い」はほとんどないようだ。

 

 「再エネ3倍増」提案は、EU等が強力に推進し、議長国UAEと米国が共同提案の形で示された。同提案を支持する誓約書では、気温上昇を産業革命前から1.5℃以内に抑えるには、再エネの世界全体の設備容量を現在の約3600GWから、1万1000GWに上げる必要があると指摘。さらにエネルギー効率化(省エネ)も2倍増にすることを掲げている。2日時点で同提案には、118カ国が同意した。

 

 UAEは産油国だが、太陽光等の再エネ資源も豊富だ。議長のスルタン・アル・ジャベル氏は「化石燃料に依存しないエネルギーシステムへの世界的な移行を、前倒しで推進しなければならない」と主張。各国が再エネや省エネに関する計画をつくり、国が定める気候対策(NDCs)の温室効果ガス(GHG)排出削減目標に反映させることを求めた。

 

 一方の「原発3倍増」提案は原発大国の米国によるもので、日本を含む22カ国が賛同した。日本のほかに、英国、フランス、スウェーデン、韓国、議長国のUAEも賛成派となった。提案では「今世紀半ばまでにGHG排出の実質ゼロを達成する上で、原子力は重要な役割を果たす」とし、世界の原発の設備容量を2050年までに20年比で3倍にする目標を掲げた。

 

 世界原子力協会によると、世界の原発は436基。世界全体の発電電力の約10%をまかなう規模だ。途上国でもエジプトで新たな建設が始まるなど、先進国の原発メーカーの売り込みで、新たな原発建設の動きが広がっている。発電量は米国が最も多く、中国、フランスの順。国際エネルギー機関(IEA)はこれまで、気温上昇を産業革命前から1.5℃上昇にとどめるには、原発の発電量を2050年までに現状より倍増以上とすることが必要としていた。

 

 IEAは原発について稼働中にCO2を排出しないことから、再エネとともに「クリーンエネルギー」に分類している。非化石燃料という括りだ。ただ、使用済み核廃棄物の処分問題が解決しておらず、環境NGO等は、原発を再エネと同列に扱うことに反対している。今回の米国の提案は、原発容量の拡大ピッチをあげて、50年までに3倍増とする考えだ。米国と並ぶ原発大国のフランスのマクロン大統領も「原子力は気候変動との闘いに不可欠な解決策」と強調した。

 

伊藤環境相
伊藤環境相

 

 こうした状況を前提として、伊藤環境相の発言が出た。伊藤氏は3日のNHKの番組で、COP28会合で日本政府が誓約を表明した「再エネ3倍増」公約に関連して、日本国内でも3倍増を目指すのかと問われた。同氏は「太陽光発電の導入に伴う森林などの環境破壊の問題もあり、必ずしも3倍にできる容量があるとは考えていない。なるべく伸ばそうと思っているが、明日や来年に3倍に増やすことはできない」と慎重な発言をした。

 

 そのうえで「世界で3倍にすることは必要で、発展途上国に技術供与するなどして進めたい」と述べ、新興国の排出量削減を日本が支援し、創出されたクレジットの一部を日本政府が取得する「2国間クレジット制度(JCM)」の普及を進める考えを示した。

 

 一方、西村康稔経済産業相は「再エネの導入と原子力発電が車の両輪。日本発の技術であるフィルム型の『ペロブスカイト太陽電池』などの普及を急ぐほか、原発については安全性が確認されたものは、地域の理解を得ながら再稼働を進めたい」とした。さらに、EU等が求める石炭火力発電の段階的な削減に対して、同氏は「国民生活や経済への影響なども考えながら、CO2排出を減らしていかないといけない。最終的には(火力発電の)燃料をアンモニアへと転換させることを目指したい」と付け加えた。

 

西村経産相
西村経産相

 

 経産省は伝統的に、化石燃料+再エネ+原発の3エネ源をバランスさせる「エネルギ―ミックス」の考えを提唱してきた。それを踏まえると、現在、再エネの発電シェアは電源構成の21.7%(22年度エネルギー需給実績速報値)なので、これを3倍増にすると、将来の電力消費量が拡大したとしても、原発3倍増、火力維持分とする他のエネルギーとのミックスはできなくなる。

 

 現状の原発の発電割合は5.6%。東日本大震災前の原発による発電量は現行の約5倍だったので、原発3倍増は、政府にとって「妥当な水準」になる。火力発電の割合は現在、石炭、天然ガス火力等で72.7%を占める。火力発電割合は東日本大震災後に多くの原発発電が休止したことで、一時、全体の88%まで拡大した。その後、再エネの普及と一部の原発の再稼働で、火力発電割合は震災前とほとんど変わらない水準を維持している。

 

 こうした状況を考えると、日本政府は、「原発3倍増」とする目標は現行の再稼働政策の延長で確保可能とし、火力発電についてはアンモニア転換とする「グリーントランスフォーメーション(GX)」政策に力を入れていることから、再エネについては「3倍増」の余地はないことになる。伊藤環境相が「原発より再エネ」とは言及しなかったのは、ある意味で正直な発言といえる。

 

 だが、政府がGX政策として推進する火力発電のアンモニア混焼によるCO2削減案は、アンモニア燃焼から生じる窒素酸化物の排出増問題に加えて、最終的にアンモニア燃料100%とする場合のコストが、再エネ発電よりも低くないと、経済的には成り立たない。アンモニアは石炭に比べて熱量が低いため、エネルギー換算す るとコストが割高になる。アンモニアの混焼率が高いほどの平準化発電コスト(LCOE)が高くなる。グリーン電力を使ったグリーン・アンモニアにするとさらに高くなる。コスト低下が世界的に進む再エネとは反対のベクトルが働いているのだ。

 

 日本政府が想定する「原発3倍増」「火力発電のアンモニア化での維持」のシナリオは、結局、国内の電力コストを引き上げないと実現しない。電力コストの上昇は、消費者にとって受け入れ難いだけでなく、日本の産業全体の競争力を今以上に弱める要因にもなりかねない。日本経済全体の将来の方向を見ず、現状の電力産業の維持と原発設備の再稼働を最優先する非経済的シナリオから脱さない限り、日本の脱炭素経済の展望は拓けない。

                           (藤井良広)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231203/k10014276441000.html

https://www.meti.go.jp/press/2023/11/20231129003/20231129003-1.pdf

https://www.euractiv.com/section/climate-environment/news/global-coalition-pledge-to-triple-renewables-double-energy-efficiency-improvements/