学者・市民でつくる「原子力市民委員会」、「原発ゼロ社会への道」を求める「2017年版政策大綱」を公刊(RIEF)
2017-12-26 21:38:24
学者や市民でつくる「原子力市民委員会」(座長・吉岡斉九州大教授)は25日、原発のない社会を実現するための政策をまとめた出版物「原発ゼロ社会への道2017-脱原子力政策の実現のために」を発表した。2014年に公表した「市民がつくる脱原子力政策大綱」に続く、市民の視点での「原子力政策」の提案だ。
2014年の『原発ゼロ社会への道 ─ 市民がつくる脱原子力政策大綱』は、脱原発政策の青写真を示すため、理念・倫理・原理を説明しつつ、あるべき制度や組織を大胆に提案した。これに対して、今回は、「現状の批判的分析に、より深く踏み込んで記述している」(同書「はじめに」より)。
第一章の「東電福島原発事故の被害と根本問題」では、政府が推進する「復興加速化」の掛け声のもとでの、住民帰還促進策について①住民の意が反映されず、被爆リスクを過小評価している②長期にわたる原子力災害に対応した設計になっていない③一方で、避難指示区域以外からの避難者への支援を打ち切っているーーなどの問題点をあげている。
さらに、福島県での健康影響調査の「欠陥」を指摘、社会・心理的不安の増幅につながっているとしている。原発事故による孤立・分断・差別等が被災者のストレスを高め関連死を招いているとして、「復興ストレス」の緩和に対する政府の責任を求めている。被災者にとっての最大のストレスは、「事故を発生させた責任」と「事故の被害を拡大させた責任」の両方が、いまだに明らかになっていない点にあり、その「無責任構造」が被災者の苦難を増幅させている、と指摘している。
被害者救済の法制度の「欠陥」も是正されないままだ。政府の原子力損害賠償指針では、被爆の健康被害に対する不安や、ふるさとを喪失した「心の被害」などは賠償の対象外とされ、国の避難指示等の有無によって賠償の内容に大きな格差が設けられるなどの「恣意性」によって被災者を分断している。指針策定の際に、被害者の意見表明の機会がほとんど設けられなかったほか、運用に際しても、加害者の東電自身が、被害者の賠償請求を査定するという、「非常識」がまかり通っている。
報告書は「被害当事者が従属的な立場に置かれる形で賠償が進められている」と指摘。東電福島事故の本質的な構造を指摘している。
第2章の「福島第一原発事故現場の実態と後始末」では、事故の経過と原因が、今日でも基本的な部分で未解明のままである、と指摘。たとえば、原子炉建屋に人間に入れないため、宇宙線ミュオンを利 用して、メルトダウンしたデブリの位置の探査が各機で行われたが、解像度が低く、十分な解析結果は得られていない、と評価している。
また、格納容器内にはロボット調査を進めている。だが、強烈な放射 線によって、ロボットのカメラのレンズが曇ったり、動作停止などの不具合が再三発生して調査は難航。国際廃炉研究開発機構によると、原子炉建屋内にはすでに 40 台超 のロボットが投入されたが、格納容器内で動けなくなり回収できなくなったものも少なくない。
事故発生から6年を経ても、原発敷地内の放射能拡散の防止策も不十分なままだ。ましてや敷地外 の広大な放射能汚染地域の除染の完了などの収束の目途が立っていない。事故サイト の処理や再発防止策を検討するための基礎情報すら把握できていない。こうした現状を考えれば、東電まかせではなく、政府や国会が全力を挙げ、公的な第三者調査機関を再設 置して調査すべき、と提言している。
結論的には、「原発を将来の発電手段として選択したのは先人の誤りだった」と断言。原発は、地域住 民に大きな不安や長期的損失をもたらすのみならず、都市住民(電力消費者)、電力会社、 原子力メーカー、政府(経産省)をも経済的に苦しめており、いわば万人を不幸にして いる、と評価している。福島原発事故を経験してもなお政府は姿勢を改めていないが、政府が国民負担で 原発を支える仕組みは限界に達している、と明言。脱原発への国策の大転換を求めている。