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初の「地球温暖化対策基本計画」案 政府が環境・経産両省の合同審議会に提示。「2050年80%削減」「国内排出権取引制度導入の検討」などを盛り込む(RIEF)

2016-03-04 21:54:09

GHG2キャプチャ

 

  政府は4日開いた中央環境審議会地球環境部会と産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会の合同会合で、COP21の国際合意を受けた温暖化対策の基本方針となる「地球温暖化対策計画」の原案を示した。同案では温暖化ガスの排出について、従来の中期目標に加えて、2050年までに現在より80%排出削減を目指す、との長期目標を掲げた。

 

 環境、経済産業両省は原案を最終調整し、一般からの意見公募などを経て5月の伊勢志摩サミットまでに閣議決定する。わが国では京都議定書(2008年~2012年)で約束した温室効果ガスを削減するため、地球温暖化対策推進法で京都議定書目標達成計画が定められていた。同議定書期間終了後は、新たに同法に基づく地球温暖化計画の策定をうたってきた。今回その全体像が示されたことになる。

 

 COP21で、日本は2020年以降の削減目標として、2030年度において13年比で26.0%削減することを公約した。今回の計画ではその案を中期目標として位置づけるとともに、最大の焦点となった「2050年の長期目標80%削減」を計画の中にどう位置づけるかが課題となった。

 

 「温室効果ガス80%削減」というのは、化石燃料をほとんど使わない低炭素社会への切り替えを意味する。このため、同日開いた合同会合でも、経済界代表の委員らは、長期目標を明記することに相次いで強い反対意見を述べた。しかし、COP21では、各国提案の削減目標値を合計しても、「2℃目標」を達成するには、さらに世界全体で300億㌧の削減が必要という認識は共有されている。

 

 また、これまで日米欧の主要国が「2050年80%削減」をサミットなどの国際会議で共通認識としてきている。わが国でも第一次安部政権を含めて、歴代政権が「80%削減」にコミットしてきた事実もある。この点について、この日の会合では、ある経済団体代表委員が「単なる政治的発言」と口走る一幕もあった。

 

 しかし、欧米では、英国が2050年排出量80%削減を法律で目標として規定しているほか、他の国も2030年目標の延長線上に位置づけているところが多い。米国は現時点では連邦議会で温暖化対策法が上程できない環境にあるが、これまで上下院で提案された温暖化対策法案は長期目標を達成するための政策導入を目指してきた。

 

 こうした内外の主要国の政治の立ち位置に加え、COP21を受けて初めてのサミットを日本で開くという状況も原案での表現に影響した可能性がある。「COP21からの後退」のイメージを、日本から発信したくないという政治配慮の可能性だ。会合で発言した経済界代表委員の言葉になぞらえれば、「単なる政治的配慮」となるかもしれないが。

 

 国の基本計画に長期目標を位置づけるということは、それを達成する政策をしっかり推進する、ということにつながる。この点で、カギを握るのが、温暖化ガスの排出削減を進める環境税、排出権取引(C&T)、固定価格買取制度(FIT)の3政策である。合同会合での論点は、環境税、C&T、なかんずくC&Tに集中した。

 

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 計画案では「(海外のC&Tの動向や、国内の温暖化対策などの)運用評価等を見極め、慎重に検討を行う」と言及した。C&T制度はすでに2005年から欧州連合(EU)が導入しているほか、スイス、ニュージーランド、ブラジル、チリ、メキシコ、米国・カナダの一部の州、韓国、中国の一部の都市などが導入している。

 

 経済界代表委員はEU・ETSが一昨年来、価格が低迷、クレジットの入札制度が先延ばしされるなどの事態であることから、同制度導入の表現に強い懸念を示した。C&Tの政策効果を重視する委員からは、米国での鉛や低公害自動車の導入などのセクターごとのC&T政策が成功し、イノベーションを引き起こした実例の指摘のほか、別の委員からも、EUの場合もEU全体の温室効果ガスの削減に効果があったとの指摘が出た。「80%削減目標の達成は容易な手段ではできない。だからこそ、政策を総動員する必要がある」などの意見も出た。

 

 排出権取引制度は、現在すでに世界の温室効果ガス排出量の9%分が同制度の対象となっており、来年には16%に拡大する見通しにある。さらに米国でオバマ大統領が提唱しているClean Power Plan(CPP)が実現すると、電力会社間のC&Tの拡大が見込まれている。http://rief-jp.org/ct4/58966

 

 そのほかの対策としては、産業界の「低炭素社会実行計画の着実な実施と評価・検証」をうたったほか、省エネ法に基づき、事業者のクラス分け制度の導入、2020年度までに新規建物の省エネ基準適合の段階的義務化、上下水道への省エネ・再エネ導入、2020年度までにLED照明の流通を100%化し、2030年度には在庫も100%、2030年までに自動車の新車販売に占める次世代自動車比率を5割~7割とする、などの多様な対策を盛り込んだ。

 

http://www.env.go.jp/press/102133.html