HOME10.電力・エネルギー |日本製鉄。米USスチールを買収。141億㌦(約2兆円)。グローバル一貫生産体制の強化に加え、脱炭素戦略で米社の電炉技術との融合化を強調。国際的な「脱炭素産業再編」の幕開けか(RIEF) |

日本製鉄。米USスチールを買収。141億㌦(約2兆円)。グローバル一貫生産体制の強化に加え、脱炭素戦略で米社の電炉技術との融合化を強調。国際的な「脱炭素産業再編」の幕開けか(RIEF)

2023-12-19 00:21:16

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写真は、米USSの最先端電炉ミニミル「Big River Steel」の設備)

 

 日本製鉄は18日、米国の高炉・電炉一貫の鉄鋼メーカー、USスチール(USS)を買収すると発表した。日鉄は買収の目的として、これまで進めている一貫生産体制の拡大に加え、2050年カーボンニュートラル達成に向けて、日鉄が取り組む水素還元方式とUSSの電炉ミニミル技術等との融合により、鉄鋼生産プロセスの脱炭素化取り組みを推進する、と強調。脱炭素化戦略が買収決断の大きな要因の一つであることを明らかにした。日鉄がUSS買収で脱炭素路線を強化することで、JFEスチール、神戸製鋼等の他の国内高炉メーカーの対応が焦点となってきそうだ。

 

 買収は日鉄の米国子会社の「NIPPON STEEL NORTH AMERICA, INC.(NSNA)」が買収用に設立した子会社とUSSを合併させる「逆三角合併」方式をとる。1株55㌦(7810円)でUSSの全株を取得し、完全子会社とするが、名称はUSSを維持する。取得価格は15日終値(39.33㌦)に対して40%のプレミアム(上乗せ幅)を加えた価格とする。買収総額は141億㌦(約2兆円)。買収の実行は、USSの株主総会での承認、労働組合との交渉、関係当局の承認等を条件とする。

 

 日鉄は、今回の買収の目的として、鉄鋼の一貫生産体制を拡大し、「グローバル粗鋼1億㌧体制」を構築する戦略に資するものと位置付けている。同戦略に基づき、これまでも、2019年12月にインドのEssar Steel India Limited(現AM/NS India)、2022 年3月にタイのG steelとGJ steelを買収している。特に米国市場で一貫生産拠点を持つことは「グローバル事業拠点の多角化の観点からも大きな意義のある投資」としている。

 

 加えて強調しているのが脱炭素戦略だ。日鉄は発表文で「当社とUSSは、2050年カーボンニュートラル達成の目標に向けて、これまで技術開発を推進し、それぞれ技術的な強みを持っている」と指摘。その技術として日鉄の「高炉水素還元」「水素による還元鉄製造」「大型電炉での高級鋼製造」をあげ、USSの技術として「最先端の電炉ミニミル」をあげた。

 

 一般的に電炉は、日鉄が主力とする高炉に比べ、粗鋼生産1㌧当たりのCO2排出量は0.5㌧前後で、高炉のほぼ4分の1とされる。USSは最先端の電炉設備を備えるBig River Steel(アーカンソー州オセオラ)を2019年に買収、21年には完全子会社化した。同電炉のCO2排出量は一般の電炉より性能が高く、生産1㌧当たり0.4㌧と改善されている。同設備の粗鋼生産量は330万㌧。現在、ほぼ同規模の「Big River2」を建設中で、24年下期に一部稼働し、26年にフル稼働の予定だ。

 

USSの「電炉の強み」をアピールする日鉄の資料
USSの「電炉の強み」をアピールする日鉄の資料

 

 日鉄は高炉を維持しながら、水素による還元鉄の製造や、水素還元等の導入を推進しているが、グリーン水素の安定確保と低価格化が課題だ。一方の電炉生産はすでに実用化されており、大きなコスト増を伴わずに高付加価値の自動車用鋼板等の実践的な脱炭素技術として活用できる期待がある。日鉄は「両社の先端技術を融合することによって、2050年カーボンニュートラルへの取り組みをさらに推進し、 持続可能な社会の実現に貢献していく」としている。

 

 鉄鋼業界が脱炭素化に力を入れるのは、これまで焦点となってきた石炭火力発電を含む化石燃料エネルギー依存の電力会社への環境NGO等の圧力や、政府の規制強化等が、次第に、鉄鋼やセメント等の高炭素集約型産業にも向けられている背景も影響しているようだ。産業自体が抱え込んでいる高炭素排出型構造を低炭素化・脱炭素化に転換できないと、鉄鋼の場合なら、高付加価値製品の一部は、アルミやカーボン素材等に代替される可能性も指摘され、産業としての存立基盤が危うくなるリスクも出始めているともいえる。https://rief-jp.org/ct7/141321

 

 USS買収後の日鉄の脱炭素戦略の展開が、電炉を国内市場を含めて活用しながら、段階的に高炉水素還元等に切り替えていくのか、あるいはUSS自体が高炉から電炉に切り替えてきたように、鉄鋼生産方式そのものを転換する方向に向かうのかは、まだ見通せない。しかし、脱炭素の移行技術同士も、CO2の削減力、削減コスト等により、相互に競合・競争する関係にある。日鉄のUSS買収が「脱炭素」戦略の合理性を追求する中で、同社の高炉依存体制の見直しにつながる可能性もありそうだ。https://rief-jp.org/ct4/137970?ctid=

 

 日鉄の今後の事業展開とともに、国内のライバル鉄鋼各社の経営戦略への影響も関心を集めそうだ。国内市場だけではない。欧州のアルセロール・ミタルやカナダの鉄鋼大手ステルコ、中国、インドの鉄鋼企業等の国際戦略に影響を与える可能性もある。「脱炭素」が引き金となり、高炭素集約型産業内での国際的な産業再編が進むことで、脱炭素化が加速する期待も出てくる。

https://www.nipponsteel.com/common/secure/ir/library/pdf/20231218_100.pdf

https://www.nipponsteel.com/common/secure/ir/library/pdf/20231218_200.pdf

https://www.ussteel.com/documents/40705/43725/USS+Climate+Strategy+Report+Final.pdf/