固定価格買取制度(FIT)での偽装バイオマス燃料買い上げ問題。国民の再エネ賦課金に盛り込まれた「過払い分」是正で、輸入商社が負担の意向を打診。これに対して経産省官僚は(?)(RIEF)
2024-11-25 17:51:14
ベトナムの大手事業者による偽装FSC認証付のバイオマス燃料が、経済産業省の固定価格買取制度(FIT)で不正利用され、年間100億円前後のバイオマス電力事業者への「過払い」発生の可能性がある問題で、同燃料を輸入した商社が板挟み状態に陥っている。商社は、FITでの国による買い取りを通じて、国内のバイオマス発電所に本来の価格よりも高額で売却していた。このため、差額分の返却を国から求められるか、あるいは販売先の発電所から訴訟を起こされる等のリスクを抱え込んだ形だ。そこである大手商社が、同省に自社が関与する差額分の返却の意向を打診したところ、「断られた」という。
同問題は、ベトナムで最大の木質ペレット製造業者のAn Viet Phat Energy(AVP)社が、FSC認証を偽装した燃料を日本の商社を通じて、日本のFIT向けに輸出していた事件だ。当時、同社は年間60万㌧以上の木質ペレットを日本と韓国に輸出しており、ベトナムの輸出企業としては最大手。同国の輸出量全体の3割弱を占めていた。
しかし、同社の燃料を使った日本国内のバイオマス発電所では燃料の質の悪さが指摘され、国内の同発電所で火災や爆発事故が頻発する原因の一つではないかとの声があがっていた。こうした不安が広がる中、国際的な森林認証制度を運営するFSCは、同社の認証マークが付いたAVPの燃料を調べたところ、2022年10月、同認証マークは偽装されていることを確認、同社をFSC認証制度から排除した。https://rief-jp.org/ct10/129368?ctid=72
同社からの輸入木質ペレットは、日本の複数の商社が輸入し、国内のJERAや既存電力会社等が運営する各地のバイオマス発電所に納入されてきた。バイオマス燃料のFITでの扱いは、「一般木質バイオマス・農産物の収穫に伴うバイオマス固体燃料」は1kWh当たり24円、「一般廃棄物、その他バイオマス」同17円、「建設資材廃棄物」同13円等と、分類される燃料の種類によって買い取り価格が異なる。https://rief-jp.org/ct5/148079?ctid=
木質ペレットは「一般木質バイオマス」に属するので、最も高い24円となる。これに対して、それ以外のバイオマス燃料や廃棄物は13~17円と価格差がある。このため、AVPは粗悪な廃棄物等を混在させた燃料を「木質ペレット」として高く販売するために、FSC認証を偽装した疑いがある。各地でバイオマス燃料を調達する商社だが、製品化された燃料にFSC認証がついていると、燃料の中身をサンプル調査することはなく、そのまま日本に輸入するという。購入するバイオマス発電業者も、中身の確認はせず、認証の確認だけで買い取るのが常という。
AVP等の輸出業者は、自社の工場での製造分が不足すると、各地の小規模工場から調達するため、品質管理がおろそかになったり、あるいは意図的に粗悪品を混在させて分量を膨らませる等のケースもあるとされる。ベトナムだけでなく、他のアジアの国々も日本のFIT制度での燃料分類による価格差や、認証マーク重視で個別検証が十分でない点を熟知しており、現在でも、各地から集めた燃料を混在させて輸出している事例が少なくないとされる。https://rief-jp.org/ct10/148688?ctid=
ベトナムから日本への木質ペレット輸出は毎年、150万㌧以上に及んでおり、このうち年間100万㌧分が本来の木質ペレットの1kWh当たり24円ではなく、質の落ちる同17円、あるいは13円のものだったとすると、業界試算では、過払い額はそれぞれ年104億円、同160億円となる。https://rief-jp.org/ct5/129862?ctid=
問題はこうした過払い金をだれが埋め合わせるかだ。FIT制度では対象となる再エネ電源ごとに経産省が発電事業者からの買い上げ単価を決め、企業、個人の電力需要家に対して再エネ賦課金(再エネ全体)として割り当てている。バイオマス認証偽装があった2020年の再エネ賦課金の単価は2.98円/kWh。2022年は同3.45円/kWh。平均的な家庭の負担額は1万円強。仮に、年160億円の過払い分があったとして、5年分まとめて各世帯に返却すると、約1500円となる。
FSCがAVPの認証マークは偽装だとしてAVPに処分措置を取った後、2022年12月に衆院環境委員会で立憲民主党の近藤昭一議員が同問題での経産省の見解を質した。これに対して、当時、資源エネルギー庁省エネ・新エネ部長だった井上隆雄氏は、「(FSCが認証偽装を発表した後)FIT等に基づく発電に(偽装燃料)が使用されている事実はないと現時点で認識している」と答えた。https://rief-jp.org/ct10/131485?ctid=
その一方で、FSCが停止措置をとるまでの燃料の動向についての実態把握も行う方針と説明した。問題はこれらの過去の「過払い分」だ。しかし、その後、経産省が過去の調査結果についての発表は見当たらない。国会質疑もそこで止まってしまったままのようだ。問題として残っているのは、この「過去の過払い分」に対して誰が責任を負うのか、という点だ。
AVPをはじめ、ベトナムからの木質ペレットの輸入業務は、日本の商社のほとんどが関与してきた。ベトナム企業と国内のバイオマス発電事業者の間を仲介する役割を担った商社にとり、偽装燃料を割高で国内に事業者に売り渡したとすれば、本来の責任は売り手のベトナム業者にあるとしても、国内での販売責任を問われる。何よりもFIT制度での再エネ電力の買い上げ資金は、賦課金として電力消費者の国民が最終的に負担する仕組みであり、国民負担にしわ寄せしたとの批判を浴びるリスクがある。
そう考えてか、ある商社が経産省の担当部局に、差額分の返還の意向を打診したという。自社で責任を負うとの決断のようだ。株主等のステークホルダーへの説明責任を意識したかもしれない。ところが、同省の担当者からの返事は、信じ難い内容だったという。「差額を受け取る制度がないため、受け取れない」ーー。
役所の感覚では、FSC認証が付与されていれば、その燃料の中身は何であれ、FIT制度での「1kWh当たり24円」に該当し、それですでに売却しているので、「差額はない」ということになるのかもしれない。しかし、FSC認証偽装の燃料が日本に輸出され、日本のいくつかのバイオマス発電所で、火災や爆発事故を起こすという問題も引き起こしている。https://rief-jp.org/ct5/148685?ctid=
行政の制度設計能力の乏しさと、制度管理力のひ弱さを、悪徳業者に見抜かれ、本来、国民が負担しなくても済む分まで、払わされてきたとすれば、仲介した商社等から、輸入分に応じて一定額の差額分を徴収し、事故処理費用に回すなり、電力料金引き下げの一部にするなどの事後対応案も一考に値する。
しかし現在の同省の対応は、そうした責任の取り方とは程遠い。自分たちの制度設計のミスを突かれるのを恐れて、FIT賦課金に素知らぬ顔で盛り込んだ「過払い分」について国民が気づくのを遅らせ、そのうちに忘れてくれるのを待つ、というスタイルにみえる。そうだとすると、同省の役人には「亡国の官僚」のマークを貼る以外にない。このマークは偽装ではない。
(藤井良広)