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温室効果ガス排出のシナリオ分析に基づき、経済的被害額を推計。今世紀末には最悪シナリオで世界のGDPの3.9~8.6%相当。最大年788兆円。国立環境研究所などの研究グループ(RIEF)

2019-10-01 10:40:30

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 国立環境研究所や東京大学などの研究グループは、温室効果ガス排出のシナリオ分析に基づいて、温暖化による経済的被害額を推計した。その結果、  最も悲観的な将来シナリオでは、21世紀末に生じる年間被害額は世界全体のGDPの3.9~8.6%相当(3兆3000億㌦~7兆3000億㌦=357兆円~788兆円)と推計した。パリ協定の2℃目標を達成したうえで、地域間の経済的な格差等が改善された場合の被害額はGDPの0.4~1.2%に抑えられる。

 

   特に2℃目標を達成できると、途上国では社会経済状況の改善によって被害額(対GDP比)を小さく抑える効果があることも示された。研究グループは、温室効果ガスの排出削減対策の取り方や社会経済状況の変化など、人類が選択できる要因が、将来の温暖化被害に大きな影響力を持つことを示唆している、と指摘している。研究成果は、気候変動学術誌「Nature Climate Change」掲載された。

 

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 これまで、温暖化による影響は多くの分野にわたるため、その推計を統一的な枠組みで、かつ全世界を対象に実施することは困難とされてきた。特に、将来にわたる温暖化対策の取り方や、将来の社会経済状況(人口や経済活動水準・規模など)によって被害の程度は変わる。

 

 一方で、将来の気候予測には不確実性も存在する。これらの要因のうち、どの要因がどの程度、被害額に影響するかという定量的な評価はほとんど行われてこなかった。そこで研究グループは、複数分野にわたる世界全体での温暖化による経済的な被害額の推計とともに、被害額の推計結果に対する各要因の寄与の定量化を行った。

 

 研究では、温暖化によって影響を受けると考えられる主要な9分野(農業生産性、飢餓、暑さによる死亡、冷暖房需要、労働生産性、水力発電、火力発電、河川洪水、海面上昇)を対象に被害額を推計した。

 

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   将来の温室効果ガス排出量や社会経済状況については、RCPs(Representative Concentration Pathways)とSSPs(Shared Socioeconomic Pathways)の両シナリオを組み合わせた。RCPsは温室効果ガスの排出量のシナリオで、RCP2.6(2℃目標)、RCP4.5(中間)、RCP6.0(同)、RCP8.5(BAU)の4種類で評価した。

 

 もう一方のSSPsは、将来の社会経済状況のシナリオで、SSP1からSSP5までの5種類のシナリオを評価した。仮に気候の条件が同一でも、気温上昇の影響を強く受ける地域に、どのくらい人が住んでいるか、資産がどのくらい存在するかによって人間社会が受ける被害の大きさは変わるためだ。SSPsには国別の人口、国の豊かさ、技術レベルなど様々な項目が含まれる。

 

   また気候予測における不確実性を考慮するために、5種類の異なる気候モデルの計算を行った。各分野での被害額の換算は、3つの方法を使った。海面上昇などの物理的に計算される影響を直接被害額に換算する方法と、経済モデル方法、統計的生命価値の評価法の3種類。

 

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 分析の結果、各シナリオ(SSPとRCPの組合せ)で推計された、21世紀末(2080~2099年)での全世界の温暖化被害額(対GDP比)の推計では、いずれのSSPsの下でも気温の上昇が大きいほど、被害額が大きくなることがわかった。最も悲観的なシナリオ(SSP3-RCP8.5)では、被害額は世界全体のGDPの3.9~8.6%相当となった。

 

 一方で、パリ協定の2℃目標を達成し、かつ、地域間の経済的な格差等が改善されるシナリオ(SSP1-RCP2.6もしくはSSP2-RCP2.6)では、被害額は世界全体のGDPの0.4~1.2%相当に抑えられる。

 

 同じ条件(同一のSSPやRCP)であっても、地域によって受ける影響の大きさは大きく異なる。同一のRCP(気候条件が同一)の下でSSPの違いが被害額に与える影響も地域によって大きく異なる。たとえば、被害額はアフリカでは大きく、北米では比較的小さい。社会経済状況の改善(1人当たりGDPの増加)が被害の軽減にどの程度効果があるかも、地域によって大きな差がある。

 

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 研究グループは、特にアフリカなどの途上国の占める割合が多い地域では、温室効果ガス排出削減によって地球温暖化を防ぐだけでなく、社会経済状況を改善することが被害軽減のために重要、と指摘している。

 

 温室効果ガスの排出削減や社会経済状況の改善などの人為的な要因と気候予測の不確実性が、被害額の推計結果に及ぼす影響は、比較的近い将来(2020~2039年)は、気候予測の不確実性が大きな割合を占める。すなわち、温暖化対策の効果よりも、気候予測の不確実性の方が大きく、対策の効果は必ずしも明確ではない。しかし、この関係は21世紀の中盤には逆転し、以降は人為的な要因の占める割合が大きくなっていく(2050~2069年では63%、2080~2099年では78%)。

 

 研究グループはこれらの結果から、中長期的には、気候モデルの違いによる不確実性を考慮してもなお、人為的な温室効果ガスの排出削減や社会経済状況の改善は、温暖化による被害を大きく軽減させる効果があることを示す、と指摘している。

 

https://www.nies.go.jp/whatsnew/20190925/20190925.html