今年のクリスマスはサンタのソリを曳くトナカイ不足で、サンタがお家に来ないかもしれない。米海洋大気局(NOAA)の北極圏報告、温暖化の進行で、トナカイが20年間で半減していることを指摘(RIEF)
2018-12-12 15:49:08
今年のクリスマスには、サンタがお家にやって来ないかもしれない。そんな「暗い予測」が米海洋大気局(NOAA)の最新の「北極圏報告カード(Arctic Report Card )」で浮かんできた。同報告によると、2018年の北極圏の気温は観測史上2番目に気温が高く、北極圏全体の海氷面積も史上2番目に小さかった。北極圏の温暖化の進行は他の地域よりも早く、極域に生息する野生のトナカイの個体数は過去20年間で半減していることがわかった。
NOAAによると、北極圏の年間平均気温は、対象期間の2017年10月から2018年9月で、過去の平均(1981年から2010年)を1.7℃上回った。これは、1900年からの観測史上、2016年に次いで2番目に気温が高い年となった。北極圏全体の海氷面積も観測史上2番目に小さい値まで減少、ベーリング海では冬季の氷が過去最少だった。
こうした温暖化の加速によって、極域で生息するトナカイ(北米では、カリブ、欧州ではレインディア等と呼ばれる)の生息数は過去20年間で56%と半減したこともわかった。20年前の470万頭から、210万頭になっている。すでに国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで、絶滅の危険性が高い危急種(Vulnerable species)に指定されている。
22のトナカイの群れは観測下に置かれている。このうち群れの頭数が減少していないのは2つの群れだけで、5つは20年間で90%以上も個体数が減少、回復の見込みがないという。トナカイの減少は、クリスマスにサンタクロースを乗せるソリを引く頭数が足りなくなりそうというだけではない。
現実の課題として、トナカイを狩猟の対象として生活する極域のイヌイット等の民族にとって、食料難につながることを意味する。さらにトナカイを生活の一部に織り込んでいるサーミ等の先住民たちの文化にも影響を及ぼしている。
北米からロシア、ノルウェー、グリーンランドにかけて点在するトナカイの生息地は、北極圏周辺諸国による「CircumArctic Rangifer Monitoring and Assessment (CARMA) Network」で常時観測されている。これらのデータによると、生息状況は地域的に違いもある。
北米のアラスカでは、5つの群れのうち、3つの群れは2003年から2010年の間にいったん頭数がピークとなり、その後2017年までに53%減少した。ただ、カナダとの国境域に生息する群れの一つ(Porcupine)は、2001年~2016年の間に44%増となっている。温暖化の影響でエサとなる食物が豊富になった可能性もある。
だが、温暖化は寒冷地での植物の生育を促すと時に、これまで雪や氷で覆われていた地域での洪水を引き起こし、トナカイに寄生するハエや害虫の発生を高める。温度の上昇はトナカイに熱ストレスを与えるリスクも高くなる。これまでの観測結果では頭数の減少群のほうが増加群よりも圧倒的に多いことから、温暖化に伴うマイナス効果のほうが大きいとみられる。
カナダでは9つの群れが絶滅危惧状態とみなされている。またEastern Migratory Caribouの2群は「絶滅の危険」と指摘されている。ロシアでは19の群れのうち、18までが希少化し、頭数減が顕著という。グリーンランドの西部ではトナカイはツンドラの山岳地帯に生息しているが、食料不足が原因で減少が続いている。ノルウェーの南中央部に生息するトナカイの頭数は2002年以来、どちらかというと安定的に推移しているという。
NOAAは報告の中で、「北極圏の大気と海洋の継続的な温度上昇は、予測された形だけでなく予想外の形でも、環境システムに広範な変化を引き起こしている」「新たな、急速に顕在化する脅威が形を成しつつあり、今後起こり得る環境変化の幅の不確実性を浮き彫りにしている」と警告している。