HOME10.電力・エネルギー |日本製鉄の米USスチール買収提案で、米国の労働組合・議員等は反対の動き。環境団体は「脱炭素化」の遅れに懸念。明確で迅速な「クリーンスチール戦略」の提示が打開のカギ(RIEF) |

日本製鉄の米USスチール買収提案で、米国の労働組合・議員等は反対の動き。環境団体は「脱炭素化」の遅れに懸念。明確で迅速な「クリーンスチール戦略」の提示が打開のカギ(RIEF)

2023-12-21 17:39:55

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  日本製鉄の米USスチール買収発表に対して、内外で異論が浮上している。米国内では、USスチールの従業員らが加盟する全米鉄鋼労働組合(USW)が買収反対を表明、組合の意向を踏まえて連邦議会でも共和、民主の両党議員が反対表明で動いている。一方で、環境団体はこれまで日本国内で気候変動対策に後ろ向きだった日鉄が、「今度は世界の鉄鋼業の脱炭素化を危うくする」と懸念を表明している。日鉄はこうした内外の懸念の動きをスムーズに乗り越えられるかどうか。明確な脱炭素戦略を打ち出し、「クリーンスチール」で鉄鋼業界をリードする戦略の提示がそのカギを握っているといえそうだ。

 

 USスチールが加盟するUSW(全米鉄鋼労組)のデビッド・マッコール(David McCall )国際会長は買収発表の18日、「USスチールと新日鉄の取引には失望したと言っても過言ではない」と買収に反対する姿勢を示した。

 

 同氏は声明で、その理由として「(日鉄は)USスチールを、これまで長い間とってきたのと同じ貪欲で近視眼的な態度で見ているからだ。両社とも、取引を組合に連絡してこなかった。このことは、USスチールが支配権や経営状況の変更を組合に通知することを義務付けている組合とのパートナーシップ協約に違反する」等と非難した。

 

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 組合の反対姿勢を受ける形で、米共和党の上院議員3人が19日、イエレン財務長官に対し、国家安全保障上の理由で買収を阻止するよう要請した。同党のJ・D・バンス、ジョシュ・ホーリー、マルコ・ルビオの各上院議員で「国内の鉄鋼生産は米国家安全保障にとって不可欠」と強調した。イエレン氏は安全保障の観点で対米投資を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)議長を務める。

 

  民主党でもシェロッド・ブラウン、ジョン・フェターマン、ジョー・マンチン、ボブ・ケーシーの上院議員4人が反対を表明。USスチールの本社があるペンシルベニア州選出下院議員2人も反対した。両党議員が反対を打ち出すのは、米政府の連邦取引委員会と司法省が7月に、大企業による独占を防ぐために企業の買収審査を厳格化する方針を示したことも背景にある。

 

 バイデン大統領自身、来年の大統領選に向けて重要な支持基盤である労働組合を重視する姿勢をとっており、各連邦議員の反対表明も、選挙対応の側面も色濃い。ただ、それに加えて共和、民主両党の「反対議員」は、双方での対立よりも、「日本企業に買収させていいのか」と、矛先を日本企業の日鉄に向けて、政治的成果を双方で獲得する狙いもありそうだ。

 

 一方、環境団体からも懸念が浮上している。高炭素集約型産業である鉄鋼業の脱炭素化を求める国際気候団体「スティールウォッチ」は20日、「日本国内の気候変動対策を遅らせていることで知られる日本製鉄が、今度は世界の鉄鋼の脱炭素化を危うくする懸念がある」との緊急声明を出した。

 

 それによると、「脱炭素化のためには石炭を使用する高炉を段階的に廃止する必要があるのに、日鉄は高炉生産を終了する予定を示しておらず、2050年になっても高炉を稼働する予定としている。同社の炭素排出量は今後数十年間、産業革命前からの地球の気温上昇を『2.4℃』上昇とする炭素排出経路に基づくことになる」と懸念を示した。同社への不信は、日鉄が11月にカナダの製鉄用原料炭事業への出資を表明したことも、同社は脱石炭の展望を持っていないとの判断につながっているようだ。

 

 USスチールは、高炉から電炉への切り替えを進めているが、現存で8基の高炉(うち6基は米国内操業)を抱えている。したがって買収後の日鉄は、日鉄が現在操業する10基に加えて、18基の高炉を抱えることになる。同団体は、これらを50年ネットゼロに向けて、どのようにグリーン化するのかの「明確な経路を示すトランジション計画を示すべき」と求めている。

 

 日鉄がとるべき脱炭素経路は二つに分かれる。一つは、USスチールが進行中の電炉移管政策を日本国内にも取り入れて、脱炭素鉄鋼を加速させる経路。もう一つは、現在、日鉄が国内で模索している水素還元、還元鉄等の利用による脱炭素戦略をUSスチールにも当てはめる経路。前者は日鉄の現在の高炉操業継続方針とバッティングする。後者は両社全体に、脱炭素のためのコストと時間を今以上にかけることになる。

 

 USスチールの労働組合、従業員、コミュニティ等が懸念する雇用への不安は、USスチールの経営権は日鉄に移っても、脱炭素の鉄鋼製品の市場が拡大し、工場が活況化し、雇用が確保・拡大する展望が見えてくれば、おのずと打開できる可能性がある。そうした展望を得るには、既存の石炭依存型の高炉操業からの早期転換によって、グローバル鉄鋼市場での「クリーンスチール」企業としてリーダーシップを発揮できるかにかかっているのではないか。日鉄経営陣のさらなる「決断」が求められている。

                           (藤井良広)

日本製鉄による米国強化は鉄鋼業界の気候行動を遅らせるリスク – SteelWatch

https://www.usw.org/news/media-center/releases/2023/usw-slams-nippon-plan-to-acquire-us